嫌われた王と愛された側室が逃げ出してから

迷路を跳ぶ狐

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chap1.押し付けられた恋心

18.情交の中の決意

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 続く口淫は終わらない絶頂を生み出し、フィズを身悶えさせた。出し切ったそこを吸われ続ける苦しみから逃れたいのに、シグダードに腰を捕まえられ、動けない。

「いや…………あぁぁ……くるし……あ……も、ゆるして……」
「まだだ」

 泣きながら許しを哀願しても、シグダードはやめようとしない。それどころか、舌で先端を、両手で張り詰めた屹立を扱かれてしまう。

「いやあああああっ!! もうでない! やぁっ!!」

 強引に引きずり出される快楽は、苦痛を伴いながら体を高揚させていく。
 喉が切れてしまいそうな勢いで叫んでも、一気に扱く手を滑らされて、引き出されるように、フィズは精を吐き出した。

 苦しかった。二度も続けて射精を強要され、体は長引く快感に痺れている。

 ついにフィズは泣き出してしまった。

「う……ひっく……」
「悪かったな」

 シグダードが優しく頭を撫でてくれる。

 見上げると、彼は愛おしげな目で、フィズに笑いかけていた。

「私に責められ乱れるお前があまりに美しく、調子にのった」
「え?」

 意外な言葉に胸が高鳴った。淫らだと、いやらしいと思われたら嫌われる、そう思ったのに。

「あの……」
「優しいほうがいいか?」

 言葉どおり、優しく内股の汗を舐めとられる。むずがゆいような、もどかしいような感触に、熱を帯びた体が焦れていく。

「ん……ふ……あ……」

 先ほどまでとは打って変わって、シグダードは、繊細なガラス細工を扱うように丁寧にフィズの体を愛撫してくれた。

 優しく扱われることは嬉しい。シグダードが大切にしてくれていることを実感できるからだ。それでも、待ち焦がれた体はそんなものでは物足りない。

「シグ……」
「なんだ?」
「その……淫らな私でも愛してくださいますか?」

 なんていやらしい質問だろう。平時なら口が裂けても言えないようなことすら、口をついてでる。恥いる理性すら溶けてしまったようだ。

「フィズ……」
「んあああ!」

 勃ち上がり、濡れた屹立を舐めとられて、いやらしい嬌声が上がる。

「むしろ、そうして私に溺れるお前の方が美しい」

 シグダードの言葉に、フィズは、彼の首に腕を回して答えた。

「フィズ……愛している……」

 深い口づけに、舌を絡めて応じる。

 愛してる──それはどれだけだろうか。どこまでが、シグダードの本当の気持ちなのだろうか。そんなことを恐れてしまう気持ちが邪魔だ。

 浮かんでくる煩わしい不安を打ち消したくて、シグダードの背中に回した腕に力を入れる。

 深い口づけを交わしながら、シグダードはフィズの乳首を摘まんでくる。そこは、少し弄られただけで、熱い快感を生み出した。

 このまま、快楽に溺れてしまいたかった。日が昇れば消えてしまう恋心に甘えていたい。記憶すら、正気すら失ってしまうほどに、感じていたかった。

 せり立った陰茎の根元をゆっくりと弄る、たおやかな手つきがもどかしい。

