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第一章
10.誓いだ
しおりを挟む背後から、すぐに追ってきた村人が、チイルの体を鉄の棒で殴りつける。
「また逃げ出したか!!」
「うっ……」
呻くチイルの体に、棒が振り下ろされそうになる。その手を、間に入ったデスフーイが握って止めた。
「よせ。そんなことをしても、力は封印できない」
「ですがもう、手がありません!! これは村の大窯に幽閉します!! そこで絶えず火を焚けば、炎がこいつの魔力をじわじわと焼き落としてくれるはずです!」
「……」
デスフーイは、まるで汚いものでも見るかのように、叫んだ男を睨みつける。その気迫に押されて、村人たちは後ろに下がって口を閉じた。
フィーレアは、チイルを見下ろして言った。
「私たちと共に、火山へ行く勇気はありますか?」
「え……?」
「そこでの苦痛は、想像を絶するものとなるでしょう。それでも来ますか?」
「……」
チイルには、もう、逆らう気力すらなかった。
(結局、そうなるのか……何をしても、この苦痛からは逃れられないんだ)
火山は、人の寄り付かないところだと聞く。そんなところで、人知れず朽ちていくほうが楽かもしれない。
チイルは、ついにうなずいた。
それを見たフィーレアは、村人たちに振り返る。
「来るそうです。私たちに任せてくださいますね?」
「いや……しかし……本当に安全ですか? むしろ、そばに置いて火責めを続けたほうが、我々の安全は保証されるのではないでしょうか」
まだしぶる村人に、デスフーイが言った。
「おーい。いい加減にしないとそいつ、キレるぞー」
「き、キレる?」
「許可がいるっていうなら、俺たちが取る。お前らの上なら、そこの城の領主だろ? 俺たちなら、いくらでも話を通せる。それとも、他に誰かいんのか?」
「そ、それは……もちろんいませんが……しかし……」
「いないんならいいだろ? チイルはこっちで預かる。火山にも連れて行く。どうせ俺たちはそこから来たんだ。そこで、俺たちがチイルを見張る。他になんか問題あんのか?」
「あります!! 先ほどそれが逃げ出したのを見たでしょう!! いくらあなた方とはいえ、たった二人で見張って、それが逃げたらどうするのです!?」
「あー、うるせーなー……だったら、チイルに魔法の拘束をする。それをかけられると、俺たちに決して逆らえなくなる。それでいいだろ?」
「し、しかし……」
「なんだよ? まだなんかあんのか?? 他に都合悪いことあんなら話してみろ」
「それは……」
村人たちは、次々とデスフーイから顔を背ける。
今度はフィーレアが、パンパンと手を叩いた。
「デスフーイ、少し、乱暴ですよ? 村の方々にも、ちゃんと分かっていただかなくては」
「……いいだろ別に」
「そんなわけには参りません」
ヘソを曲げたデスフーイのかわりに、今度はフィーレアが、村人たちに振り向いく。
「私たちが火山に住んでいることは、あなた方もご存知のはずです。そこに、チイルを幽閉します。心配でしたら、魔法もかけましょう。体をじわじわと痛めつけ、死ぬほどの恥辱を与えて、気力を削ぎ、決して逆らわないように洗脳する、いわば拷問の魔法というものがあります。チイルは、焼ける火山につなぎ止められ、さらに昼夜を問わず、常に拷問され続けるのです。これなら、あなた方も安心でしょう?」
「ま、まあ……確かに…………」
「では、チイルは連れて行きます。何かあれば、いつでもおっしゃってください。ただし……決してチイルを返せと言わないと約束してくださいますね?」
「そ、それは……」
「何か問題があるなら、話していただけますか? チイルの報告とともに、領主にも話をつけてあげますよ?」
「い、いえ……そんな……恐れ多い……」
「では、問題ありませんね。チイルは連れて行きます。デスフーイ、いつまでもふてくされてないで、行きますよ」
フィーレアに振り向いて言われ、デスフーイは、気のない返事をする。
「……仕方ねえ……行くぞ」
「はい。参りましょう」
フィーレアが、握った杖を振る。
それに従うように川の水が浮き上がり、半透明の巨大な水の竜が現れた。
(すごい……何て魔力だ…………)
驚くチイルを、デスフーイが抱き上げる。
「わ!? え……?」
「落ちねぇように捕まってろ」
デスフーイは、チイルを抱っこしたまま、竜に飛び乗る。
「これは、俺たちが連れて行く。決して追ってくるな。二度と、これに関わることは許さない……いいか。これは誓いだ…………」
デスフーイが村人たちに、どこか一方的な誓いをさせる間も、竜は空高く飛んでいく。
それを聞いているのかいないのか、そこにいた村の面々は、誰もが恐怖と嫌悪の目で、チイルたちを見上げていた。
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