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第一章
9.さようなら
しおりを挟むフィーレアとデスフーイは、チイルに近づいてくる。そして、チイルの前まで来ると、手をかざした。
魔法だろうか、チイルの体がゆっくりと楽になっていく。
フィーレアが、チイルに囁いた。
「あと少しだけ、我慢してくだい」
「…………」
なんとか口を開こうとしたけど、ずっとなにも飲んでいないカラカラの喉からは、声など出ない。
(……あと少し? この人たちが来たなら……僕は、処分されるの? ここで死ねるの? そしたら、楽になれる?)
そう思ったら、ますます力が抜けた。
チイルを処分するために呼ばれた二人が来ても、チイルの様子に変化がないのを見て、村人の一人がため息をつく。
「やはり……貴方たちでもダメですか? ……ここまで来たのに……」
すると、フィーレアは首を横に振る。
「いいえ。もう少しやればなんとかなりそうです」
そう言って、彼は、チイルの傷だらけの体に触れた。
周りの村人たちが危険ですと次々に喚くが、フィーレアは耳をかさずに、チイルの手を握る。
(なんでこんなことするんだろう……この人は、一体誰なの?)
記憶を巡らせ、あの地下牢で助けると言われたことを思い出した。
見上げると、フィーレアも、後ろに立ったデスフーアも、じっとチイルを見下ろしている。
二人ともなにも言わなかったけれど、チイルのことを優しそうに見下ろしていることだけはわかった。
握る手が温かい。
チイルの体が、少し楽になった。激しい痛みもほんの少しではあったが、楽になる。
もっとこのままでいたい、そう思った矢先、フィーレアはチイルの手を離して立ち上がり、村人たちに振り向く。
「この程度なら、きっとすぐに処理できます。ここからは、私たちに任せてくれませんか?」
しかし、村人の一人は首を横に振った。
「それは無理です。これのことは、危険物として扱うように上からも言われているんです。誰かに預けるなら、それ相応の許可がいるんです」
「そんなことをしていれば、チイルの体から魔力が漏れてしまいます。それは危険であると、あなた方でもわかるでしょう?」
「ですから、こうして魔力を消耗させているのです。しかし……これの魔力が尽きる気配はなく、村に現れる人魂も消えないのです!! 一体……なぜこんなことをするんだ! この悪魔は!!」
「落ち着いてください。彼は確かに、少しかわった魔力を持っていて、それを扱うのがひどく苦手な故に、悪意なく魔力を漏れさせてしまうようですが、彼に悪気はありません。人魂の原因も、彼だけが原因とは言い切れないのです」
「そんなはずありません!! これが、人魂を呼んだんです!! 私たちだって、弁解の機会を与えてやったのですよ!? そうでないのなら、自分が人魂を呼んでないという証拠を示せと!! それなのに、違うと言うだけでろくな説明もしない!!」
「……」
「これは村を脅かしているのです……早くなんとかしないと、いつ人魂が魔物になって襲ってくるか分からない。これを火山に送る案も出たのですが……」
「火山へ?」
「はい。そこで火責めを続けようという案が出たんです。しかし、そこにつなぐ鎖が脆い。これでは十分な責め苦を与えられず、魔力が抜けないどころか、また逃げ出すのではないかと危惧しているのです」
「待ってください。それも、私たちに任せていただければ……」
フィーレアも村人たちも、話に夢中だ。それを倒れたまま聞いていたチイルは、絶望した。
やはり、彼らはチイルを救う気などない。
彼らが話に夢中になっている今なら、まだ逃げられるかもしれない。
そう思った瞬間、チイルの足は勝手に動き出していた。
ふらふらの足で立ち上がるが、すでに体力も尽き果てた体で走ることなどできるはずもなく、すぐに倒れてしまった。
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