逃げた先に、運命

夢鴉

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五章 アルファの家系

38-4 過熱

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 未だ興奮が冷めていないのだろう。
 蜜希さんの顔は赤く、肌の温度が熱い。瞳も熟れているし、さっきから寂しげに足がすりすりと寄せられてきている。
(つらそうだな)
 そう思った時にはもう、言葉が口を突いて出ていた。

「手伝いくらいなら、しましょうか?」
「は?」

 跳び上がったような声が聞こえる。奇怪なものを見るような目で、彼は俺を見上げた。
 そして、さっきよりも鋭い視線でこちらを見る。

「……暁月くんって、ひどい男だね」
「俺も、今同じこと思ってました。でも、なんていうか……今なら、大丈夫だと思うんです」

 訝し気な視線が俺を射抜く。気持ちはわかる。何を言っているんだと思ってるんだろう。
 俺だって思ってる。――でも。

「俺で手伝えることがあるなら、手伝いますよ」

 最後までは出来ないし、しないけど、蜜希さんの身体を軽くすることくらいはしますよ。
 そういうニュアンスで伝えた。ちゃんと伝えられたのかはわからない。でも数分後、言われた言葉に俺はちゃんと伝わったのだと安心した。

「……なら、手伝ってよ」

 蜜希さんは微笑む。
 どくんと心音が鳴り響く。溢れるのは、達成感にも優越感にも近いものだった。

(蜜希さんが、俺を選んだ……!)
 他でもない、自分自身の意志で。
 俺は喜びに舞い上がりそうだった。ドクドクと心音が早鐘を打つ。

 込み上げて来る熱に、顔が赤くなっていく。
 汗が噴き出て、一人だけ真夏の太陽の下にいる気分だ。今、世の中は冬なのに。

 俺は気づいた時には蜜希さんを見下げていた。
 両腕は彼を囲うように顔の両脇に立てている。驚いたように目を見開く姿も、愛おしい。

「蜜希さん……本当に、いいんですか」
「暁月くんが言ったんじゃん」

 確かにそうだ。だけど、拒否することだって出来たはずで。
 けれど、俺は言わなかった。『じゃあいいよ』と拒否されるのが怖かったからだ。

 俺は蜜希さんの下腹部に触れる。
 ゆっくりと撫でるようにまさぐり、その更に下へと手を動かした。

「っ、!」

 びくんと跳ねる蜜希さんの姿。その様子に、視界が集中していく。
(蜜希さん、蜜希さん……)

 白い肌が眩しい。
 手に吸い付くような感触が生々しくて、鼻血が出そうだった。

 触れたソコは、さっき膝に当たっていたのと同じくらい硬くなっていた。
 ずっとがまんしていたのかと思うと、申し訳ない半分、エロいなという感想が半分。

 上下に擦っていけば、呼吸の温度が上がっていく。

「んん……あ、っつ……」
「っ、み、つき、さん」
「んぁっ、な、に」

 あまく見上げて来る、視線。
 なけなしの理性が、塵となって崩れていくのを感じる。

「俺も、いいですか」
「う、ん……?」

 俺は自身を蜜希さんの先端に擦りつけた。
 服を着たまま、的確に先端を擦るように腰を動かせば、耐え切れなかった嬌声が零れていく。

「ちょっ、まっ、! んんっ! あか、つきく、ん……っ!」
「っ、は、きもちいい、ですね」

 揺れる視界の中、こくこくと頷く。
 それが嬉しくて、たまらなくて。

 腰を動かす速度が速くなる。
 折り重なるようにして体を抱き締め、無我夢中で腰を振り続けた。

「はっ、蜜希さ、んっ!」
「あ、かつ……きく、んっ、!」

 ドクンと下半身で大きく脈を打つのを感じる。
 蜜希さんのパンツが濡れ、じわじわと熱を広げていく。達したのだと理解するのに、そう時間はかからなかった。
 自分も同時に達していたから。

「はっ……はっ……」

 キーンと細い耳鳴りが遠くでする。
 夢中で貪ってしまった快楽が静かに引いていくのを感じて、俺は理性が駆け戻って来た。

(……まずい。やらかした)
 恐る恐る腕の中を見れば、真っ赤な顔で、とろけた表情でこちらを見つめて来る蜜希さんと目が合う。
 髪が汗で額に張り付き、乱れた服から白い肌が垣間見える。
 あまりの光景にごくりと息を飲んだ。

「み、つきさ……大丈夫、ですか」
「あかつきくん、ナカ……っ」

 ナカ、さわって。

 急にぶっかけられた、熱湯。
 熱さにぐらりと大きな眩暈がし、同時に腹の奥から欲という欲が全速力で駆け上がって来る。
 自分で決めたことではあるが、手を出せないなんておかしいと思ってしまうくらい、今の状況は悪魔的だった。

 蜜希さんが俺の指を舐める。
 いつの間に、と思う反面、彼の意図を受け取ってしまったことに焦る。
 でも、受け取ってしまった以上、裏切るわけにもいかない。

 俺は誘われるがまま、指で蜜希さんの孔に触れた。

 小さなソコに触れれば、指先が濡れる。
 男だがオメガである蜜希さんは、勝手に濡れるのだと教えてくれた。特に、今のような発情期には。
 指先を突き入れ、ゆっくりと押し進めていく。

 柔らかく、熱いナカに、頭の奥が警鐘を鳴らす。……それでも、今更離れる事は出来なかった。

 痛くないように。
 傷つけないように。

「は……っ、あかつきくん、きもちぃ……っ」
「っ、あんまり、煽らないでください……っ」

 熱い息が零れ落ちる。
 ゆっくりと指を出し入れすれば、きゅきゅうと吸い付いてくる。予想以上に強く抱きしめて来るもんだから、頭が沸騰するかと思った。

(もっと。もっと……)

 あまく溶かして、とろけさせて、安心させたい。
 俺の前以外で見せない顔を、俺だけが見ていたい。

 動かす指が止まらない。
 敏感になっていた蜜希さんは呆気なく二度目の絶頂に達した。制する声を余所に更に奥へと指を押し進めれば、三回めの絶頂。
 その瞬間、落ちるように眠った蜜希さんを見て、俺はようやく現実に戻って来た。

 ドッと吹き出る汗。
 噛み締めた唇から濃い鉄の味がして、驚いた。

「……よく、我慢した」

 えらいぞ、自分。すごいぞ、自分。

 いつもなら自分を褒めるなんてことはしないのに、今回ばかりは褒めずにはいられない。
 血の味を噛み締めながら、無心で蜜希さんの身体を清めていく。
 突発的な発情期は収まったのか、更に濡れてくることはなかった。フェロモンも安定しているし、大丈夫だろう。



 大きく深呼吸をして、天を仰ぐ。……俺も、風呂に入って寝よう。
 そうして片付けをして、風呂に入った俺は――目を覚まし、愕然とする。


「蜜希さん……?」

 寝室。風呂場、トイレ、玄関、キッチン、ベランダ……そのどこにも、蜜希さんの姿が見つからない。
 俺は氷の海に突き落とされたような感覚になった。
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