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四章 散らばった真実をかき集めて
28-2 形勢逆転
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とにもかくにも、許しは得た。
俺は回した腕に力を込めようとして、蜜希さんに制される。
今度はなんだと顔を上げれば、蜜希さんがしっしっと手を振っていた。
「え?」
「いいから」
蜜希さんの低くなった声に、俺は面食らう。
(何、今の声)
初めて聞いた。色っぽい。大人の男って感じだ。ずるい。
フリーズした俺の身体を蜜希さんが押す。ソファの中腹辺りに座っていた俺は、慌てて奥まで座り直した。
すると蜜希さんの膝が足の間にどんっと割り込んでくる。
ひゅっと息を飲んだ。
「蜜希さん?」
「しー」
蜜希さんの指が俺の口元に押し付けられる。そのまま、彼の手が俺の頭を抱え込んだ。
顔が蜜希さんの胸元に押し当てられ、俺は混乱する。
「あ、の」
「何? 文句あるなら離れるけど?」
「ないです」
即座に否定をして、俺は目を閉じた。
いい匂いがする。
蜜希さんの穏やかな心音が心地いい。温かい体温に、疲れがどっと押し寄せて来る。
俺は無意識に蜜希さんの腰を引き寄せた。密着度が増し、細い身体が驚きに跳ねる。
「ちょっ、暁月くん!」
「大丈夫です。これ以上は力入れないので」
細い首元に鼻先を埋め、息を吸い込む。
甘い香りに勘違いしそうになる本能を抑え込む。出来るだけフェロモンじゃない香りに意識を向け、呼吸を繰り返す。
最初は身じろぎしていた蜜希さんも、諦めたのかじっとして動かない。
蜜希さんに触れている部分に全力で集中していれば、肩を叩かれた。
「暁月くん、三分経ったよ。放して」
「……」
「こら。もう二度とやってあげないよ」
俺は渋々手を離した。
見上げた蜜希さんは何とも言えない顔をしていた。
じっと見つめ続けていれば、わしゃわしゃと頭を撫でられる。
「み、蜜希さっ」
「ほら。さっさとご飯食べて、お風呂入って来な」
パッと手が離れた時、蜜希さんはいつも通りに戻っていた。
するりと腕の中からいなくなってしまった彼を追いかけそうになり、俺はぐっと堪える。
(もう、してくれなくなるのは嫌だ)
そのためには、此処で追いかけるべきじゃない。
俺は何度も自身に言い聞かせると、残りのご飯を一気に平らげた。
正直、さっきのミネストローネで満足はしていたが、蜜希さんが俺の為に作ってくれた物を残すことはしたくない。
腹が膨れた後は、風呂に入る。
ちゃんと隅々まで洗い、髪を乾かすまでした俺は褒められてもいいと思う。
寝室に向かえば、すでに布団の上で蜜希さんが待っていた。
手にはこの前俺が買ってきた本が開かれている。足元には携帯ゲーム機も鎮座していた。
「おかえり、暁月くん。ちゃんと髪乾かしたんだ?」
「……はい」
「おいで」
突然の甘い呼びかけ。
俺はぎこちない動きで蜜希さんの傍に向かう。座れと促されたので、俺は床に正座した。
「何で正座なの?」
「何となく……?」
「ふーん」
蜜希さんは興味なさそうに呟くと、俺の頭に手を乗せた。
そのまま前後に動かす。俺は何をされているのか、理解が追い付いていなかった。
「よしよし。ちゃんと僕の言ったこと出来てえらいねー」
「っ」
「暁月くんが頑張り屋なのは知ってるけど、あんまり根詰めすぎないようにね」
蜜希さんがふわりと微笑む。
その笑顔に、俺は込み上げて来る激情を感じた。
(――嗚呼、やっぱり、好きだ)
堪らなく蜜希さんが好きだ。
俺は蜜希さんを抱き締める。
驚き、怒る蜜希さんがバシバシと俺の肩を叩く。それさえも心地よくて――俺はそのまま意識を失った。
気付いた時にはもう朝だった。
視界いっぱいに映る蜜希さんの顔に耐え切れず、俺の情けない悲鳴が響いた。
「おはよう、暁月くん。朝から素晴らしい悲鳴をありがとうね」
「本当に、すみません……」
「冗談だよ」
にっこり。
微笑む蜜希さんに、俺は顔を上げられずにいた。
(蜜希さんとの約束を破ってしまった……)
三分だけだって言ったのに。
二度目の抱き着きに、朝までという長時間の拘束。
(あの時、『もう二度としないよ』って言ってたし、もう許可してくれないかも……)
最悪嫌われていても可笑しくない。
「み、蜜希さ――」
「ああ、昨日の事は大型犬に抱き着かれたと思って忘れてあげるから」
「……え?」
「今日も大学と仕事なんでしょ。頑張ってね」
蜜希さんは優しく微笑む。
俺のしたことを見逃してくれる上、励ましまで。
「っ……俺、今なら世界征服できそうです」
「そうすると僕、魔王の手下になるの? やだなぁ」
「勇者でもいいですよ」
「勇者は世界征服しないだろ」
俺は話しながら、口元を覆う。
今、自分はきっと、かなり、気持ち悪い顔をしているだろう。
(これ以上好きにさせて、どうするつもりなんですか)
そう言いたいのを堪えて、俺は今日も地獄へと繰り出す準備をしていた。
