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chap5.浸潤する影
81.不要な案山子
しおりを挟む許すも何も、別に怒っていない。しかし、そんなことはもちろん口に出さず、リリファラッジはストーンから顔をそむけた。
「どうしましょう。私、今日はすっごく機嫌が悪いんです。さっきは陛下にひどいことされたし」
「チュスラス……あの馬鹿が……リリファラッジ! あれは王座にたてておくための案山子だ! あの馬鹿に二度と同じことはさせない! 」
「本当ですか?」
自分の国の王なのに、散々な言い方だが、チュスラスを擁立した者達は皆そう思っている。
ヴィザルーマに反発した者は、チュスラスを王に立てようと動いたが、誰もチュスラスが王の器だとは思っていない。頭が回り、人望もあるヴィザルーマに比べ、チュスラスは操り人形にふさわしかったというだけだ。
「あれはただ、鬱陶しいカラスを追い払うためのものだ。脅しの能力だけふるっていればいい。収穫はすべて私達のものだ。カラスが消えた今、案山子など、どうにでもできる」
「うーん……」
「信じてくれ。リリファラッジ。あんな藁人形にお前を傷つけさせない。あんなもの、不要になったらたき火にしてやる。お前はうまいパンでも食べながら、それを城から見下ろしていればいい」
「いいですね。それ。約束ですよ」
「ああ。ありがとう。リリファラッジ」
笑顔でストーンに振り返ると、彼も顔をほころばせる。
リリファラッジは、そこで大事なことに気づいた。この男はリリファラッジとの約束を忘れているようだ。
「ダメです。スティ様」
「え?」
「スティ様、私の言いつけを守っていないから」
膝立ちのストーンの股間を、リリファラッジは思い切り踏みつけた。
「ああっ!」
「なぜ、こんなものを勃てているんですか?」
「それは……う……」
ストーンの股間のものは、服の上からでもはっきりと分かるくらい膨らんでいた。リリファラッジが部屋を訪れても、そういう目で見ないという約束なのに、この男はまったくそれを守っていない。
「私をいやらしい目で見ないと約束したはずです」
「い、痛い……やめてくれ……あぐ!」
ぐりぐりとそこを踏みにじってやる。何か仕置きをしてやらないと気が済まない。
「私、そんなものをみると、寒気がするんです。さっさと出しちゃってください」
「え?」
「聞こえないんですか? 早く自分で弄ってイってください。私との約束を破った罰です。私の目の前で弄って、惨めに無様に出してください。そうしないと、スティ様なんて、もう口も利きません」
「わ、分かった……リリファラッジ! 分かったから……」
リリファラッジの非情な命令に、ストーンはおとなしく従う。服の中に手を突っ込み、自らのものを弄りだした。人前でこんなことをさせられるなんて、屈辱以外の何物でもないだろうが、リリファラッジがそうしないと口を利かないと言ったのでは、ストーンに逆らうすべはない。しばらくすると、じわっと彼の服にシミができた。
「う……」
「いっぱい出しましたね」
そのシミの大きさすら気に入らなくて、リリファラッジは思い切りそこを足蹴にした。
「ぐあ!」
「こんなにでるほど、いやらしいことを考えていたんですね」
「い、痛い……り、リリファラッジ……やめてくれ……」
「もう二度と約束をやぶらないと約束しますか?」
「わ、分かった……分かったから……許してくれ……」
目尻に涙を浮かべ、必死に許しを請うストーンを見ていると、少しかわいそうになってくる。仕方なく足はどけてやった。
「分かりました。許してあげます。早く手を洗ってください」
「分かった……」
ストーンは力なく頷き、部屋の端にある水道で手を洗い、着替え始めた。
その間、優雅にベッドでフルーツをつまみながら、リリファラッジは、フィズのことを話すのは、もう少し彼をからかってからでいいかと考えていた。
*
「きれいになりましたね。スティ様。よくできました」
リリファラッジが誉めてやると、ストーンは嬉しそうに微笑み、礼を言った。散々振り回されたくせに礼を言うなんて、彼の入れ込みぶりは相変わらずだと思った。
「こっちへきてください。一緒に食べましょう」
「ああ……」
やっとリリファラッジのそばに行くことを許されたストーンが、嬉しそうにベッドにあがってくる。その手が、フルーツより飲み物より先にリリファラッジの右手に伸びてきた。
