全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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番外編3.隣の領地で会議

84.どういうことだ?

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 コーインクルリズ様は、ついにかなり乱暴にだけど、僕の差し出した資料を受け取ってくれた。

「なんなんだ貴様はっ……! こんな時に、何が会議だっ……!!」
「あっ……ありがとうございます!」
「何がだっっ!!」
「資料を受け取ってくれたことがです! ありがとうございます!!」
「……っ!! 貴様がうるさいから受け取っただけだっ……少し黙ってろ!!!!」

 彼はそう僕を怒鳴りつけて、さっきからずっと彼にある事ない事耳打ちしていた魔法使いに向き直る。

「…………どういうことだ? ウェンダクドイスっ……!」

 コーインクルリズ様に恐ろしい形相でたずねられても、魔法使いの方は平然としている。

「どう? 決まっているではありませんか…………」
「何がだ!! ここにいる奴らは逆賊だとっ……トルフィレは俺の命を狙っているはずだとっ…………そう言ったのは貴様だ! そうじゃなかったのか!!!?」
「さあ?」
「さあだとっ……貴様っ…………!」
「……ああ……うるさい…………本当にあなたは……喚くか暴れるか、それしか能がない男だ」
「なんだと…………」
「あなたには、領主の座を退いてもらいます」
「なにっ……!?」
「あなたのように横暴な方に、いつまでも領主を続けていられたら困るのです」
「……横暴だと……?」
「はい。覚えがありませんか? ……本当に、呆れた人だ。来る日も来る日も、あなたがやっていることなんて、魔物との戦闘ばかり。そんなことは兵士ができます。あなたじゃなくてもいいんですよ」
「…………」
「あなたような乱暴な男を、領主だと認める者は、一人もいません。あの巨大な魔物が現れた時に、大人しく怪我をして引退してくれていればよかったのに…………」
「…………」

 黙って、彼から顔を背けてしまうコーインクルリズ様。
 あの魔法使い、ウェンダクドイスに言われたことは、よほどショックだったのだろう。

 その隙を狙ったのか、ウェンダクドイスはコーインクルリズ様に向かって魔法を放とうとする。

 そうはさせるもんか。

 僕も魔法を放つ。

 地面から飛び出した鎖は、ウェンダクドイスを狙って飛ぶけど、後少しのところで避けられてしまう。

 魔法で飛んで木の上まで逃げたウェンダクドイスは、僕を睨みつけた。

「……一体、なんの真似ですか? トルフィレ様……あなたまで、他人の領地で横暴を働こうと言うのですか?」
「違います。今あなたが、コーインクルリズ様を背後から魔法で狙っていたのが見えたから、先に止めようとしただけです」

 確かに今、話しながらあの男は腰の辺りに手をやった。そこが微かに光っていたんだ。あいつ、何か持っている。恐らく、暗殺によく使われる魔法の武器だろう。

 けれど、コーインクルリズ様を背後から狙っておいて、ウェンダクドイスは平然と言った。

「はい。狙いましたよ? その男を倒すつもりでした。当然ではありませんか」
「当然って…………い、命を狙ったことがですか!? なんで…………コーインクルリズ様は、あなたが仕える領主じゃないんですか!?」
「違います。この男は、たまたま領主の家に生まれて領主になっただけです」
「………………そんな……」
「こんな乱暴なだけの男を、誰が領主だなんて認めるでしょう。やっていることは、魔物との戦闘ばかり。それも、俺一人でいいと言っては、ほかの者たちを侮辱して置いていく始末…………どうせ、魔物相手に暴れたいだけでしょう? 今もこうして、ずっと朝から魔物と戦ってばかりではありませんか。彼の力なら、広範囲を攻撃する魔法で簡単に全て打ち滅ぼすことができるはずです。それを……なぜこんなにもたもたしているのか…………よほどここに居座って、魔物と遊んでいたいと見える。それならさっさと領主の座は譲って、まともな者に領主になってもらった方が、皆のためなのですよ。あなたも領主なら、その程度のこと分かるはずです」
「…………コーインクルリズ様が、広範囲を薙ぎ払う魔法を使わないのは、ここに人がいるからです。ここには、テアティリルさんたちがいて、そばには村もあるんじゃないんですか? 彼らを巻き込みたくないんです。あなたの方こそっ……そっ……そんなことも分からず、背後からコーインクルリズ様を魔法で撃とうとしたのですかっ……!?」
「いいえ。ただ私は、あなた方を相手にコーインクルリズ様が剣を振るったので、取り押さえようとしただけです」
「………………は?」