――鳴り響く着信音に、俺はゆっくりと振り返る。
震えるスマートフォンに、嫌な予感が全身を駆け巡った。
俺は回した腕に力を込めようとして、蜜希さんに制される。
今度はなんだと顔を上げれば、蜜希さんがしっしっと手を振っていた。
「え?」
「いいから」
蜜希さんの低くなった声に、俺は面食らう。
(何、今の声)
初めて聞いた。色っぽい。大人の男って感じだ。ずるい。
フリーズした俺の身体を蜜希さんが押す。ソファの中腹辺りに座っていた俺は、慌てて奥まで座り直した。
すると蜜希さんの膝が足の間にどんっと割り込んでくる。
ひゅっと息を飲んだ。
「蜜希さん?」
「しー」
蜜希さんの指が俺の口元に押し付けられる。そのまま、彼の手が俺の頭を抱え込んだ。
顔が蜜希さんの胸元に押し当てられ、俺は混乱する。
「あ、の」
「何? 文句あるなら離れるけど?」
「ないです」
即座に否定をして、俺は目を閉じた。
いい匂いがする。
蜜希さんの穏やかな心音が心地いい。温かい体温に、疲れがどっと押し寄せて来る。
俺は無意識に蜜希さんの腰を引き寄せた。密着度が増し、細い身体が驚きに跳ねる。
「ちょっ、暁月くん!」
「大丈夫です。これ以上は力入れないので」
細い首元に鼻先を埋め、息を吸い込む。
甘い香りに勘違いしそうになる本能を抑え込む。出来るだけフェロモンじゃない香りに意識を向け、呼吸を繰り返す。
最初は身じろぎしていた蜜希さんも、諦めたのかじっとして動かない。
蜜希さんに触れている部分に全力で集中していれば、肩を叩かれた。
「暁月くん、三分経ったよ。放して」
「……」
「こら。もう二度とやってあげないよ」
俺は渋々手を離した。
見上げた蜜希さんは何とも言えない顔をしていた。
じっと見つめ続けていれば、わしゃわしゃと頭を撫でられる。
「み、蜜希さっ」
「ほら。さっさとご飯食べて、お風呂入って来な」
パッと手が離れた時、蜜希さんはいつも通りに戻っていた。
するりと腕の中からいなくなってしまった彼を追いかけそうになり、俺はぐっと堪える。
(もう、してくれなくなるのは嫌だ)
そのためには、此処で追いかけるべきじゃない。
俺は何度も自身に言い聞かせると、残りのご飯を一気に平らげた。
正直、さっきのミネストローネで満足はしていたが、蜜希さんが俺の為に作ってくれた物を残すことはしたくない。
腹が膨れた後は、風呂に入る。
ちゃんと隅々まで洗い、髪を乾かすまでした俺は褒められてもいいと思う。
寝室に向かえば、すでに布団の上で蜜希さんが待っていた。
手にはこの前俺が買ってきた本が開かれている。足元には携帯ゲーム機も鎮座していた。
「おかえり、暁月くん。ちゃんと髪乾かしたんだ?」
「……はい」
「おいで」
突然の甘い呼びかけ。
俺はぎこちない動きで蜜希さんの傍に向かう。座れと促されたので、俺は床に正座した。
「何で正座なの?」
「何となく……?」
「ふーん」
蜜希さんは興味なさそうに呟くと、俺の頭に手を乗せた。
そのまま前後に動かす。俺は何をされているのか、理解が追い付いていなかった。
「よしよし。ちゃんと僕の言ったこと出来てえらいねー」
「っ」
「暁月くんが頑張り屋なのは知ってるけど、あんまり根詰めすぎないようにね」
蜜希さんがふわりと微笑む。
その笑顔に、俺は込み上げて来る激情を感じた。
(――嗚呼、やっぱり、好きだ)
堪らなく蜜希さんが好きだ。
俺は蜜希さんを抱き締める。
驚き、怒る蜜希さんがバシバシと俺の肩を叩く。それさえも心地よくて――俺はそのまま意識を失った。
気付いた時にはもう朝だった。
視界いっぱいに映る蜜希さんの顔に耐え切れず、俺の情けない悲鳴が響いた。
「おはよう、暁月くん。朝から素晴らしい悲鳴をありがとうね」
「本当に、すみません……」
「冗談だよ」
にっこり。
微笑む蜜希さんに、俺は顔を上げられずにいた。
(蜜希さんとの約束を破ってしまった……)
三分だけだって言ったのに。
二度目の抱き着きに、朝までという長時間の拘束。
(あの時、『もう二度としないよ』って言ってたし、もう許可してくれないかも……)
最悪嫌われていても可笑しくない。
「み、蜜希さ――」
「ああ、昨日の事は大型犬に抱き着かれたと思って忘れてあげるから」
「……え?」
「今日も大学と仕事なんでしょ。頑張ってね」
蜜希さんは優しく微笑む。
俺のしたことを見逃してくれる上、励ましまで。
「っ……俺、今なら世界征服できそうです」
「そうすると僕、魔王の手下になるの? やだなぁ」
「勇者でもいいですよ」
「勇者は世界征服しないだろ」
俺は話しながら、口元を覆う。
今、自分はきっと、かなり、気持ち悪い顔をしているだろう。
(これ以上好きにさせて、どうするつもりなんですか)
そう言いたいのを堪えて、俺は今日も地獄へと繰り出す準備をしていた。
――鳴り響く着信音に、俺はゆっくりと振り返る。
震えるスマートフォンに、嫌な予感が全身を駆け巡った。
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