虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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75.なんの騒ぎですか?

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 話を続けていると、クロウデライが厨房に入ってきた。

「隊長、おはようございます………………お前ら、何してるんだ?」

 彼は、すぐに僕らに気づいて、首を傾げる。

「お前ら、今日当番だったか?」
「いいえ……目が覚めてしまって……えっと……お、お腹が空いたので……」
「……当番じゃない日は寝てろー…………眠れなかったのか?」
「いいえ。多分、これまでで一番よく眠れました……」
「……あのボロベッドでか? …………変な貴族だな…………おい、そいつ……」

 彼が、さっき隊長が作ったサンドイッチの皿を指差す。
 何かと思えば、小さな犬の姿のライイーレ殿下が、お皿によじ登っていた。

「ら、ライイーレっ……じゃなくて、ライーレ!! だ、ダメだろっ……朝ごはんなら後であげるからっ……」

 なんて言っても、ご飯を前にしたライイーレ殿下が聞いてくれるはずなくて、彼は抱き上げた僕の手から逃れようと暴れている。
 バタバタしているライイーレ殿下を、クロウデライはじっと見つめていた。

「……それ、昨日も連れてたよな? 一体何なんだ? 犬っぽいけど……ずいぶん小さいな……」
「あっ……えっと…………その……」
「魔獣の類か?」
「あ、ま、まあ……そ、そんな感じです……ちょっ……! ライーレ! あ、暴れないでっ……!」
「……メシ、用意してやるよ」
「え? で、でも……」
「……ついでだよ。ついで。こいつだって、腹減ってるんだろ」

 クロウデライは、僕の手から逃げ出したライイーレ殿下を摘んで、僕に渡してくれた。

 それから彼は、手際よく野菜を切り始める。だけど、ここの人数分の食事を作るのだって、大変なはずなのに。

「あ、あのっ……ライーレのご飯なら、僕が用意します」
「別にいい。俺、今日当番だし。お前らは、向こう行ってろよ」

 そういう彼は、ずっとあくびをしている。
 眠そうな彼に、隊長は「今日は夜だけでいいと言っただろう」と言うけど、クロウデライは首を横に振る。

「目が覚めました。貴族がうるせーから。隊長こそ、後は俺がやるんで、食堂行っててください……」

 また大きなあくびをする彼に、僕は駆け寄った。

「く、クロウデライさん! でんか……じゃなくて、ペットのごはんくらい、僕が……」
「昨日遅くまで始末書かいてた奴は向こう行ってろー……貴族がいると飯作りづれー……」

 そう言って、彼は僕らに背を向けてしまって、僕もそれ以上声をかけづらくなる。だけど、クロウデライだって、昨日あったことの報告書を夜遅くまで書いていたのに。

 あくびをしながら、彼はフライパンを取り出している。
 するとロヴァウク殿下が、彼の背後から近づき、フライパンを取り上げてしまった。

「俺に貸せ」
「何すんだよ! 貴族!!」
「料理なら、俺が作る」
「お前、今日当番じゃないだろ! 返せよ! 貴族!!」
「貴族貴族とうるさい奴だ。貴族にも、食事くらい作れる」
「お前なんかに何ができるんだよ!! 作り方知ってんのか!?」
「ロティスルートが作るのを見たことがある」
「誰だよ……つーか、見たことあるだけか!?」
「任せておけ」

 ロヴァウク殿下は楽しそうに、フライパンを、食材を乗せる方を下にして、コンロに置く。すでに料理ができるとは思えない。

 クロウデライが、呆れたように言った。

「……逆。逆だよ……」
「……」

 無言で素直にフライパンをひっくり返した殿下は、今度は調理台に置きっぱなしだった野菜を、フライパンの上に全部乗せて、火炎の魔法をかけようとする。
 僕は慌てて彼に飛びついて止めた。

「やめてください! ロヴァウク殿下!! そんな強い魔法かけたら燃え尽きちゃいます!」
「加減はする。火加減が大事だと、ロティスルートが言っていた」

 とびつく僕とロヴァウク殿下で揉み合いになり、クロウデライにフライパンを取り上げられてしまう。

「返せ!! フライパンまで燃やすな!! お前らは向こう行ってろ…………おい! そいつ捕まえろ!」
「え?」

 彼が指差す方に振り向けば、サンドイッチの皿から、ライイーレ殿下が逃げていく。その上に乗っていたはずのサンドイッチが半分以上なくなっていて、しかも、逃げる途中にスパイスの入った瓶をひっくり返している。
 それにも構わず逃げる彼は、一つも逃さないとばかりにローストビーフをくわえていた。

「ら、ライーレ! ダメだろ!!」

 捕まえようとする僕の手から、あっさり逃げて、ライイーレ殿下は、厨房から出て行ってしまう。ここに来て、美味しいものがいっぱいあって、嬉しいんだろうな……

「待って!」

 叫ぶ僕から逃げる彼を、ちょうど厨房に入ってきたニュアシュが抱っこして捕まえてくれた。

「……おはようございます。なんの騒ぎですか?」
「…………朝食の準備中だ」

 そう隊長は答えるけど、ニュアシュには信じてもらえそうにない。
 それもそのはず、調理台では野菜が散らかり、フライパンは床に落ちてしまい、クロウデライはロヴァウク殿下に掴みかかっている。

「あまりそうは見えませんが……」
「ニュアシュ」

 彼の名前を呼んだ隊長は、彼に向かって魔法で取り出した書類を放った。

「処理しておいてくれ。夕方頃に、大切な客が来る」
「……また私は裏方ですか? しかもこんなに……」

 嫌そうな顔をする彼に、ロヴァウク殿下が腕を組んで言う。

「後で援軍をやる。王家の折り紙付きだ」
「…………隠す気があるのですか? そんな風だと、クロウデライ以外にはすぐにバレますよ」

 それを聞いて、クロウデライが「俺がなんだって!?」と怒鳴り出して、また喧嘩になりそうだった。
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