 体は愛した人に触れられる快楽に震えている。それでも、それだけでは足りない。もっとシグダードに近づきたかった。

「シグ…………して……」
「急ぐとお前が痛い思いをするぞ」
「いい……いいから……もう……して……」
「お前、そんなに淫乱だったのか?」

 淫乱、そうフィズを貶しながらも、シグダードはどこか楽しげだ。彼の手によって堕ちていく姿を愛してもらえるなら、いくらでも、どこまでも堕ちていきたいと思った。

 フィズの後孔に、香油で濡れた指が押し入ってくる。それは疼痛を伴い、体が緊張した。

「い……いた……」
「しばらく我慢しろ。じっくり解してやる」
「う……あ、ああ!」

 最初は痛いばかりだったのに、中を弄る指が、奥の何かに触れた時、体の中が疼いた。

「ここがいいのか?」
「ひゃあ!」

 そこばかりを擦られて、得体の知れない快感に体が飲まれていく。

 後ろから感じる快感は、フィズの股間にまで響いた。感じたことのない強い快楽が怖くなってくる。

「やっ……ま、待ってっ……シグ!」
「今さら何を言う」
「んあああ!」

 強く、乱暴に中を弄られる。そのたびに吐精してしまいそうな快感に襲われた。

「いや! やだ! ああ!」
「もっと乱れろ。泣き喚きながらよがってみろ」
「ぅっ! ……うああぁっ!!」

 執拗に感じるところばかりを責め立てられ、強烈な快感に襲われる。それは幾重にも重なり、フィズは幾分の恥じらいもなく喘ぎ泣いた。

「いれるぞ。フィズ」
「あ!」

 押し当てられたものが侵入してくる。体が引き裂かれるような衝撃と、壊れてしまいそうな痛みに襲われ、声もでない。

「力を抜け。フィズ」

 ずぶずぶと熱を帯びた肉棒が入ってくる。最奥まで犯され、圧迫痛に息をすることすら苦しくなってくる。

「い……あ……」
「すぐによくしてやる」
「ひあっ!」

 固いものに中を抉られ、痛いのに、今まで知り得なかった感覚が生まれてきた。奥から体を押し広げられ、ゆっくりと、それでいて、凶暴な熱に沈んでいく感覚。それは先ほどシグダードに責められた、弱い所を擦られた時に爆ぜた。

「いっ……あっ! あぐっ! あああああ! やあ! もっと!」

 感じるところを熱い欲望で責められ、もう恥など感じる暇もない。突き上げられるごとに体は痙攣し、全身の血液が激しく脈打つ。体のすべてを愛欲に支配されながら、もっともっとと喚き続けた。

「今のお前は娼館も顔負けのいやらしさだな。そんなにして欲しかったのか?」
「そ……んな……いっ……やっ! あっ……あ……あああああ! イク!」

 フィズが責めに負け、何度目か分からない射精に身悶えると、シグダードは快楽に溺れきったフィズを、征服欲に満ちた笑顔で見下ろす。
 そうされると、フィズは身も心もシグダードのものになれた気がして、射精を越える快感に落ちていった。

「フィズ……出すぞ……」
「あ……ああ! シグ!」

 中に熱い迸りを感じる。
 焼かれるような熱に意識を奪われながら、フィズは選びかねていた最後の選択肢を掴み取った。







 フィズが目を覚ますと、鳥の声が聞こえた。隣ではシグダードがぐっすりと眠っている。
 昨日の晩、抱かれたことは覚えているが、途中から記憶がない。どうやら、いつの間にか気を失っていたらしい。フィズは、暖かい布団を押しのけて起き上がった。

