従者になりたい犬と犬に悪戯したい魔法使い様

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
9 / 68
第一章

9.さようなら

しおりを挟む





 フィーレアとデスフーイは、チイルに近づいてくる。そして、チイルの前まで来ると、手をかざした。


 魔法だろうか、チイルの体がゆっくりと楽になっていく。


 フィーレアが、チイルに囁いた。

「あと少しだけ、我慢してくだい」
「…………」


 なんとか口を開こうとしたけど、ずっとなにも飲んでいないカラカラの喉からは、声など出ない。



(……あと少し? この人たちが来たなら……僕は、処分されるの? ここで死ねるの? そしたら、楽になれる?)



 そう思ったら、ますます力が抜けた。





 チイルを処分するために呼ばれた二人が来ても、チイルの様子に変化がないのを見て、村人の一人がため息をつく。

「やはり……貴方たちでもダメですか? ……ここまで来たのに……」

 すると、フィーレアは首を横に振る。


「いいえ。もう少しやればなんとかなりそうです」


 そう言って、彼は、チイルの傷だらけの体に触れた。

 周りの村人たちが危険ですと次々に喚くが、フィーレアは耳をかさずに、チイルの手を握る。



(なんでこんなことするんだろう……この人は、一体誰なの?)



 記憶を巡らせ、あの地下牢で助けると言われたことを思い出した。
 見上げると、フィーレアも、後ろに立ったデスフーアも、じっとチイルを見下ろしている。
 二人ともなにも言わなかったけれど、チイルのことを優しそうに見下ろしていることだけはわかった。


 握る手が温かい。


 チイルの体が、少し楽になった。激しい痛みもほんの少しではあったが、楽になる。



 もっとこのままでいたい、そう思った矢先、フィーレアはチイルの手を離して立ち上がり、村人たちに振り向く。


「この程度なら、きっとすぐに処理できます。ここからは、私たちに任せてくれませんか?」

 しかし、村人の一人は首を横に振った。

「それは無理です。これのことは、危険物として扱うように上からも言われているんです。誰かに預けるなら、それ相応の許可がいるんです」
「そんなことをしていれば、チイルの体から魔力が漏れてしまいます。それは危険であると、あなた方でもわかるでしょう?」
「ですから、こうして魔力を消耗させているのです。しかし……これの魔力が尽きる気配はなく、村に現れる人魂も消えないのです!! 一体……なぜこんなことをするんだ! この悪魔は!!」
「落ち着いてください。彼は確かに、少しかわった魔力を持っていて、それを扱うのがひどく苦手な故に、悪意なく魔力を漏れさせてしまうようですが、彼に悪気はありません。人魂の原因も、彼だけが原因とは言い切れないのです」
「そんなはずありません!! これが、人魂を呼んだんです!! 私たちだって、弁解の機会を与えてやったのですよ!? そうでないのなら、自分が人魂を呼んでないという証拠を示せと!! それなのに、違うと言うだけでろくな説明もしない!!」
「……」
「これは村を脅かしているのです……早くなんとかしないと、いつ人魂が魔物になって襲ってくるか分からない。これを火山に送る案も出たのですが……」
「火山へ?」
「はい。そこで火責めを続けようという案が出たんです。しかし、そこにつなぐ鎖が脆い。これでは十分な責め苦を与えられず、魔力が抜けないどころか、また逃げ出すのではないかと危惧しているのです」
「待ってください。それも、私たちに任せていただければ……」


 フィーレアも村人たちも、話に夢中だ。それを倒れたまま聞いていたチイルは、絶望した。


 やはり、彼らはチイルを救う気などない。


 彼らが話に夢中になっている今なら、まだ逃げられるかもしれない。


 そう思った瞬間、チイルの足は勝手に動き出していた。

 ふらふらの足で立ち上がるが、すでに体力も尽き果てた体で走ることなどできるはずもなく、すぐに倒れてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました

すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。 第二話「兄と呼べない理由」 セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。 第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。 躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。 そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。 第四話「誘惑」 セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。 愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。 第五話「月夜の口づけ」 セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 1000 Thank_You!!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...