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四章 散らばった真実をかき集めて
29-2 息つぎ
しおりを挟む「素晴らしい施策を楽しみにしている」と祖父は笑う。
(心にもないことをよく平気で言えるな)
話は終わりだと告げられ、俺は社長室から追い出された。
重厚な木の扉が重々しい音を立てて閉じられる。俺は赤い絨毯を荒々しく踏んで、エレベーターのボタンを押した。
すぐに迎えに来た鉄の箱に入り、一階を押す。
ガンッと箱の側面を殴り、俺は全力で舌を打った。
「あんのくそジジイ……」
腹の底からどす黒い感情が言葉となって溢れ出る。
握りしめ続けていた手の平がヒリヒリと痛んだ。
視線を落とせば、爪の痕がくっきりと残っている。
あのまま殴り飛ばしてやればよかった。そうすればきっとこの気持ちもすっきりしたのに。まあ、その場合最悪の事態になっていたのは確実だが。
でも、今回ばかりは本気で頭にキた。
我慢した自分を、誰かに褒めて欲しいとすら思う。
欲を言うなら蜜希さんに褒められたい。
頭を撫でて、膝枕もしてもらって。『これ、僕がする意味ある?』なんて不思議そうな顔で見下ろされたい。
「はー……帰りたい」
一面だけガラス戸になっているところから、地上を見下ろす。
エレベーターはもうすでに半分下がっていたらしい。街歩くサラリーマンを上から見下ろす。
ぼうっとしながら見ていれば、しばらくしてポーンと気の抜けた音がした。扉が開いていく。
出社してきたサラリーマンたちが俺の代わりに次々エレベーターへと入っていく。
こんな会社の何がいいのやら。
給料か、仕事内容か。
もう何でもいいから、この人たちの幸せを確保した上で、この会社が潰れて欲しい。
そんな無茶苦茶なことを考えながら、俺はビルを後にした。
覚の見送りはなく、俺はビルの前にいた送りの車を断って、歩いて最寄りの駅に向かった。
これ以上、祖父の息がかかった人間と一緒に居たくなかった。
地下鉄に乗りながらスマートフォンを開けば、蜜希さんからの連絡が入っていた。
『大丈夫?』と簡素な一言に、荒んでいた心が整えられていくのを感じる。
大丈夫ですよ、と返せば、地下鉄だというのにすぐに蜜希さんから返事が来た。『よかった』という一言と、安心したようなうさぎのスタンプ。
連絡先を交換してから少しして、スタンプを使わない蜜希さんに俺が贈り付けたものだ。
それからというもの、時々こうしてうさぎのスタンプを使ってくれている。今度また何か贈ろう。
どれがいいだろうか、と調べながらも、頭の中に渦巻くのは、祖父と交わした条件についてだ。
前年度の百五十パーセントの売り上げなんて、今考えてもやっぱり無茶苦茶だ。どんなブーストを使っても追いつける気がしない。そもそも、去年の業績が例年の二百パーセント以上だったわけだし。
(何か……って言っても、あるわけないよな)
とりあえず、帰ってから詳しく考えよう。
俺は半ば逃避するように、蜜希さんとの連絡に勤しんだ。
彼の大切な人を、場所を、俺は絶対に守るのだと覚悟を新たにしながら。
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