 窓の外は既に夜陰を薄めている。日の出が近いようだ。

 時計を見ると、六時ちょうどだった。一時間後にシグダードは目を覚ます。

「行かなきゃ……」

 フィズはそばに無造作に放られた衣服を身につけ、足早に部屋を出た。







 中庭にでると、秋の朝の肌寒さに、体が冷えていくようだった。

 そこでルイは、姿を隠そうともせず、フィズを待っていた。傍らにリーイックもいる。

 ルイはすぐに駆け寄るフィズに気づいて、羽でフィズを手招いた。

「フィズ! 遅いよ!」
「ごめん……ルイ。待った?」
「待ったよ! さあ、いそごう!」

 羽を広げるルイはとても楽しげだった。彼はいつも一緒にいてくれた大事な友達だ。その彼に、今から告げなければならないことを考えると、胸の奥が痛んだ。

 それでも、伝えなくてはならない。

「……ルイ、お願いがあるんだ」
「うん! 分かってる! ちゃんとフィズを連れて行くよ!」
「……そうじゃないんだ」
「え? じゃあ、何?」

 ルイが、フィズの態度を訝しむように顔を歪める。

 フィズは緊張を振り払うように深く息を吸って、ゆっくりと告げた。

「ルイ……ここからは……ひとりで行って」
「……え?」

 フィズの言葉に、ルイは時間が止まったように動きを止める。

「……え? え? フィズ? なんで? 何でそんなこと言うの?」
「……」
「フィズ! まさか……ねえ! 王様と一緒にいたいからなんて言わないよね!」
「……ごめん……ルイ……でも」
「なんで! なんでそんなこと言うの!? 王様なんて本当はフィズのこと、好きじゃないんだよ!」
「……それは分かってる」
「分かってないよ! フィズ! 行こう! 二人で! 二人でここをでよう!」
「ごめん……ルイ……」
「フィズ……なんで…………? 殺されちゃうんだよ!」
「私は……シグと一緒にいたいんだ……」
「フィズ! そんなの無理なんだよ! 死んだら一緒もなにもないんだよ!」
「無理じゃないかもしれないじゃないか! もしかしたら……本当に好きになってもらえるかも……」

 夢物語だと自分でも思うが、期待せずにはいられなかった。いつか、本当に愛し合えるのではないかと。

 昨夜、体を重ねて最後にするつもりだった。全身でシグダードを感じることができれば、満足して諦められると思った。それなのに、情交が生み出したのは、説明できない感情だった。

 ルイと別れなくてはならないことは辛い。彼はずっと一緒にいた友人だ。

 ルイは、語気を強めて言った。

「そんなこと! 絶対無理だよ!」
「ルイ……」
「フィズ! フィズは! 僕より命よりあの男をとるの!? くだらないあいつを選ぶの!?」
「ルイ!!」

 声を荒らげたフィズに、ルイは愕然として言葉を失ってしまう。怒鳴るつもりはなかったが、シグダードを馬鹿にすることは許せなかった。

「ルイ……ごめん。でも……」

 もう一度決意する。愛した人のそばにいると。魔法の解けたシグダードが自分を疎ましく思おうとも、ここに残ると。

「私は一緒には行けない」

 フィズの強い言葉に、ルイはもう何も言い返さなかった。無言のまま、彼は泣いていた。悲しい思いをさせてしまい心苦しいが、フィズの決意が揺らぐことはなかった。

 ルイは、一瞬何か言いたげに口を開きかけたが、何も伝えることなく羽を広げ、遠い虚空に消えていった。

 二人の様子を黙って見ていたリーイックが声をかけてくれる。

「いいのか?」
「いいんです……仕方ありません……」

 心配をかけないように、無理やり笑顔を作ってみせた。

「ルイは……いつか分かってくれます……」
「そうだな……」

 保証のない希望に、いつもとは違う柔らかな口調で同意されると、リーイックの気遣いが余計に心にしみた。広がる切なさに染み入られ、我慢できない涙が溢れてくる。

「バカな奴だ。泣くくらいならどうして陛下を元に戻した?」
「浅はかな……夢を見たんです……」
「夢?」
「いつか……シグが……本当に愛してくれるんじゃないかと……」

 叶うとは思えないが、願わずにはいられなかった。
 いつか期限付きでない愛情を手に入れられる、いつか心の底から愛し合える、そう信じなければ、倒れてしまいそうな切なさに、涙が溢れるばかりだった。

 リーイックが、優しく言った。

「いつかそうなる」

 ふっと体があたたかいものに包まれる。

 フィズは、リーイックの行動に息をのんだ。彼はフィズを抱きしめていた。

 そんなことをされるとは思っていなくて、一瞬体が緊張する。しかし、切なさに打ちのめされていたフィズは、彼の腕の中でしばらく泣いていた。
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