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程なく足音がして、カミロ導師が飛び込んできました。
「上質の雲母に金紅石だ。これで面白いことができる。」
両手に抱え込んでいるのが、雲母と金紅石なのでしょう。
私には白い石と緑を帯びた石にしか見えません。
緑の石の方は、キレイだなと思いますが。
「金紅石は、この辺ではドラゴンなどが住まう山奥でないと手に入らない石だ。これを雲母と組み合わせれば、面白い化粧品が作れそうだ。」
「面白い?」
興味が出たので聞いてみました。
「輝く肌、という言葉は女性の美を讃える比喩表現だが、実際に輝かせられるかもしれん。」
「そんなことが可能なのですか?」
「やってみる価値はあると思う。ヒメネス伯爵から許可は頂いた。持って帰って実験してみる。」
カミロ導師、興奮しちゃってます。
「お待ち下せえ。」
そこに待ったがかかりました。
仕立てのチャベス親方とアクセサリー職人のタムード親方が並んでいます。
「今、化粧されたイルダお嬢様を見やしたが、大したもんで。」
「褒めてくれてありがとう。」
二人の言葉に、カミロ導師が、応えます。
「ただ、導師様の言葉を聞いたんですが。」
「今よりもっとイルダお嬢様を美しくする化粧品を作られるんで?」
「そのつもりだ。上手くいくかはやってみないとわからないが。」
「作るなたぁ言いません。ただ、試すときは。」
「あっしらを呼んで下せえ。化粧されたお嬢様を見てドレスをデザインしてえ。」
「えぇぇ、チャベス親方、そんなことして、ドレス間に合うんですかぁ?」
ウルファが心配そうな顔をしています。
「そこは気合いと根性で。な、タムード。」
「おうよ、化粧品に負けねえもん作ってみせるぜ。」
「タムード親方も、大丈夫ですかぁ?」
「職人をナメんな。いく晩でも徹夜してでも間に合わせらぁ。」
「と、いう訳で。」
チャベス親方がイルダ様を引っ張ります。
「な、なに?」
「ドレスをやり直しますんで、脱いで下せえ。」
「ちょっ、止めて。」
「親方、落ち着いて下さい。女の子が男性の前で服を脱ぐわけないでしょう。」
「すいやせん、失礼しました。」
手を離します。
「あっしらも興奮しちまったようで。」
「すいません、でも化粧品に負けないアクセサリー作らねえとって思うと、いてもたってもいられません。」
どうやらお二人の職人魂に火が付いたようです。
「ボクも負けてられないね。いいものを作ってみせよう。」
カミロ導師も熱くなっているようです。
「あれで、皆熱くなっちゃって、すごいことになったのよね。」
カミロ導師は、新しい化粧品の調合に成功しました。
「それが、今イルダ様のお肌に塗られている化粧品なの?」
母ナタリーが質問してきます。
「そう、まず金紅石から抽出した成分を雲母にコーティングするの。それを細かく砕いて粉末にして。」
「うんうん。」
「それを混ぜたクリームを塗っているの。雲母の粉が光を反射しているのでキラキラするのだと、カミロ導師は言ってたわ。」
「父さん、そんなことを……。さすがだな。」
アズナールがつぶやきます。
「しかし、ロザリンド。これだけのことをして頂いて、お前お礼とかはどうしている?」
「もちろんします。化粧品の利益から、お二人にそれぞれ一割お支払いする契約書を交わしました。」
「それならいいが、このこと公表しないのか?」
「隠すのはお二人の意向です。」
「ぼくの父にとって、化粧品の研究は片手間の遊び。本気で研究させられるのはご免だと。」
そう、知れたら面倒なことになりそうだとお考えです。
「オヤジは、お袋の外堀を埋められること期待してやってるっすから。自分が、化粧に関わっていると知られたら、まずいと思ってるっす。」
「オラシオ君、どういう意味だい?」
さすがにお父様の顔が、訳わからんといったものになりました。
「いや、オヤジがホントに化粧してえのは、お袋なんすよ。長年連れ添った妻をキレイにしてえって。」
「オラシオ君のご両親、夫婦仲がいいのねぇ。」
お母様が、感心してます。
「でもお袋は、オヤジに『妙チキリンなもん塗ろうとすんじゃない』ってさせねえんす。」
「それでか。イルダ様の美しさが話題になれば、化粧に興味を示し、させてくれると考えているんだな。」
お父様がバルリオス将軍の意図を読み解きます。
「そうっす。うちは典型的なかかあ天下っすから。お袋がダメと言ったら何にもできねえんすよ。」
「あのバルリオス将軍が、奥様に頭が上がらないなんて想像できないわ。」
イルダ様が、頬に手を当て笑います。
それを見たお母様が、呟きました。
「イルダ様、本当にお肌キレイだわ。」
「そこは、アタシの指示をイルダ様は、よぉ守ったからな、当然。」
聞き逃さなかったイシドラが胸を張ります。
「美しさのためと言われて、守らないわけないじゃない。褒められるようなことはないわ。」
