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二章 新しい自分
14-3 花火と恋は似ていると、誰かが言っていた
しおりを挟む「はぁ~。いっぱい食べたね」
「蜜希さんは食べすぎですよ」
「え、そう?」
お腹を擦りながら首を傾げる蜜希さんに、俺は「そうですよ」と答える。
蜜希さんは「そうでもないでしょ。たこ焼きと唐揚げとりんご飴と……」と指折り数えていく。
片手の指が全部折れたところで、蜜希さんの手が止まった。
「本当だ……すっごい食べてる……!」
「ふはっ」
今気づきました、と言わんばかりの顔に、俺はつい吹き出す。
「だから言ったじゃないですか」と告げれば、「だってどれも美味しかったから……」と恥ずかし気に視線を逸らされる。
「確かに全部美味しかったですよね。海鮮系も多くて新鮮ですし」
「でしょ?」
「でも、イカ焼きの争奪戦に入って行った時は、本当に驚きました」
俺の言葉に、「あー、あれねー。惜しかったなぁ」と蜜希さんが呟く。
イカ焼きの屋台で行われた、イカの争奪戦。
その日一番の大きさのイカだとかで、『じゃんけん大会で一位になった人にプレゼント!』と屋台の店主が急に始めたのだ。
聞きつけた蜜希さんが「あれ! 食べよう!」と俺の腕を引き、俺たちは参加することに。
「まあ、俺はすぐに負けてしまいましたけどね。蜜希さんは最後まで残ってましたし」
「暁月くんが弱すぎるんだよ」
「仕方ないじゃないですか。都会っ子はああいうの慣れてないんです」
気後れしているうちに、負けが確定してしまっていた。
(今思い出しても情けない)
当時の事を思い出して、頬を掻く。蜜希さんは「都会っ子って」と笑っていた。
蜜希さんはじゃんけんに強いようで。
どんどん勝ち進み、最後のタイマンまで残ることが出来た。
しかし、残念ながらそこで負けてしまい、巨大イカ焼きは手に入らなかったのだ。
そのため、蜜希さんの手には普通サイズのイカ焼きが握られている。
「食べる?」
「え?」
「イカ」
「じっと見てるから欲しいのかと思って」と言われる。
(欲しくて見てたわけじゃないんだけど……)
俺は差し出されるイカを見る。
頭の半分を齧られているイカ。
つまり、これは蜜希さんとの間接キスのチャンス――――
「いらない?」
「食べます」
俺は食らいついた。
イカの弾力と、じゅわっとした肉厚感が口の中に広がる。
香ばしい香りとジューシーな味に、俺は舌鼓を――打つフリをする。
(蜜希さんと間接キス、蜜希さんと間接キス、蜜希さんと……)
もぐもぐとイカを咀嚼する。
美味しいはずなのに、なぜだろうか。味がしない。
「美味しい?」
「はい、甘くて美味しいです」
「? 甘い?」
キョトンとする蜜希さん。
俺は「甘いですよ、凄く」と口早に告げて、「次、行きましょう」と蜜希さんの手を引く。
蜜希さんはくすくすと笑って、俺の隣を歩き始める。
いつでも触れられる位置に蜜希さんがいる。
そのことに、俺は舞い上がりそうなほど嬉しかった。
「蜜希さ――」
振り返り、声をかけようとして――大きな破裂音が遮った。
歓声が広がる。
一瞬で散った花火に、俺は目を奪われた。
(で、っか)
それに、びっくりした。
自分の心臓の音がついに外に出てきてしまったのかと思った。
「わあ、相変わらず凄いねぇ」
「……」
「……暁月くん、花火見るのは初めて?」
「はい」
俺はこくりと頷く。
正確に言えば、小さなころは見たことがあるし、家の窓から遠目に見たことはある。でも――。
「ここまで大きいのは、初めてです」
俺は無意識に呟いていた。
蜜希さんが「そっか」と呟く。
その横顔に、俺は込み上げる感情を抑えられなくなっていた。
「……蜜希さん」
「んー? なに?」
「好きです」
パァン。
花火が大輪の花を咲かせる。
俺は蜜希さんを抱き寄せていた。蜜希さんの持っていたイカ焼きが地面に落ちる。
「暁月く――」
「ずっと、好きでした。たぶん、出会った時から、ずっと」
強く蜜希さんを抱き締める。
腕が震える。
いつも感じていた甘い香りは、緊張のせいか全然感じられなかった。
「……それは、僕がオメガだから?」
蜜希さんの静かな声が問う。
俺は首を振った。
「そんなことで俺が人を好きにならないってこと、蜜希さんが一番よく知ってるじゃないですか」
「まあ……うん」
そうだったね、と蜜希さんが呟く。
俺は緊張で頭が真っ白になっていくのを感じた。
伝えたいことがたくさんあるのに、どれから伝えればいいのか、わからない。
「……暁月くん。僕は――」
「わかっています。蜜希さんに大切な人がいること、その人が、いい人だってことも、知っています。それでも俺は――――蜜希さんが、好きです」
蜜希さんは何も言わない。
以前はそれが心地よかったのに、今は胸が張り裂けそうなくらい沈黙が痛い。
「……ごめん」
小さく呟かれた三文字。
――それが、答えだった。
「……いいんです、分かってたことですから。それより、聞いてくれて、ありがとうございます」
「……うん」
俺はゆっくりと腕を離す。
離れがたいと心が叫ぶが、無視して離れた。
『彼に触れていいのはお前じゃないんだぞ』と内心で呟きながら。
沈黙が落ちる。
居た堪れない雰囲気に、俺は何かを言おうとして――言葉が見つからなかった。
きっと蜜希さんも同じなのだろう。
旋毛が見えるほど俯いた彼は、何を考えているのかわからない。
俺は落ちたイカ焼きを拾い上げた。
「イカ焼き、落ちちゃいましたね」
「……うん」
「今なら空いてるでしょうし、俺買ってきます」
蜜希さんの返事はなかった。
でも、それでいい。
(今声をかけられたら、俺はきっとみっともなく縋ってしまう)
蜜希さんをさらに困らせることになってしまう。
それだけは嫌だった。
人の間を掻き分け、足早に歩いていく。
引き摺った雪駄がコンクリートに引っかかり、俺はバランスを崩した。
「うわ、マジか。情けなっ」
この歳になって転ぶなんて。
俺は立ち上がろうとして――体に力が入らないことに気が付く。
震える手を見下げれば、ポツリと水滴が落ちた。
「きっつ……」
わかっていたことだ。
舞い上がった自分が悪い。……それでも。
「受け入れて欲しかった、なんて、我儘すぎるよなぁ」
俺は歯が砕けるんじゃないかと思うほど、強く噛み締めた。
花火の歓声は遠くに聞こえる。
祭りはクライマックスに差し掛かっていた。
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