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番外編
バレンタイン2026 ~愛しさと幸せの味~ ①
しおりを挟む「暁月くんってさぁ……もしかしてすごくモテたりする?」
「えっ?」
――大学の帰り。
暇を持て余した蜜希さんが校門に立っていて、さらには「暁月くんを迎えに来たよ」と言ってくれたことに、平静を装いながら心の中で喜びの舞を踊っていた俺は、唐突な質問に首を傾げた。
「えっ、と……どうでしょう。まあ、普通に声は掛けられたりしますよ。でも、アルファだとこんなものなんじゃないですか?」
「ふーーーーん」
蜜希さんは気のないような声で返事をする。
(え、なんだこれ)
羨ましがられているのか、それとも憎たらしいと思われているのか。
「な、何ですか?」と問えば、「別にー? 聞いてみただけ」と返された。
口を尖らせる彼に、俺はピンとくる。……間違いない。
これは拗ねた時の反応だ。
蜜希さんが口を尖らせる時――それは拗ねている時か、俺の反応を見て揶揄っているときだけだから。
(いや、なんで?)
そう、わかったとて。
俺は別の疑問に悩まされる。
蜜希さんが拗ねる理由なんてあったか? いや、ない気がする。
自分はもらっていないのに、俺が貰っているのが羨ましかった?
……いや、そんなことで妬むような人じゃない。
それじゃあ、俺みたいな人間が貰っているのが気に食わなかったとか?
……気持ちはわからなくないが――むしろ俺としては、毎年自分なんかに渡す人間の気が知れない――蜜希さんはそんなことを気にするだろうか。
否、するわけがない。
なんなら全力で揶揄ってくるだろう。
『チョコたくさんもらうなんて、流石アルファだねー』くらいは言ってくる。
「……蜜希さんって、チョコ好きでしたっけ?」
「は?」
「あ、いえ。何でもないです」
絞り出したのが、『蜜希さん、チョコ大好物説』。
しかし、それもどうやら俺の勘違いだったらしい。
(え、じゃあ何故?)
何故蜜希さんが拗ねるような事態になっているのか。
考えても考えても、答えが出ない。
ええっと……と考えていれば、ふと蜜希さんの手元が見えた。
可愛らしいラッピングのされた紙袋がぶら下がっている。中には丹精込めて包んだであろう甘い香りのする物が、ひぃ、ふぅ、みぃ……とりあえず沢山入っていた。
どう見ても、通りすがりの人から貰っただけとは、思えない。
(蜜希さんこそ、大学前で立ってただけで、なんでそんなに貰ってるんですか)
口にしなかった自分は、褒められるべきだと思う。というか、俺が拗ねたい。拗ねていいだろうか。
「暁月くんは、チョコ、好き?」
「えっ?」
「好き?」
蜜希さんが問いかけて来る。
重ねて強調される言葉に意図を読み取れないまま、俺は頷く。
「まあ……普通に? 嫌いじゃないですよ」
「へぇ」
蜜希さんはそれだけ言うと、口を噤んでしまった。
(えぇ?)
何もわからない。一体全体、どういうことなのだ。
蜜希さんの横顔を伺い見る。当然かもしれないが、何も読み取ることは出来なかった。
首を傾げたまま、俺たちは並んで帰路を歩いていく。
電車に乗り込んで、家の最寄り駅に着いても、蜜希さんとの間に会話は無かった。
(だんだん、怒られている気分になってきた……)
悪い事なんてしていないはずなのに、流れる空気が重たいだけで参ってくる。
せめて空気をもう少し軽くしたいと無言の蜜希さんを盗み見ていれば、ふと、蜜希さんの奥にあるショーウィンドウと目が合った。
「あっ」
「ん?」
「あ、いえ」
俺は咄嗟に誤魔化す。
蜜希さんはそれを意に介さず、俺の視線を追いかけた。
振り返った彼の目には、きっと黒いうさぎが目に入ったことだろう。蜜希さんの足が止まる。
「これ、暁月くんがくれたうさぎに似てるね」
「似てるっていうか……たぶん同じブランドだと思います」
ショップの看板を見つめながら、おずおずと告げる。
「へぇ、専門ショップなんてあるんだ」と呟いた彼に、俺も同意する。
「入ってみる?」
「えっ」
予想外の言葉に、俺はフリーズする。
……さっきちょっと見えた店内には、女性の姿ばかり。
蜜希さんはともかく、俺が入るのはどう考えても場違いだろう。
「い、いえ。俺は遠慮し――」
「あ。ほら、バレンタインイベントやってるって」
「あ、ああ。時期ですからね……って、蜜希さん?」
蜜希さんは何故か店のドアを開けていた。
……俺の声は、どうやら届いていなかったらしい。
こうなれば入るしかない。
俺は腹を括って、蜜希さんの背を追って店の中に入った。
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