虐げられた僕は、ライバルの最強王子のパーティになんて入りません! 僕たちは敵同士です。溺愛されても困ります。執着なんてしないでください。

迷路を跳ぶ狐

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101.代わりに

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 先に警備隊の砦に戻った僕は、今日現れた魔物についてコティトオン隊長に報告するため、隊長室に向かって歩いていた。

 そろそろ夕日も沈む。報告が終わったら食堂に行こう。

 今日の夕飯のことを考えながら歩いていたら、途中でニュアシュに会った。彼は、書類の束を抱えていて、少し重そう。

 僕は彼に駆け寄った。

「大丈夫ですか? 手伝います!」
「いえ……隊長の部屋までだから、すぐに持っていけます」
「僕も隊長室に行くところだったんです! だから、ついでです!!」

 繰り返して言うと、彼は「ありがとうございます」と言って、僕にいくつかの書類を渡してくれた。

「ロヴァウはいつ戻ってくるのですか?」
「えっと……僕にも分からなくて……」

 子爵を王城に連れて行ったロヴァウク殿下は、まだ帰ってこない。僕には、すぐに帰ってくるって言ってたのに。彼と一緒に王城に向かったライイーレ殿下もまだ帰らないし、なんの連絡もない。

「殿下たちのことだから、大丈夫だと思うんですが……」
「ロヴァウなら、きっとすぐにあなたのところに帰ってきますよ」
「ニュアシュさん……あ、ありがとうございます」
「……やはり、荒野の城に行くことは変わらないのですか?」

 隣を歩くニュアシュがそう聞いてくれて、僕が振り向くと、彼は少し寂しそうにしていた。
 ニュアシュたちには、ずっとここにいたらどうかって提案されたけど、これは、ロヴァウク殿下との約束なんだ。

「……すみません……よくしていただいたのに……」
「それは気にしないでください。レクが来てくれて、私たちは助かりました。あなたが来なければ、ここは今にも潰れそうな警備隊のままだったでしょうし、隊員が集まることもなかったはずです。本当に、感謝してます」
「やっ……やめてください!! 僕は何にもしてません!! ぜんぶ、ロヴァウク殿下のおかげで…………僕は、本当に何も……」
「そんなに照れなくていいんですよ」
「は!!?? ち、ちょ……ほ、本当にやめてください!! そ、そのっ……あのっ……ぼ、僕……荒野の城に行ってみたいんです。クレノジ殿下には、もうそう言ってしまっているし、何よりも、今より腕を磨けるなら、それが嬉しいので……」
「そうですか……」
「あ、あのっ……! ま、魔物退治の腕を上げて、荒野の城の魔物討伐が終わったら……も、もう一回、ここに帰って来ても……いいですか?」
「もちろんです。あなたが戻って来てくれるなら、こんなに嬉しいことはありません」
「ニュアシュさん……」

 僕が役に立てることがあるなら嬉しいし、本当は、ずっとここにいたいとも思った。だけどこれは、王子殿下たちとの約束なんだ。

 それに、結界は元に戻ったし、ギンケールたちのおかげで、人数も増えた。きっとこれで警備隊が魔物に苦戦することはないだろう。

 だからこそ、ここがあまりにも気に入ってしまった僕は、不安だったんだ。
 ここを離れたら、忘れ去られてしまうんじゃないかって。

 そんな不安を消してくれた彼は、僕に微笑んで言った。

「荒野は、ひどく荒れたところだと聞きます。あなた方なら、全く問題はないと思いますが、ちゃんと帰ってきてくださいね」
「はい!!」
「……回復の魔法は? 少しは使えるようになりましたか?」
「う……はい……」

 彼は、僕に回復の魔法を教えてくれた。

 回復の魔法は、ずっとひどく苦手で、その上、レイーイル家は回復の魔法の名手ばかりだったから、僕みたいなのはいないことにされてた。だから今でも、回復の魔法というだけで、身構えてしまう。解毒の魔法なら割と成功したりするけど、回復の魔法はなかなかうまくいかない。
 そんな僕に、ニュアシュは「ここにいる間、少し学んでみてはどうでしょう」と言ってくれて、魔法を教えてくれた。
 だけど、やっぱり回復は苦手。

「ちょっとだけ成功率が上がったくらいで……」
「いいえ。よくできています。私も昔はひどく魔法が苦手だったので……」
「そうなんですか? 意外です……」
「荒野に行くまでに、もう少し教えます」
「あ、ありがとうございます!」

 話している間に、隊長室のドアが見えてくる。両開きのそれをコンコン叩くと、すぐに「入っていい」という返事が聞こえた。

 ドアを開く。
 デスクの向こうでこちらに背を向けていた男に、「隊長」と声をかけようとしたら、彼の方が先に振り向いた。

「遅いぞ。レクレット」
「何してるんですか!! ロヴァウク殿下!!」

 そこにいた、隊長だと思った人は、隊長と同じ格好をしたロヴァウク殿下じゃないか。

 何してるんだ一体! 帰ってくるなんて聞いてないぞっ!!

 びっくりしすぎて胸が痛いくらいだ。

 それなのに、殿下は楽しそうだ。

「久しぶりの再会だというのに、その態度はないんじゃないか? さては、俺に会えなくて拗ねていたな?」
「すっ……拗ねてなんかいません!! なんなんですか! その格好!!」
「もちろん、隊長の格好だ。似合うだろう?」
「……脱力するほど似合ってますよ……」
「そうかそうか」

 なんだか嬉しそうだな……
 わざわざコティトオン隊長のふりして何してるんだ……狼の耳と尻尾までなくなってるし、きっと僕らを驚かすために魔法で消したんだ。おかげでめちゃくちゃびっくりした……

 だけど、突然現れて僕を驚かせて楽しそうにしている殿下を見ていると、本当にロヴァウク殿下が帰ってきたんだって、実感できる。

 殿下がお城に帰っちゃってから、本当に寂しかった。
 もう戻って来なかったら、二度と会えなかったらどうしようって思って、不安だった。

 こうしてロヴァウク殿下の姿を見ることすら久しぶり。

 だけど、びっくりしすぎて「会えて嬉しい」って言えなかった……

 本当は怒鳴ったりしないで、素直にそう言う予定だったのに。殿下がいない間、再会したらどんな話をしようとか、色々考えていたのに……

「あ、あの、殿下……」
「どうした? 久しぶりの再会だ。もっと喜んでいいぞ」
「……喜んでます……これでも……」

 素直に言うと、急に恥ずかしくなる。
 ますます真っ赤になりそうな顔を、慌てて隠した。

「そ、それにしてもっ……こんなところで、何してるんですか? コティトオン隊長は?」

 ここは隊長室なのに、肝心のコティトオン隊長がいない。どこかへ出掛けているのかと思って聞いたら、殿下は胸を張って言った。

「いない」
「い、いないって……今朝までいましたよ!?」
「今はいない。俺が警備隊長だ」
「なんでそうなるんですか!!」
「似合うか?」
「……似合ってますよ……さっき言ったじゃないですか……」
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