嫌われた王と愛された側室が逃げ出してから

迷路を跳ぶ狐

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chap3.回る毒

30.小さな仕返し

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 泣き疲れたフィズは、シグダードと肩を寄せ合ってベッドに座っていた。

「落ち着いたか?」
「……はい……」

 ヴィザルーマを呼びながら泣くフィズを、シグダードは優しく慰めてくれた。

 そんな優しさがずるいと思った。ただひどいだけなら、すぐに離れていけるのに、辛くて誰かにそばにいてほしい時に、こんなに優しい。

 疑われ、拷問されたことは恐ろしかった。彼を憎みたくもなった。けれど、あの時自分が残らなければ、こんなことにはならなかったのでは、とも思ってしまい、ひどく悲しかった。苦しくて、堪らなくて、もう二度と会わない方がいいのかとすら思った。
 それなのに、ここを離れることができない。自分の思いに翻弄されてしまっている。どうしても好きだ。

 いつか大きな仕返しをしてやると心に決めながら、シグダードの服の端を握る。

 すると、そんなフィズの様子を見て、何やら勘違いしたらしいシグダードが、曇った顔を見せる。

「そんなに……ヴィザルーマが恋しいのか?」
「え!? な、なんで……?? 恋しいって…………会いたいですけど……だ、だって、知らないうちにすごく恨まれてたら、誰だって悲しいじゃないですか」
「……本当にそれだけか?」
「……え??? えっと……」
「……ヴィザルーマが好きなのか?」
「好きですよ?」

 フィズの言葉に、シグダードはひどく驚いた顔をする。もしかしたら、おかしな誤解をさせてしまったかもしれない。
 フィズは、ただ友人として好きなだけだと付け加えようとするが、あっさりとシグダードに阻まれる。

「お、お前はヴィザルーマのなんだ!? まさか、せ、正室……」
「違います!! だいぶ前に亡くなりましたが、ヴィザルーマ様には女性のお后様がいらっしゃいました! わ、私はただの側室……」
「側室!? な、な、な……」
「落ち着いてください! 形だけです! そうして、私に身分を与えて、私を守ってくださったんです! グラス城では、雷魔族排斥の動きが一部で沸き起こってましたから……」
「そうか……だから好きなのか!?」
「だから、落ち着いてください! 好きって言ったのは、人としてです!」
「本当だろうな?」
「……」

 なんて嫉妬深い人だろうと思った。第一、シグダードはもうフィズのことを愛してなどいないはずなのに、なぜこんなことを言うのか分からない。

「あの……シグ?」
「なんだ?」
「あの……その……あ…………な、なんで、私をあそこから出してくれたんですか?」

 私を愛していますか、とは聞けずに、別の質問をした。

 するとシグダードは少し戸惑ったようだった。

「……お前がいなくなるのが嫌だった」
「え? ──っ!!」

 問い返す間もなく口づけられ、そのままベッドに押し倒される。予測できなかったキスに戸惑うフィズを置き去りにして、シグダードの舌が入り込んでくる。

「ん……ん」

 獰猛な口づけを続けながら、シグダードの手がフィズの体を這い回る。そのまま彼の愛撫に身をゆだねたくなるが、フィズは渾身の力を込めてシグダードを振り払った。

 ちゃんと答えてほしい。このまま、彼の気持ちが聞けないのは嫌だ。

「やめてください!」
「……なぜだ?」
「だって………………その……ち、ちゃんと答えてくれなきゃ嫌です!」
「答えただろう。お前がいなくなるのは嫌だ」
「そ、そうじゃなくて…………えっと、じゃあ、これから私が聞くことに……答えてほしいんです……」
「何を聞きたいんだ?」
「あの……あの…………あの……わ、私のこと……その……」
「……好きかどうかは……わからん」
「へっ……!?」

