従者になりたい犬と犬に悪戯したい魔法使い様

迷路を跳ぶ狐

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第六章

61.嫌なら

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 恥ずかしくて、頭の犬耳が震える。尻尾まで震えて、ずっと垂れていた。


 しばらく経っても、二人は何も言ってくれない。

 間が長すぎて、ますます不安になってきた。


 恐る恐る、顔を上げようとする。けれどそれより先にフィーレアに、持っていた札を取り上げられてしまった。

「フィーレア……さま?」

 その顔がいつもより厳しい気がして、チイルは怖くなる。
 怒らせてしまったのだろうか。


「……あ、あの…………あの、フィーレア……さま?」
「あなたは、自分が何を言っているのか、わかっていますか?」
「え?」


 彼の手が、チイルの頬に触れる。

 その手がいつもより熱い。彼の顔も、少し赤くて、どこか辛そうに見えた。


「……そんなことを言って、どうせ自分で何を言っているのか、分かっていないのでしょう?」
「そ、そんなことないです!! 僕は本当に、ずっとお二人の…………ひゃっ!!」


 今度は、背後から抱きしめられた。デスフーイだ。

 ギュッと、背中から抱きしめられて、その力はどんどん強くなっていく。
 彼の体が熱い気がした。チイルの体まで、どんどん体温を増していくようだ。


「で、デスフーイ……さま?」


 背後の彼に振り返る。

 見上げると、いつも明るい彼まで、少し辛そうだ。


「ひでーやつ……俺らがどんな目でお前見てたか、知らずに言ってるだろ? 殺し文句か?」
「え……? え? えっと……で、デスフーイさま?」


 何のことだか、分からなかった。
 二人に対して、ひどいことをした覚えはない。
 もししてしまっていたなら、謝りたい。


 口を開こうとした。


 けれど、ぎゅうっと、背後から抱きしめる腕に力が入る。たずねるはずの口から漏れたのは、喘ぎ声だけ。


「ぅっ……!」


 締め付けられた体が痛い。
 それなのに、痛いほどの力で拘束されることが嬉しい。さっき一人で廊下を歩いていた時とは、比べ物にならないほど、心臓が高鳴っていく。


 苦しい。


 それなのに、離して欲しくない。


「で、デスフーイ……さま……」
「……そんなこと言うなら……練習、するぞ?」
「え?」


 振り向く。

 すると、デスフーイは、暗い中で光るような、獲物を探すような目をしていた。


 じっと彼を見上げていたチイルに、今度はフィーレアの手が伸びる。


「……ぃっ……!」


 顎を、無理矢理あげられて、チイルの正面に立っていたフィーレアと目があった。
 いつも冷静な彼までもが、どこか熱に酔ったような顔をしている。


「そうですね……練習しましょうか? あなたが……新しい首輪を、本当に欲しいと思っているのか」



 彼が意地悪く笑う。



「……どうですか? 本当に、しますか?」


 声が、耳をくすぐるようだ。
 体温が上がったからだろうか。熱を孕んだ体はいつもよりずっと敏感で、囁くような声だけで、頭が麻痺していく。

 恥ずかしい。
 ひどく、ドキドキする。
 苦しい。

 けれど、ずっと触れていて欲しいし、もっと、触れられたい。


 チイルは微かにうなずいた。


 その瞬間、背後からチイルを抱きしめる力が強くなる。


「で、デスフーイさまっ……!?」
「嫌なら言えよ?」
「え……え?」


 彼の顔が、チイルの首元まできた。

 かすかに、彼の吐息がかかって、くすぐったい。

 濡れたような感触が、さっき囁かれた首元を撫でていく。首筋を舐められたのだ。


「ひゃっ……! で、デスフーイ……さま!?」


 一度、そこを舌でくすぐられただけなのに、熱で体が痺れていく。
 首のあたりを、デスフーイの吐息が撫でて、体が震える。
 さっき舐められたところに、微かに彼の犬歯が触れた。



「……っ!!」



 すでに肌は濡れていて、微かな感触だけでも、敏感に反応してしまう。


 噛みつかれたのかと思った。

 けれど、軽く、くわえられただけ。


 まるで甘噛みのようにされて、甘い果実でもしゃぶるかのように吸われて、舐められる。
 首元から、じゅるじゅると、そこが濡れていく音がした。


 反射的に、彼から逃げようとしたが、すでに体はデスフーイに抱きしめられている。逃げられるはずもない。


 その上、正面には、フィーレアが立って、嬲られるチイルを見下ろしていた。


 じっと自分を見下ろす彼と目が合う。


 その視線が、今、まさに犯されていく自分を眺めているようだ。
 目を逸らしたかった。
 けれど、首筋を嬲るデスフーイに、しっかりと頭まで押さえられてしまい、視線から逃れることすらできない。


「……デスフーイ……先にキスしていいとは言ってません」
「だって……こんなの……我慢できねえだろ!」



 デスフーイが、今度は微かに歯を立てる。


「うっ……!」


 痛かったのは、一瞬。


 硬い歯が触れたのは、微かな時間で、そのあとは、味わうように、舌で愛されていく。
 唇で捕らえられて、吸われて、甘いのに焼けるような刺激が、何度も襲ってきた。


「ふっ……うっ……」


 弄ばれた首元が濡れていく。その度に体の奥の熱が呼び起こされていくようだ。


「チイル……」


 呟いた彼が、ぺろっと、大きな跡ができたところを舐める。


 舐られたそこは、すでにびちょびちょだ。
 たっぷり時間をかけて赤い跡をつけられて、微かな舌の刺激だけでも、大きく体が痙攣してしまう。


 いつのまにか、何度もこすれた太ももの辺りまで汗が滲んでいた。
 もう、足まで痺れたようだ。
 立てもしないチイルの体を、背後から、デスフーイが抱きしめる。


「……で……ですふーい……さま……」
「俺だけじゃ、フェアじゃないからな」
「え? ……あああっっ!!!」


 今度は正面から、強く、首元を吸われた。


 長く黒い髪が、チイルの肩に落ちて、今度はフィーレアの唇が、チイルの首筋を味わっている。


 さっきのキスで、体はすでに、存分に昂っている。

 もう、これ以上の愛撫になんて、耐えられそうにないのに。
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