すぐさま軽く叩いてやる。先ほど仕置きを食らったくせに、なんて学習しない男だ。
「スティ様、触れることは禁止したはずです」
「だが、リリファラッジ……触れることくらいは許してくれないか? 何でもしてやるから……」
「ダメです。蝶の羽はとても繊細なんです。あなたのごつい指で触れられたりしたら、折れてしまいます」
「リリファラッジ……」
シュンとするストーンは傍目にも哀れに見えた。
だが、少しくらいを許せば、次々に新たな要求をしてくるに決まっている。そんなものにつきあう気はないが、今回は条件次第で少しくらいなら譲歩してもいい。なにしろ、それなりに無理な要求だと、リリファラッジにも分かっている。
「そんなに私に触れたいですか?」
「頼む……頼む、リリファラッジ……て、手に触れるだけならいいだろう? 手だけだ。ほかには何も言わないから……」
「どうしましょう。そうですね……私のお願い事をきいてくれたら、少しだけなら許してあげます」
「本当か!?」
初めての許可の気配に、ストーンは驚き、期待とともに身を乗り出してくる。
「なんだ? 何がしたい? 何でも好きなことを言ってみろ。気に入らない者がいるなら死罪にしてやるぞ。おまえの前で死ぬまで拷問にかけてやってもいい。それとも欲しい物があるのか? 宝石でもなんでも、お前が望むならすぐに手に入れてやる」
早口にまくし立てるストーンは、どんな要求でもききそうだ。いつものことだが、彼が言うようなことは望んだことすらない。
「私の美しさに嫉妬する輩は確かに鬱陶しいですが、それをすべて殺していたら、人間なんて滅んでしまいます。宝石なんて、あんな石ころは私の美しさを隠してしまうだけです」
「ああ、そうだな、リリファラッジ。では、望みとはなんだ? 何でも言ってみろ」
一息おいて、リリファラッジは、ゆっくりとストーンに向き直った。
「私、馬小屋で寝ている魔族が欲しいです」
「魔族?」
「ご存知ありませんか? 陛下が捕らえ、馬小屋につないでいるヴィザルーマ様の側室だった方です」
「ああ……知っている」
「あれが欲しいです。スティ様、陛下にお願いしていただけませんか?」
「あれをか……? だが……リリファラッジ、なぜあんなものを欲しがる? まさか……あれに興味があるのか?」
リリファラッジが自分以外に興味を示したと思ったらしいストーンは、眉をひそめて探ってくる。
ストーンは、リリファラッジが他の大臣の名前を出しただけで焦り出すような独占欲の持ち主だ。フィズを助け出したいなどといえば、逆にフィズを殺してしまうかもしれない。下手なことは言えないが、この男の嫉妬心すら知り尽くしているリリファラッジは、失敗する気がしなかった。
「ありますとも。彼は、滅んだはずの珍しい種族です。私のペットにぴったりではありませんか! ついでに小間使いにもなりますし……スティ様! 私、あれを首輪で繋いで私にかしずかせてみたいんです! いいでしょう? お願いします!」
「ペット……そうか……よし、分かった。お前が所望するならくれてやる」
「嬉しい! ありがとうございます! スティ様! さすがです!」
「り、リリファラッジ!」
喜ぶリリファラッジに、早速ストーンが手を伸ばしてくる。リリファラッジは、それをするりとかわし、フライングは反則ですと笑ってみせた。
「まだダメです。ちゃんと私の部屋にあの魔族を連れてきてくれたら、です。ちゃんとお風呂にもいれて、ご飯もあげてくださいよ。ペットが死んじゃったら私、とっても悲しいです」
「ああ。分かった」
「じゃあ、日が沈むまでにお願いします。約束を守ってくれたら、手袋ごしに指切りしてあげます」
日が沈むまでなんて短い時間で、王の意に反して罪人であるフィズの刑を変更するよう交渉し、他の重臣達を説き伏せ、入浴や食事の許可を得て、リリファラッジの支配下におけるよう話を付けた見返りにしては、あまりに小さすぎて泣けてきそうなものなのに、ストーンはきらきらと目を輝かせる。
「ほ、本当か!? リリファラッジ! 約束だぞ!」
「はい。待っていますよ。嘘をついたら、お仕置きですからね」
いたずらげに笑うリリファラッジに、ストーンは何度も頷いた。
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