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8.出発だ!
しおりを挟む納屋から外に出た僕は、ロヴァウク殿下の部屋の窓に向かった。
王子が護衛を一人だけ連れて、危険な魔物が跋扈する荒野に向かうなんて、そんなはずがない。他にも何人か連れているはず。何人仲間がいるのかくらいは、知っておいた方がいい。
僕が、相手の足を止めることを考えたように、向こうも、僕を潰して荒野の城に向かおうとするかもしれない。
僕が王子をやるのと違って、ロヴァウク殿下なら、いつでもリスクなしに僕を殺せる。僕が王子に擦り傷一つでも追わせれば、その場で処刑だろうが、王子が僕を殺しても、多分僕の死は魔物にやられた事故か、王子を襲撃したとか、適当な冤罪をかけられて、当然の死として処理されるんだ。
「あの王子……絶対何か企んでるんだ……僕のことを無下にできないとか、回復の薬を渡したりするあたりが特に疑わしい……僕は騙されないからな……」
「今日も元気に歪んでるねー、レクレット」
いつのまにかリュックの上に乗っていたライイーレ殿下が言うから、僕はびっくりした。
あれ? 声に出してた!??
「ぼ、僕……もしかして、独り言、言ってましたか……?」
「うん。いつもどおり、全部聞こえてた」
「……聞こえなかったことにしてください……」
僕がいつものようにそう言うと、ライイーレ殿下は「はーい」と軽い返事をする。
「俺は何も聞いてません!」
「ありがとうございます……あ、あと、リュックから出ないでください! あ、危ないです……」
「はーい! あ、後で、ビーフジャーキー買ってね!」
「……余裕があれば……」
なんだか恥ずかしい……聞かれていたなんて。
ライイーレ殿下は、僕がブツブツと愚痴を言いまくっていても、まるで気にしない。そういうところはありがたい。
納屋を出ると、微かに視線を感じた。振り向けば、砦の窓からこっちを盗み見て、指をさしては何かコソコソ話している奴らがいた。出ていく僕のことを何か話しているんだろう。
けれど、僕は一応、王族の命令で魔物退治に向かう身だ。下手に邪魔をすれば、責任を問われる。そんな危険を冒してまで、僕に嫌がらせをする気はないんだろう。
そんなに心配そうにしなくても、もう二度と戻ってなんか来ないよ……
逃げるようにロヴァウク殿下の部屋の窓まで行くと、中には誰もいない。なんで……?
「で、殿下!? え!?」
窓から念入りに部屋の中を確認するけど、そこはすでに綺麗に片付けられている。昨日僕が、裸同然の格好で風呂から出て濡れた床も、何事もなかったかのように綺麗になっている。
そうか……殿下はすでに出発したんだ。
…………あの王子ーーーー! ずるいぞ!! 先に行くなんて!!
最初から出遅れた。僕に隠れて出発なんて、卑怯なんだよ!!
僕は、リュックを担ぎ直して、砦の門へ向かった。
けれどそこで、背後から呼び止められた。昨日僕を怒鳴っていた警備隊長と、昨日の日中、街で魔物が出た時に、背後から僕を魔法で撃った警備隊の魔法使いだ。
嫌な奴らに見つかってしまった……
「あの……何か、ご用ですか?」
警戒しながら恐る恐るたずねると、警備隊長は、僕を睨みつける。
「ロヴァウク殿下には、決して無礼のないようにしろっ……!! 本来はお前なんかがお話しできるような方ではないのだ!」
「……分かっています。無礼なんて、働く気はありません……お世話になりました!」
叫んで、それ以上何か言われる前に、僕は警備隊の砦を飛び出した。
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