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chap1.押し付けられた恋心
5.選べない選択肢
しおりを挟むフィズは、布団の上で役に立たない抵抗を繰り返していた。しかし、いくら暴れても体力を奪われるだけで、逃げられそうにない。
「やっっ!! やだっ……はなしてっっ!!」
「お前、それで抵抗しているつもりか? それとも嫌がるフリをして煽っているのか?」
仰向けに倒され、フィズを押さえつける王は、どこか呆れ顔だ。
確かに力では全くかなわない。だけど精一杯嫌がっているんだからやめて欲しい。
さっきからどれだけ「嫌だ」と繰り返したか分からない。
何度拒否しても、王は行為を続けようとする。一体、何を考えているのだろう。キラフィリュイザの王がグラス嫌いだというのは嘘だったのだろうか。
「ふあっ!」
首筋に舌が這う。その感触が体に染み入ってくる。
知らない相手にこんなことをされるなんて嫌だ。それなのに、じわじわと下半身から何かが沸き上がってくる。
じゅるじゅると淫猥な音を立てて肌を吸われた。嫌で嫌で仕方ないのに、膨れ上がってくるものに体が悦んでいる。
「ひっ!!」
胸の辺りを、冷えた手で撫で回され、フィズは悲鳴をあげた。いつの間にか、シャツの前ははだけられている。その手の冷たさに背中が震えた。
胸の上を好き勝手弄っていた指先が乳首に触れる。刺すように入ってきた快感に驚いて腰を引こうとする。だが、ベッドに押し倒された状態では逃げることはできない。そこを指で転がすように弄られ、嫌なのに、そこは熱を含んでじわじわと快楽をもたらす。
「う……あ、や……だ……」
「フィズ、私のものになれ」
体から力が抜けていく。このままではいけない、なんとかしないと、霞んでいく理性で考えた。
「フィズ……」
「──っつっ!!」
王の手が、フィズの下半身に伸びる。ぞっとしたはずみで伸ばした手が、サイドテーブルに置かれた瓶に触れた。
フィズは、その一つを握りしめると、思いっきり相手に投げつけた。
パン、と軽い音を立てて瓶が割れる。
額に不意打ちを受けた王は、顔を汚した茶色い液体を拭いながら、フィズを睨みつけてきた。その目線が、襲われていた時とは別の恐怖を生み出す。
やはり、大人しくしておいた方がよかったかもしれない。その方が、痛い目に遭わずにすんだかも……けれど、知りもしない相手の妻なんて嫌だし、襲われるのも嫌だし、でも痛いのは嫌だ、とぐるぐると思考が同じところを行き来する。
王は、フィズを睨みつけて言った。
「お前……自分の立場を分かっているのか?」
「た、立場?」
「お前は捕虜だぞ。私が一言いえば、お前などすぐに死刑だ」
「ひっ!!」
「死刑」の一言に、背筋が一気に冷える。訳の分からないまま、知らない土地で理不尽に殺されるなんて、絶対に嫌だ。
けれども王は、フィズを脅すような言葉を並べていく。
「それも嫌なら奴隷にでもなるか? 毎日鞭で打たれ、泣き叫びながら働く方がいいか?」
「や……そんな……」
「選べ。妻か、死刑か奴隷か」
どうやら本気で怒らせてしまったらしい。王の目は冗談を言っているようには見えない。
どれも嫌だ、自由にしてという四つ目の選択肢は与えてもらえないようだ。
選択肢とは言えない三つを言い渡され、断れないことを悟る。
頬に冷たいものが伝った。
諦めの涙だった。
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