 聞き返す僕に、ウェンダクドイスは胸を張って答える。

「自分達が領主とする男が、隣の領地の領主に剣を向け、あまつさえ、王族を手にかけようとしていたのです。拘束して何が悪いのです?」
「それはっ……あなたが僕らを疑うように仕向けたからじゃないですか!! それなのに……僕らに手を上げようとしたから、コーインクルリズ様を止めようとしたって言うんですか?」
「そうです。それに、私はそう言った可能性もあると言っただけです。コーインクルリズ様が、あなた方を狙ったところを、周りの魔法使いたちもみんな見ています。止めようとするのは当然です」
「…………」

 僕が黙ると、その人は勝ち誇ったように笑う。

「分かったら、今度は邪魔しないでください」

 そう言ったそいつが、コーインクルリズ様に向き直ったとき、僕の魔法がウェンダクドイスの服の中から、魔法の武器を取り出した。

 話している間、ずっと隙を狙っていた甲斐があった。

 一見、普通の瓶にしか見えないけど、一瞬で強い魔法をかけて、相手を倒すためのもの、暗殺のための武器だ。
 相手は武人として名を馳せた猛将だし、あんなに恐ろしい威力の魔法を使う。そんな人を相手にするなら、魔法だけで立ち向かうより、魔法の道具で強化したり、魔法の武器を使うはずだ。

「………………これで、コーインクルリズ様を背後から狙っていたんですね……」
「あなたは……」
「…………テアティリルさんたちを討伐しろと命じる書簡…………それを偽造したのも……あなたですか?」

 僕がたずねるのを聞いて、コーインクルリズ様は、ひどく驚いていた。やっぱりテアティリルさんたちが見たものは、偽造されたものだったんだろう。

 けれど、ウェンダクドイスは平然と言う。

「なんのことでしょう? 言いがかりですね」
「…………書類の偽造とか領主の一族の旗の偽造とか、誰でも簡単にできることじゃありません。偽造のための、魔法の道具を使っているはずです」
「それが?」
「……あなた方が雇った人たち…………テアティリルさんたちの口を塞ぐために雇った人たちは、テアティリルさんたちに退けられて、今は盗賊の真似事をしています。彼らのことは、今、僕の領地で預かっているので、彼らに聞けば証言が得られるはずです。先ほどあなたは、僕らを守るためにコーインクルリズ様を手にかけようとしたとおっしゃいましたが、本当は、彼らを拘束している僕らだって、邪魔だったんじゃないんですか?」
「………………」

 ウェンダクドイスは、黙って僕を睨みつけた。そしてため息をつく。

「本当に……話に聞いていたとおりの面倒な男だ……」
「…………え?」
「アフィトシオたちの方が、まだ扱いやすかった…………商人どもが、扱いやすい連中がいなくなったと言っていたが……その代わりが、こんな面倒な男だったなんて。お前のような男が次の領主だなんて、興醒めだな」
「…………」

 扱いやすいって……完全に馬鹿にされている。アフィトシオたちも、途中で支払いが滞り、商人たちからはほとんど見捨てられていたようだし。酒と武器と道具を言い値で買ってくれる、便利な金ヅルだったんだろう。

 頭を抱えたくなるけど、この人の前でそんなことをするのも癪で、僕は彼から目を離さずにいた。

「…………あなたのために、次の領主を決めるわけではありません。そしてここの領主は、コーインクルリズ様です。僕は、あなたではなく、コーインクルリズ様と会議を開きにきたんです。それなのに、背後から狙われては困ります!」
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