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千姫ルート 上海要塞防衛戦4
2日目夜(エロ度☆☆☆☆☆)
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両軍にとって、会談のあった午前と比較してみれば、なんとも変哲の無い午後が過ぎる。
明軍は陽が傾く前には撤退し、日本軍も当然の如く追撃しない。
結果から見れば日本は数人の、明軍は数百人の死傷者を出して2日目を終えたのであった。
「明日、明軍は本格的な攻勢をかけてきます」
それは本来であれば明軍しか知らないことだが、遠眼鏡で敵陣を観察していた兵が何か巨大な荷が運び込まれたと報告したことで、日本軍にも知られるところとなる。
「その荷が兵糧ということは?」
「いえ、向こうは知られることを気にもせずに組み立てを始めています。明日は真っ先に攻撃地点に動かすことでしょう。棒火矢を撃つ機は、敵が設置を終え砲撃を開始する直前。つまり、敵の大砲用の火薬にも引火させることを狙います」
下手をすれば撃ち込まれかねないということでもある。
だが、敵の火薬に引火させられるのなら、用いないのはもったいないと言える。
それに、棒火矢は辺り一面を燃やすものもある。
仮に誘爆できなくても、砲手を遠ざけられれば撃てはしない。
「しかし、幾度かの戦でもう何度か棒火矢は用いているのだろう。無防備にその腹をさらすものだろうか?」
「その可能性については留意しています。ですが、朝鮮の折や先日の黄海では、ほぼ海上での使用でしたので短距離でしか用いていません。また、上海城では大砲の方が目立った事でしょう。現状で大砲の命中率はさしたるものではありませんので、お互い狙っても当たらない程度に考えている可能性もあります」
と言う憶測ではある。
だが、井頼は敵を侮る恐ろしさを知った。
「あちらがもしも大砲を守るための対策を行うとすれば、やはり城門や城壁への同時攻撃であると考えます。それも、今日のようなものではなく、長梯子や衝車を用いた本格的なものでしょう」
現状で井蘭などの攻城兵器の姿は見えないが、あんなものは今の戦闘ではむしろ的。
大砲対策を考える相手なら出してくるはずもない。
「ふむ。長梯子も衝車も攻城の道具としては最も昔からある物じゃが、逆にそれだけが残っていると言うのも不思議なものだ」
「そうですね。ですが、大砲をまさか城門前と言う敵の攻撃が密集する場所に持ち込んで弾込めをするわけにもいかない。一発で門を破る自信が無いのなら、衝車を使うのは悪い手ではありません。まぁ、大砲が安価になればまた話は別なのでしょうが・・・・・・。梯子については、明国が使うものなら堀の外から一息に城壁の上まで届きましょう」
「その長梯子対策はどうする?」
「どうもしません。銃で撃つのみです。直線状に敵が並んでくれると言うのなら、むしろありがたいくらいです」
あっさりと井頼は言う。
「ただし、そのためには城壁の上に顔を出さねばならなくなります」
「・・・・・・いよいよこちらにも被害が出るということじゃな」
だが、ここにいる誰もが、戦は本来一方的な結果などで済むものでは無いと知っている。
その大体が味方と敵の血だまりの上で決せられるものなのだ。
「そうなれば数の多い明軍に我々は押し込まれましょう。明日は大丈夫だとしても、明後日はそうはいかないかもしれない」
「元より敵の総攻撃を引き出すのが目的。気にする必要もない」
「はい。ただ、恐らく敵軍は大砲による攻城を試みるはずです。それを終えてからの話にはなると思うのですが」
だが、やはり自信が無いのか、少し声が小さい。
「自信を持て参謀長殿。5歳の少女があれほど堂々としておったのじゃぞ?」
ガハハと笑いながら基次が励ます。
だが、あれは例外中の例外だ。
と、言うか、5歳の少女だからこそ許されているとも言える。
「井頼殿」
「はっ! 皇后様」
少し自虐的になっていたところで千姫に声をかけられ、井頼は飛び上がる。
「貴方は間違いなく陛下のこれからを支えるお方。必ずやあの敵の将を打ち倒してくれると信じています。大体にして、貴方の最大の策はまだ始まってすらいないのに、今から自信を無くしていてどうするのですか」
言われて見れば確かにその通り。
井頼の真価は火計の成功如何で語られるべきものだ。
「・・・・・・ははっ!」
千姫に向かい、井頼は深く深くお辞儀をする。
井頼は今日の一日だけで千姫のことを崇拝すらしていた。
ともすればその念は秀頼に対するものすら越えるかもしれない。
恋愛感情であるかも、とは無理矢理に考えないように努めていた。
「さ、今日はゆっくり休みましょう!」
パンッと手を叩き、千姫が皆を軍議の間から追い立てる。
早く部屋に戻り休めと言うのだろう。
だが、それに従わない者も一人。
「皇后様、今日は一緒に寝てください」
それだけ聞けば年端もいかない少女が姉に甘えているようにも見える。
「最近碌に寝ていないのでしょう? 今日は無理にでも寝ていただきますからね。下手をすれば明日が本番になる可能性もあるんですから!」
お麟はむしろ聞き分けの無い子供を諭すように、千姫の手を引っ張り寝所へと連れて行く。
