従者になりたい犬と犬に悪戯したい魔法使い様

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
10 / 68
第一章

10.誓いだ

しおりを挟む





 背後から、すぐに追ってきた村人が、チイルの体を鉄の棒で殴りつける。

「また逃げ出したか!!」
「うっ……」

 呻くチイルの体に、棒が振り下ろされそうになる。その手を、間に入ったデスフーイが握って止めた。

「よせ。そんなことをしても、力は封印できない」
「ですがもう、手がありません!! これは村の大窯に幽閉します!! そこで絶えず火を焚けば、炎がこいつの魔力をじわじわと焼き落としてくれるはずです!」
「……」

 デスフーイは、まるで汚いものでも見るかのように、叫んだ男を睨みつける。その気迫に押されて、村人たちは後ろに下がって口を閉じた。



 フィーレアは、チイルを見下ろして言った。

「私たちと共に、火山へ行く勇気はありますか?」
「え……?」
「そこでの苦痛は、想像を絶するものとなるでしょう。それでも来ますか?」
「……」


 チイルには、もう、逆らう気力すらなかった。


(結局、そうなるのか……何をしても、この苦痛からは逃れられないんだ)


 火山は、人の寄り付かないところだと聞く。そんなところで、人知れず朽ちていくほうが楽かもしれない。
 チイルは、ついにうなずいた。



 それを見たフィーレアは、村人たちに振り返る。

「来るそうです。私たちに任せてくださいますね?」
「いや……しかし……本当に安全ですか? むしろ、そばに置いて火責めを続けたほうが、我々の安全は保証されるのではないでしょうか」


 まだしぶる村人に、デスフーイが言った。

「おーい。いい加減にしないとそいつ、キレるぞー」
「き、キレる?」
「許可がいるっていうなら、俺たちが取る。お前らの上なら、そこの城の領主だろ? 俺たちなら、いくらでも話を通せる。それとも、他に誰かいんのか?」
「そ、それは……もちろんいませんが……しかし……」
「いないんならいいだろ? チイルはこっちで預かる。火山にも連れて行く。どうせ俺たちはそこから来たんだ。そこで、俺たちがチイルを見張る。他になんか問題あんのか?」
「あります!! 先ほどそれが逃げ出したのを見たでしょう!! いくらあなた方とはいえ、たった二人で見張って、それが逃げたらどうするのです!?」
「あー、うるせーなー……だったら、チイルに魔法の拘束をする。それをかけられると、俺たちに決して逆らえなくなる。それでいいだろ?」
「し、しかし……」
「なんだよ? まだなんかあんのか?? 他に都合悪いことあんなら話してみろ」
「それは……」

 村人たちは、次々とデスフーイから顔を背ける。


 今度はフィーレアが、パンパンと手を叩いた。


「デスフーイ、少し、乱暴ですよ? 村の方々にも、ちゃんと分かっていただかなくては」
「……いいだろ別に」
「そんなわけには参りません」

 ヘソを曲げたデスフーイのかわりに、今度はフィーレアが、村人たちに振り向いく。

「私たちが火山に住んでいることは、あなた方もご存知のはずです。そこに、チイルを幽閉します。心配でしたら、魔法もかけましょう。体をじわじわと痛めつけ、死ぬほどの恥辱を与えて、気力を削ぎ、決して逆らわないように洗脳する、いわば拷問の魔法というものがあります。チイルは、焼ける火山につなぎ止められ、さらに昼夜を問わず、常に拷問され続けるのです。これなら、あなた方も安心でしょう?」
「ま、まあ……確かに…………」
「では、チイルは連れて行きます。何かあれば、いつでもおっしゃってください。ただし……決してチイルを返せと言わないと約束してくださいますね?」
「そ、それは……」
「何か問題があるなら、話していただけますか? チイルの報告とともに、領主にも話をつけてあげますよ?」
「い、いえ……そんな……恐れ多い……」
「では、問題ありませんね。チイルは連れて行きます。デスフーイ、いつまでもふてくされてないで、行きますよ」

 フィーレアに振り向いて言われ、デスフーイは、気のない返事をする。

「……仕方ねえ……行くぞ」
「はい。参りましょう」

 フィーレアが、握った杖を振る。

 それに従うように川の水が浮き上がり、半透明の巨大な水の竜が現れた。

(すごい……何て魔力だ…………)

 驚くチイルを、デスフーイが抱き上げる。

「わ!? え……?」
「落ちねぇように捕まってろ」

 デスフーイは、チイルを抱っこしたまま、竜に飛び乗る。

「これは、俺たちが連れて行く。決して追ってくるな。二度と、これに関わることは許さない……いいか。これは誓いだ…………」

 デスフーイが村人たちに、どこか一方的な誓いをさせる間も、竜は空高く飛んでいく。

 それを聞いているのかいないのか、そこにいた村の面々は、誰もが恐怖と嫌悪の目で、チイルたちを見上げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 1000 Thank_You!!

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました

すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。 第二話「兄と呼べない理由」 セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。 第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。 躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。 そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。 第四話「誘惑」 セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。 愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。 第五話「月夜の口づけ」 セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...