「色々してるみたいね。同じように私もやっているのはずなのに……。」
お母様が嘆きながら、頬に手をあてます。
「若い人には勝てないのかしら。」
「そんなことはないさ。ロザリンド、母さんにも同じ化粧品を作ってやれないか?」
お父様が言ってきますが。
「ダメ、王妃様に在庫無いって言っちゃったもの。それをお母様がしていたらおかしいじゃない。」
「手に入りにくくすることで、かえって購買意欲が増す。それが狙いかい?」
「それもあるけど、イルダ様のライバルを増やさないためでもあるの。」
同じ化粧品を使えば、他の令嬢の魅力もイルダ様に匹敵するものになる可能性があります。
国王の目がそっちにいかれては困るのです。
「ただ、納期を1年とは長くしたね。それだと資金の回転が悪くなる。可能な限り早くするのが商売の基本だよ。」
「わかってます。でも化粧品の量産体制は、これから構築するので。」
お父様の助言は、理解できますけど、そこはやむを得ないんです。
「人を雇うのかい?」
「はい、それはもちろん。」
宮廷魔術師のカミロ導師が生産するわけにはいきません。宮廷魔術師の仕事があるのですから。
配合のレシピは、確立してますので大丈夫ですが、それでも職人を新しく雇って、育成しなければなりません。
材料の確保もありますし、問題は山積みです。
「それにしても金貨百枚か、吹っかけたもんだね。」
「王妃様は承諾しました。それだけの価値をイルダ様を見てたからこそ納得したんです。」
「なぁ、ロザリンド。商会の方の問い合わせにも金貨百枚、と回答していいんだね。」
「はい、お父様、お願いします。」
「わかった。」
そう言ってお父様は、ワインを空けました。
「これで騒ぎを収められる。僕も殺到する問い合わせに、どう答えたものかわからなかったからね。」
そう、朝からメイア商会に昨晩のイルダ様を見た貴族方から問い合わせが殺到していたのです。
中には、化粧品をどうあっても寄越せ、と強硬に要求してくる方もいて。
たまりかねてお父様は、こちらに逃げて来たのです。
「ごめんなさい、そこまでの大騒ぎになると思いませんでした。ヤストルフ帝国から帰ったばっかりで疲れているのに。」
「いいんだよ、ロザリンド。お前の商売が上手くいっている証拠だ。油断せず、励みなさい。」
「ありがとう。お父様がヤストルフ帝国に行ったからこそ、バルリオス将軍も私によくして下さった。成功は、お父様のおかげ。」
そう、バルリオス将軍が私に好意を示した理由は、お父様の隣国行きにあります。
「上質の雲母に金紅石だ。これで面白いことができる。」
両手に抱え込んでいるのが、雲母と金紅石なのでしょう。
私には白い石と緑を帯びた石にしか見えません。
緑の石の方は、キレイだなと思いますが。
「金紅石は、この辺ではドラゴンなどが住まう山奥でないと手に入らない石だ。これを雲母と組み合わせれば、面白い化粧品が作れそうだ。」
「面白い?」
興味が出たので聞いてみました。
「輝く肌、という言葉は女性の美を讃える比喩表現だが、実際に輝かせられるかもしれん。」
「そんなことが可能なのですか?」
「やってみる価値はあると思う。ヒメネス伯爵から許可は頂いた。持って帰って実験してみる。」
カミロ導師、興奮しちゃってます。
「お待ち下せえ。」
そこに待ったがかかりました。
仕立てのチャベス親方とアクセサリー職人のタムード親方が並んでいます。
「今、化粧されたイルダお嬢様を見やしたが、大したもんで。」
「褒めてくれてありがとう。」
二人の言葉に、カミロ導師が、応えます。
「ただ、導師様の言葉を聞いたんですが。」
「今よりもっとイルダお嬢様を美しくする化粧品を作られるんで?」
「そのつもりだ。上手くいくかはやってみないとわからないが。」
「作るなたぁ言いません。ただ、試すときは。」
「あっしらを呼んで下せえ。化粧されたお嬢様を見てドレスをデザインしてえ。」
「えぇぇ、チャベス親方、そんなことして、ドレス間に合うんですかぁ?」
ウルファが心配そうな顔をしています。
「そこは気合いと根性で。な、タムード。」
「おうよ、化粧品に負けねえもん作ってみせるぜ。」
「タムード親方も、大丈夫ですかぁ?」
「職人をナメんな。いく晩でも徹夜してでも間に合わせらぁ。」
「と、いう訳で。」
チャベス親方がイルダ様を引っ張ります。
「な、なに?」
「ドレスをやり直しますんで、脱いで下せえ。」
「ちょっ、止めて。」
「親方、落ち着いて下さい。女の子が男性の前で服を脱ぐわけないでしょう。」
「すいやせん、失礼しました。」
手を離します。
「あっしらも興奮しちまったようで。」
「すいません、でも化粧品に負けないアクセサリー作らねえとって思うと、いてもたってもいられません。」
どうやらお二人の職人魂に火が付いたようです。
「ボクも負けてられないね。いいものを作ってみせよう。」
カミロ導師も熱くなっているようです。
「あれで、皆熱くなっちゃって、すごいことになったのよね。」
