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chap3.回る毒
32.追跡する魔物
しおりを挟むシグダードが使者を迎えに行ってしまい、残されたフィズは、塔の部屋で、ぼんやりしながら一日を過ごした。
もうすぐ日が暮れる頃、窓から外の景色を眺めると、赤く色づいた空が、なんだか不気味だった。
一人でいると嫌なことばかり思いだしてしまいそうだったが、今そばにいてくれと頼める人はいない。
外を眺めていると、ここに残ると決めた時に、喧嘩別れしてしまったルイに会いたくなった。
ずっと一緒にいたルイがいないと、ひどく心細い。どこへ行ってしまったのだろう。元気にしていればいいが、確かめる方法はない。
しばらくすると、誰かがドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
フィズが返事をすると、ゆっくりと扉が開く。そこに立っていたのは、フィズが最も会いたくなかった人物だった。
「やあ……フィズ……」
来訪者がフィズを見て、口角を上げる。
ヘザパスタのその顔を見て、フィズの頭に、恐ろしい記憶が蘇った。
後ずさりするフィズに、ヘザパスタは追いつめるように近づいてくる。
「フィズ……おれ……お前の悲鳴……忘れられなくて……」
その男は手にした鞭をベロリと舐めていた。探していた獲物を見つけ、嗤う魔物は、濁った目でフィズを凝視している。
「あ……いや……いやあ!!」
逃げ出そうとするフィズを、ヘザパスタが捕まえる。
振り払おうと必死に暴れるが、彼の野獣のような力の方が強い。
「いや! はなして! や! あっ!!」
殴り飛ばされ、倒れるフィズに、ヘザパスタが馬乗りになってくる。血走った目をして、口の端からよだれを垂らす姿は、とても人間とは思えない。
怪物のような形相に、背筋が冷える。
「嫌! や、やだ! はなして!!」
「逃がさない……フィズ……また泣いて……」
「やっ……やだ!」
「おとなしくしろぉっ!! 俺はお前が死ぬまでやりたいんだよ!」
怒声を上げるヘザパスタにさらに殴られ、頭を打った衝撃と恐怖で、フィズは気を失ってしまった。
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