関白の息子!

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千姫ルート 上海要塞防衛戦4

お麟の暴走(エロ度☆☆☆☆☆)

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 さて、居勝が火砲の位置を見定めていた頃。

 日本軍の陣営は敵に攻め気が無いことに当然気付いていた。
 ただ兵を削ごうとしているだけ。
 もっとも、それが分かっているので兵の損耗を避けるやり方で迎え撃たせている。

「敵は恐らく攻城兵器の到着を待っているのでしょう」

 井頼が己の推測を諸将に告げる。

「・・・・・・ふむ。大砲待ち、であるか」

 明は既に投石器などではなく、大砲を主な攻城兵器にしていることはこの陣の諸将なら誰でも知っている。
 だが、同時にそれが、ついこの間まで自分達が合戦で使っていたものと大差ない性能のものだということも。

「念のため、南蛮から長射程のものや高性能のものを購入している可能性は留意してください。・・・・・・ない、とは思いますが」

 少し自信が無さげなのは失敗直後であることを考えれば仕方ないところではある。

「それは実際に撃たれて見ないと分からないのですから、考えても仕方ありません。前情報ではないと判断しています。ただ、あるとすれば大幅に戦略を変えなくてはいけないのでしたね?」

 確認するように千姫が井頼の顔を伺う。

「はい。実は今回の最終的な戦術である火計は、あくまで敵の大砲が我々の棒火矢よりも射程が短いことを想定しています。理由は、大砲の威力をもってすれば、城壁の中に仕込んだ油や火薬を誘爆・引火させることができるからです」

 射程に優っていれば、敵の大砲が設置される前に棒火矢で大砲自体を破壊できる。
 ゆえに、敵の攻め手をあのオーソドックスな攻城方法に戻させ、食糧の心配をし始めれば全軍で攻撃を始める。
 そうなれば城壁の仕掛けと、清正や義弘の外側からの火計の連動で明軍30万を一気に焼き払うことができる。
 大雑把に言えばそう言う計画なのだ。

「南蛮の兵器はそれほどに脅威なのか?」

「・・・・・・はい。どうやら射程はこちらの新式砲の3倍を誇るようです」

 軍議の間がざわつき出す。
 一概に射程だけで全てが決まるわけではないが、同時に最重要な項目の一つでもある。

 敵の攻撃を受けない場所からの一方的な攻撃と言うのは、それこそ朝鮮や明を相手に日本が行って来た。

「しかし、どうしてそれほど南蛮と日本に射程の差が生まれるのじゃ?」

「・・・・・・南蛮から購入したものを藤兵衛様が研究してくれています。それが終わってからでないと分かりません」

 井頼とてそれは知りたいことであった。
 だが、現物を見たことがないどころか、知っているのは射程だけ。
 そのバカげた金額もあり、井頼にどうこうできる話ではなかったのだ。
 いや、その大砲を用いた戦争を描いた物語ですら、井頼の給料では購入を迷うほどだった。
 それが軍学書であればなおさらである。

「単純に科学力と技術力の差です」

 だが、誰もが黙ってしまった時に、お麟があっけらかんとそんなことを言いだす。
 井頼にしてみても、お麟の知識の広さは驚異的なものだ。
 新式銃や新式砲を藤兵衛と共に生み出したことなどを考えれば、井頼たち秀頼の人材発掘で見出された者の中で、抜きんでた結果を出しているのは井頼ではなくお麟だ。

「・・・・・・そんなに南蛮が素晴らしい、と?」

「ええ。何が凄いって、神を信じながらも学問を確立し、神を否定しかねない論理も受け入れる。その科学的思考力がですね!」

 お麟の目が爛々と輝きだす。
 一応言うのであれば、今はまだ戦闘中だ。

「お、お麟ちゃん。それはまた今度ね?」

「あ、すいません。・・・・・・え、と。実のところ日本ではまだ何故鉄砲で弾を飛ばせるのか、究極的には分かっていないんです」

 何処から話そうかと悩みながらも、やはり基本的なところから話すらしい。

「火薬が爆発するからだろう?」

「ええ、その爆発力が鉛弾を押し出す。その程度です」

 その程度と言うが、それが全てだと皆は思っていた。

「もう少し正確に言うと、火薬が燃焼温度を超えると瞬間的に熱が伝播し、火薬が圧倒的な体積を誇る気体に変化します。そうすると、その気体にとって銃の中は狭すぎるんです。だから、鉛弾を押し出して自分の居場所を確保しようとする。それが銃弾の飛ぶ原理です!」

 お麟としては精いっぱい比喩を交えてわかりやすく説明したつもりであった。
 だが、どだい自然科学と言う言葉すら存在しない今の日本では、知識階級の彼等であっても完全に理解の外を行く。