カミロ導師は、新しい化粧品の調合に成功しました。
「それが、今イルダ様のお肌に塗られている化粧品なの?」
母ナタリーが質問してきます。
「そう、まず金紅石から抽出した成分を雲母にコーティングするの。それを細かく砕いて粉末にして。」
「うんうん。」
「それを混ぜたクリームを塗っているの。雲母の粉が光を反射しているのでキラキラするのだと、カミロ導師は言ってたわ。」
「父さん、そんなことを……。さすがだな。」
アズナールがつぶやきます。
「しかし、ロザリンド。これだけのことをして頂いて、お前お礼とかはどうしている?」
「もちろんします。化粧品の利益から、お二人にそれぞれ一割お支払いする契約書を交わしました。」
「それならいいが、このこと公表しないのか?」
「隠すのはお二人の意向です。」
「ぼくの父にとって、化粧品の研究は片手間の遊び。本気で研究させられるのはご免だと。」
そう、知れたら面倒なことになりそうだとお考えです。
「オヤジは、お袋の外堀を埋められること期待してやってるっすから。自分が、化粧に関わっていると知られたら、まずいと思ってるっす。」
「オラシオ君、どういう意味だい?」
さすがにお父様の顔が、訳わからんといったものになりました。
「いや、オヤジがホントに化粧してえのは、お袋なんすよ。長年連れ添った妻をキレイにしてえって。」
「オラシオ君のご両親、夫婦仲がいいのねぇ。」
お母様が、感心してます。
「でもお袋は、オヤジに『妙チキリンなもん塗ろうとすんじゃない』ってさせねえんす。」
「それでか。イルダ様の美しさが話題になれば、化粧に興味を示し、させてくれると考えているんだな。」
お父様がバルリオス将軍の意図を読み解きます。
「そうっす。うちは典型的なかかあ天下っすから。お袋がダメと言ったら何にもできねえんすよ。」
「あのバルリオス将軍が、奥様に頭が上がらないなんて想像できないわ。」
イルダ様が、頬に手を当て笑います。
それを見たお母様が、呟きました。
「イルダ様、本当にお肌キレイだわ。」
「そこは、アタシの指示をイルダ様は、よぉ守ったからな、当然。」
聞き逃さなかったイシドラが胸を張ります。
「美しさのためと言われて、守らないわけないじゃない。褒められるようなことはないわ。」
「色々してるみたいね。同じように私もやっているのはずなのに……。」
お母様が嘆きながら、頬に手をあてます。
「若い人には勝てないのかしら。」
「そんなことはないさ。ロザリンド、母さんにも同じ化粧品を作ってやれないか?」
お父様が言ってきますが。
「ダメ、王妃様に在庫無いって言っちゃったもの。それをお母様がしていたらおかしいじゃない。」
「手に入りにくくすることで、かえって購買意欲が増す。それが狙いかい?」
「それもあるけど、イルダ様のライバルを増やさないためでもあるの。」
同じ化粧品を使えば、他の令嬢の魅力もイルダ様に匹敵するものになる可能性があります。
国王の目がそっちにいかれては困るのです。
「ただ、納期を1年とは長くしたね。それだと資金の回転が悪くなる。可能な限り早くするのが商売の基本だよ。」
「わかってます。でも化粧品の量産体制は、これから構築するので。」
お父様の助言は、理解できますけど、そこはやむを得ないんです。
「人を雇うのかい?」
「はい、それはもちろん。」
宮廷魔術師のカミロ導師が生産するわけにはいきません。宮廷魔術師の仕事があるのですから。
配合のレシピは、確立してますので大丈夫ですが、それでも職人を新しく雇って、育成しなければなりません。
材料の確保もありますし、問題は山積みです。
「それにしても金貨百枚か、吹っかけたもんだね。」
「王妃様は承諾しました。それだけの価値をイルダ様を見てたからこそ納得したんです。」
「なぁ、ロザリンド。商会の方の問い合わせにも金貨百枚、と回答していいんだね。」
「はい、お父様、お願いします。」
「わかった。」
そう言ってお父様は、ワインを空けました。
「これで騒ぎを収められる。僕も殺到する問い合わせに、どう答えたものかわからなかったからね。」
そう、朝からメイア商会に昨晩のイルダ様を見た貴族方から問い合わせが殺到していたのです。
中には、化粧品をどうあっても寄越せ、と強硬に要求してくる方もいて。
たまりかねてお父様は、こちらに逃げて来たのです。
「ごめんなさい、そこまでの大騒ぎになると思いませんでした。ヤストルフ帝国から帰ったばっかりで疲れているのに。」
「いいんだよ、ロザリンド。お前の商売が上手くいっている証拠だ。油断せず、励みなさい。」
「ありがとう。お父様がヤストルフ帝国に行ったからこそ、バルリオス将軍も私によくして下さった。成功は、お父様のおかげ。」
そう、バルリオス将軍が私に好意を示した理由は、お父様の隣国行きにあります。
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