その光景が何処か微笑ましく思え、軍議の間に残された諸将は一頻り笑った後に解散した。
明軍は陽が傾く前には撤退し、日本軍も当然の如く追撃しない。
結果から見れば日本は数人の、明軍は数百人の死傷者を出して2日目を終えたのであった。
「明日、明軍は本格的な攻勢をかけてきます」
それは本来であれば明軍しか知らないことだが、遠眼鏡で敵陣を観察していた兵が何か巨大な荷が運び込まれたと報告したことで、日本軍にも知られるところとなる。
「その荷が兵糧ということは?」
「いえ、向こうは知られることを気にもせずに組み立てを始めています。明日は真っ先に攻撃地点に動かすことでしょう。棒火矢を撃つ機は、敵が設置を終え砲撃を開始する直前。つまり、敵の大砲用の火薬にも引火させることを狙います」
下手をすれば撃ち込まれかねないということでもある。
だが、敵の火薬に引火させられるのなら、用いないのはもったいないと言える。
それに、棒火矢は辺り一面を燃やすものもある。
仮に誘爆できなくても、砲手を遠ざけられれば撃てはしない。
「しかし、幾度かの戦でもう何度か棒火矢は用いているのだろう。無防備にその腹をさらすものだろうか?」
「その可能性については留意しています。ですが、朝鮮の折や先日の黄海では、ほぼ海上での使用でしたので短距離でしか用いていません。また、上海城では大砲の方が目立った事でしょう。現状で大砲の命中率はさしたるものではありませんので、お互い狙っても当たらない程度に考えている可能性もあります」
と言う憶測ではある。
だが、井頼は敵を侮る恐ろしさを知った。
「あちらがもしも大砲を守るための対策を行うとすれば、やはり城門や城壁への同時攻撃であると考えます。それも、今日のようなものではなく、長梯子や衝車を用いた本格的なものでしょう」
現状で井蘭などの攻城兵器の姿は見えないが、あんなものは今の戦闘ではむしろ的。
大砲対策を考える相手なら出してくるはずもない。
「ふむ。長梯子も衝車も攻城の道具としては最も昔からある物じゃが、逆にそれだけが残っていると言うのも不思議なものだ」
「そうですね。ですが、大砲をまさか城門前と言う敵の攻撃が密集する場所に持ち込んで弾込めをするわけにもいかない。一発で門を破る自信が無いのなら、衝車を使うのは悪い手ではありません。まぁ、大砲が安価になればまた話は別なのでしょうが・・・・・・。梯子については、明国が使うものなら堀の外から一息に城壁の上まで届きましょう」
「その長梯子対策はどうする?」
「どうもしません。銃で撃つのみです。直線状に敵が並んでくれると言うのなら、むしろありがたいくらいです」
あっさりと井頼は言う。
「ただし、そのためには城壁の上に顔を出さねばならなくなります」
「・・・・・・いよいよこちらにも被害が出るということじゃな」
だが、ここにいる誰もが、戦は本来一方的な結果などで済むものでは無いと知っている。
その大体が味方と敵の血だまりの上で決せられるものなのだ。
「そうなれば数の多い明軍に我々は押し込まれましょう。明日は大丈夫だとしても、明後日はそうはいかないかもしれない」
「元より敵の総攻撃を引き出すのが目的。気にする必要もない」
「はい。ただ、恐らく敵軍は大砲による攻城を試みるはずです。それを終えてからの話にはなると思うのですが」
だが、やはり自信が無いのか、少し声が小さい。
「自信を持て参謀長殿。5歳の少女があれほど堂々としておったのじゃぞ?」
ガハハと笑いながら基次が励ます。
だが、あれは例外中の例外だ。
と、言うか、5歳の少女だからこそ許されているとも言える。
「井頼殿」
「はっ! 皇后様」
少し自虐的になっていたところで千姫に声をかけられ、井頼は飛び上がる。
「貴方は間違いなく陛下のこれからを支えるお方。必ずやあの敵の将を打ち倒してくれると信じています。大体にして、貴方の最大の策はまだ始まってすらいないのに、今から自信を無くしていてどうするのですか」
言われて見れば確かにその通り。
井頼の真価は火計の成功如何で語られるべきものだ。
「・・・・・・ははっ!」
千姫に向かい、井頼は深く深くお辞儀をする。
井頼は今日の一日だけで千姫のことを崇拝すらしていた。
ともすればその念は秀頼に対するものすら越えるかもしれない。
恋愛感情であるかも、とは無理矢理に考えないように努めていた。
「さ、今日はゆっくり休みましょう!」
パンッと手を叩き、千姫が皆を軍議の間から追い立てる。
早く部屋に戻り休めと言うのだろう。
だが、それに従わない者も一人。
「皇后様、今日は一緒に寝てください」
それだけ聞けば年端もいかない少女が姉に甘えているようにも見える。
「最近碌に寝ていないのでしょう? 今日は無理にでも寝ていただきますからね。下手をすれば明日が本番になる可能性もあるんですから!」
お麟はむしろ聞き分けの無い子供を諭すように、千姫の手を引っ張り寝所へと連れて行く。
その光景が何処か微笑ましく思え、軍議の間に残された諸将は一頻り笑った後に解散した。
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