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4.間違えた?
しおりを挟む寮の部屋に帰った俺は、お弁当を机に置いて床に座り込んだ。
一体、なんだったんだ。なんであんなに怒っているんだ? 地図って言ってたけど、なんで? 殴るって言ってたし、やっぱり何か怒ってるのか?
紙袋から、容器を取り出すと、すごくいい匂い……俺の大好きな焼き鳥の匂いだ。殿下が俺のために渡してくれたんだ。
思い出したら、勝手に笑顔になってしまう。
殿下が、俺のために……
あの時の殿下のことを考えながら、焼き鳥を一本取り出す。ずっと取っておくわけにいかないし……
一口食べたらそれだけで、いつもよりずっと嬉しい。串だけでも洗って取っておこうかな……
そ、それより、早く殿下に言われたものを探さないと!
紙袋を見下ろしたら、袋の底に何か入ってる。一枚の小さなメッセージカードだ。それには「部屋で待ってる」って文字と、地図みたいなものが描いてあった。この寮の地図だ。
なんで、寮の地図をわざわざ俺に? 俺もこの寮に住んでるから、地図がなくても分かるのに。
カードは多分、殿下が書いたんだろう。やけに文字が震えてて、カードに、王家の印がある。
部屋で待ってる? なんで? 俺を?
まさか……俺を部屋に呼んでいるのか!?
…………そんなはずないか……だって、部屋に呼ぶのは特別なこと。狼の妖精族にとって、自分の部屋に誰かを呼ぶのは、大事な時だけだ。大事な思いを打ち明ける時や、愛を誓う時。
そして殿下には、婚約者がいる。
それなのに、俺を部屋に呼ぶわけない。
じゃあ……これ、なに? なんでこんなの、俺に?
もしかして、全員に渡すサービスって言ってたし、間違えたのかもしれない。他の人に渡す予定だったのかもしれない。
部屋に呼ぶなら、多分婚約者だ。もし間違えたなら、きっと困っているだろう。返さなきゃ。
あっ……で、でも、すでに焼き鳥、食べちゃった。
焼き鳥も返したほうがいい。俺にじゃなくて、婚約者にあてたものだから。
殿下の婚約者なら知ってる。俺の唯一の友達だ。
早い話、俺は親友の婚約者を好きになったわけで…………もちろん、手を出すつもりなんてない。そもそも嫌われている。
親友は、いつも一人でいた俺に、唯一声をかけてくれて「エクウェルのこと、よろしくね」って言ってくれた。あの時、殿下はめちゃくちゃ機嫌が悪くて、うぜーとか、死ねよ、とか散々言われたけど……
思い出したら落ち込んできた。俺、嫌われてるから会わないって言ったのに、なんであいつ、俺を殿下に紹介したんだろう。
と、とにかく、これは返さなきゃ!!
だけど、焼き鳥は食べてしまったし……カードも見てしまった。他人宛のものだったなんて、気づかなかったから。
ど、どどどどどうしよう!! これ、待ってるって書いてあるし、絶対に渡さないと、婚約者は待ちぼうけ!
そんなことになって、殿下と婚約者が喧嘩になってしまう! そんなことになったら、俺はどう謝ったらいいんだ!!!
返さなきゃっ……焼き鳥新しく買って、誠心誠意謝るんだ!!
俺は、もらった紙袋にカードを入れて、部屋を飛び出した。
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