 フィズが質問するより早く答えを言って、シグダードは、フィズの首筋を舐めてくる。好きかも分からないのに、こんなことをしたくない。ただでさえ、苦しくて堪らないのに。

「ひっ……! あ、やだ……す、好きじゃないなら……」
「分からんが……そばにいて欲しい……」
「なっ…………!! なんですか! それ!」

 勝手な言い分に腹が立った。シグダードのそばにいると決めたのは自分だが、愛されないまま体だけ持っていかれるなんて嫌だ。

 フィズは、シグダードの体を押し返そうとした。だが、シグダードの体はびくともしない。結局、拒絶の言葉を叫ぶことしかできない。

「やっ……し、シグ!」
「お前を手放したくない」
「そばにいますっ……私は……だけど、もうこういうことは……好きじゃないなら……ぁっ──ん!!」

 制止の言葉を押しのけたシグダードに、無理やりキスされてしまう。ぐちゅぐちゅと唇を貪られ、長いキスに口内を蹂躙される快感に酔ってしまいたくなる。しかし、相手の気持ちも分からないままにその先に進むことはもう嫌だった。

「や、やだっ…………シグ! あっ……!」

 乳首を摘ままれ、指でぐっと潰されて、ゆっくりと、体を弄られる快感が広がる。それに負けてしまいたくなくて、力を込めて彼に抗おうとするが、湧き上がってくる欲望には逆らえない。

「う…………あ、ああ……」
「気持ちよさそうじゃないか」
「ちが……気持ちよくなんて……やだ……ぃ、いやっ…………あっ!」

 濡れた舌で優しく乳輪をなぞられ、淫らな刺激につい腰が浮いてしまう。
 そんなフィズの様子に気をよくしたのか、シグダードの執拗な愛撫が、刺激に高ぶったフィズの体を弄ぶ。

「ん……ん……ぁっ…………」
「ほら…………抱いてくださいと言え」
「や……や……やああ!!」

 何をされても、今は嫌だ。酷いことをされた後に、愛しているかも分からないが体は欲しいだなんて、あんまりだ。そんな彼を受け入れたくない。
 それなのに、股間にまで手を伸ばされて、つい悲鳴をあげてしまう。一気に思考が浮き上がるような感覚がした。

「あぁぁっ……」
「嫌か? フィズ」
「いや……いやあああ……」

 敏感なところを長く弄られ、体の奥に、煮えるような熱が生まれる。こうなるともう、吐精してしまわないと苦しい。

「いや……やだ……シグ……」
「イキたいのか?」
「う……あ……」

 イキたい、そう叫びたかった。しかし、そうすれば、シグダードに屈してしまったことになる。今日だけは嫌だ、その意見を曲げる気はない。
 なのに、シグダードの愛撫にそこが悦んでいる。嫌だと繰り返しながら、フィズはもうこのまま身をゆだねてしまいそうだった。

「あっ……いやぁっ……!」
「そうか……」
「あ、あああ!!」

 シグダードに膨らんだ屹立を撫で上げられ、フィズは一気に精を吐き出した。溜まった欲から解放され、抱かずにそうしたシグダードを見つめると、彼は肩を落として、悲しそうにフィズを見つめていた。

「お前が嫌ならしない」
「え……?」
「もうお前を苦しめたくない」
「シグ……」

 自分自身の欲望より、フィズの言葉を優先してくれたシグダードに、少し安心した。

 しょんぼりしている彼を見ると、かわいそうな気持ちと、たまにこれからもお預けしたいときはしてやろうという気持ちが湧き上がる。いい仕返しの方法を見つけた気がした。

 シグダードは、拗ねたようにフィズを睨んでいる。

「何を笑っている……」
「い、いえ……別に……」
「……まあいい。今日はゆっくり休め」
「え……? あっ……ま、待ってください!!」

 出て行こうとするシグダードを呼び止めると、彼は、残念そうに眉を垂れた顔のまま振り向いた。

「なんだ?」
「え……? だって、その……」

 だって、今日はもう、朝まで一緒だと思っていた。意地悪をし過ぎてしまったのかと思った。彼に離れていって欲しくない。今日はもう、一人ではいられそうにない。

「ひ、一人でいるの、怖くて……い、一緒に……いてください」
「お前な……」
「あっ……で、でも…………ただ寝るだけにしてください……」
「仕返しか……お前……」
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