 気分良く話すお麟も、それを感じ取り慌ててしまう。
 どだい、この時代でこの話を理解できるのは秀頼くらいのものなのだ。
 ・・・・・・もしかすれば、お麟以上に知っているのかもしれないが。

「・・・・・・あー、と、ですね。とにかく、南蛮はその原理の一つ一つまで詳しく解明しているんです。それに対して我々は現象論でしか語っていません。つまり、あれをすればこうなるって言う経験則でしかないんです」

「それが何か問題があるのか?」

 絞り出す様に基次が声を出す。
 井頼はその基次自体に少し感心してしまった。
 普通は、5歳の少女に圧倒的に知識で負けたと知った後に声を出すことなど出来ない。

 まして、千姫や井頼、信繁と違い、基次や忠勝はなぜこんなところに幼女がいるのか不思議なくらいだろう。
 せいぜいが千姫のお気に入りの侍女なのだろうと思っていた程度。

「大ありです!」

 そして、その5歳の少女が歴戦の猛将・後藤基次に反論するのだ。

「いいですか! 経験則では1000の行いで1進歩すれば願ったり叶ったりですが、学術を使えば100の行いで1進歩できるんです。今はさほどの差が無くても、いずれは全く手の届かないところに行ってしまいます。陛下が侵攻を急ぐのにはそう言った側面もあるんです!」

「・・・・・・だが」

「だがもヘチマもありません! それこそ今の我々と明軍の様な差が生まれてからでは、日本人が侵攻を受けて奴隷にされてしまうかもしれません! それでも良いんですか!?」

 基次と忠勝はその妙な気迫に驚いている。
 だが、無礼者と怒ろうにも相手が5歳の少女では大人気が無さ過ぎる。
 ・・・・・・というか、怒る気力も湧きあがらない。
 お麟を知っている3人ですら、なんとも言えぬ顔でそれを見ている。

「お麟ちゃん。落ち着いて」

 ゆえに助け舟を出せるのも千姫くらいしかいなかった。

「あ、はい。皇后様。えっとですね結論から言えば、射程を伸ばす方法は言うだけなら簡単です。この弾を押し出す原動力である気体からの力を余さず、出来る限り長く伝えるのです。すなわち、弾丸と銃身の間に在る微小な隙間を無くし、出来るだけ銃身を長くとるのです。あとは力自体を大きくするか、火薬の燃焼速度を上げるかですね。火薬の量を増やすか、火薬の質を良くするということです。どれをとっても射程の向上につながりますが、同時にそれをするための鋳鉄技術と試行錯誤するための学術的知識が足りません」

 基次・忠勝に至っては疾うに理解しようと言う気が失せている。
 最後まで付いてきていた井頼でさえ、それが正しいことかどうかを判断する知識もない。

「つまり、これを科学力と技術力の差と言うのです!」

 むふん、とお麟が胸を張る。
 なにもその全てが前世の知識にばかり頼っているわけではない。
 今世の書物から得た知識もなくはない。

 とは言え、今の日本人の常識を大きく逸脱しているのもまた事実。

「・・・・・・で、お主はそれを埋められるのか?」

「無理です! 一人で出来ることなど限られています。良いですか? これから国を守ることを誰かに依存すればよい時代は終わります。銃一つを取ってみても、女子供でも扱えるのですから。今は高価だから現実味が無いかもしれませんけどね。でも、これからは国民の一人ひとりがその責を負うべき時代になります。何も前線に立つ者ばかりではありません。後方で武器を作るもの、開発する者も立派な戦力なのです。つまり、国民全体の知識を上げること、学術を奨励することこそがこの差を覆し得るんです」

 確かに、銃の登場以降、武士が活躍する場所は減っている。
 お麟の言う通り、男である必要すら薄れている。

「お麟ちゃん! とにかく関係のないお話は今度! 良いよね?」

 それこそ小さい子供を窘めるようにして千姫がお麟に注意する。

 そう、今議論するべき話は、あくまで明軍が南蛮の砲を持ち出した時はどうするかと言う話なのだ。

「えっと、あはは。すいません。ですが恐らく大丈夫です。現状で南蛮との交渉経路は陛下が潰してくださっていますし、たとえ物だけ得たとしても、それを当てられるようになるまでには時間がかかります。弾道学と呼ばれる学問があればその限りではないですけど」

「・・・・・・とにかく、得たとしてもこの戦の内には使い物にならないと?」

「絶対ではないですけど、恐らくは」

 そうと分かればこの戦は戦える。
 と言うか、それだけ言ってくれれば十分だったのだ。
 諸将は安心するとともに、敵の大砲が現れた時の役割の確認に入る。

 しかし、それとは別に、この場にいる全員がお麟に対してのどうしようもないモヤモヤを抱えてしまった。

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