上 下
111 / 174
番外編6.執事になる!

111.作戦会議をする

しおりを挟む

 オーフィザン様とダンドと僕は、笹桜さんに連れられて、屋敷の奥の一室に案内された。

 笹桜さんが、その部屋の襖を開けると、その部屋には天井がなくて、見上げると、丸い月が見えた。畳が敷かれた部屋の中では、ガラスの大きな玉が浮いていて、その中で、僕よりちょっと小柄な人が寝ている。笹桜さんみたいな耳と尻尾、背中には羽衣みたいな半透明の羽があった。

 笹桜さんが、そのガラスに優しく触れて言った。

「こいつは、雨紫陽花あめあじさい。以前、ここが魔物に襲われた時に怪我をしたんだ。放っておいたら眠ったまま起きなくなる。それで、こうして月の光から与えられる力で包んだのだが、これを狙って魔物がここに押し寄せてくる可能性がある。お前たちにはこいつを守ってやってほしい」

 ふわあ……こんなの、初めて見た。浮かぶガラスの玉は中にふわふわした煙でも入っているように、白いもので霞んでいる。そっと、僕も近づこうとしたけど、背後からダンドに強く腕を掴まれ、止められた。

 オーフィザン様が、ガラスの球に手を添える。

「これは……?」
「俺が丹精込めて作り上げたガラスのゆりかごだ。月に力を借りて作った。ああ、月の光を隠さないでくれ。光を欲しがって飛んで行ってしまう」
「……」

 オーフィザン様がちらって僕の方を見る。

 え? え? なに? なんで目をそらしちゃうの??

 今度は、ダンドが玉を見つめながら言う。

「これは割れるんですか?」
「はは。そんなに簡単には割れない。そんな心配はしなくていい」

 笑いながら笹桜さんが答えても、ダンドは疑うような目をして言った。

「隕石が落ちても割れませんか?」
「……隕石が落ちたら割れる。ガラスだからな。だいたい、隕石が落ちたら、このあたり一帯が壊れる」
「そうですか……隕石で壊れるんじゃダメですね」

 ダンドはオーフィザン様に振り返る。オーフィザン様も頷いた。

「そうだな」

 え? え? なんで二人とも僕を見るの!? 僕、隕石じゃないよ?

 笹桜さんも困惑顔だ。

「二人とも何を言っているんだ? 隕石が落ちる心配は今はしなくていいんじゃないか?」
「……それが今は必要なんだ……」

 オーフィザン様、難しい顔している。なんで隕石の心配してるの?

 オーフィザン様はしばらく考え込んで、僕に振り返っていった。

「クラジュ、お前は俺のそばを離れるな。それだけに集中すればいい」
「正気ですか? オーフィザン様! 隕石三個分のものを一緒に連れててどうするんですか!!」

 だ、ダンド、ひどい……僕って隕石三個分? え、え? 僕、そんなに壊すと思われてるの? このガラスの玉も? 二人ともひどい!! そんなことしないもん!!

「だ、ダンド!! 僕、そんなに壊さないもんっ!」
「……だって、クラジュだから……」

 ……僕だから壊すと思われている……

 しゅんってなっちゃう僕を、オーフィザン様が撫でてくれた。

「俺がそばにいる。離れずにいろ。できるな? クラジュ」
「は、はい!! 僕、頑張ります!!!」

 オーフィザン様のそばを離れない……それくらいならできそう!! ここでドジをせずに頑張れたら、きっとみんなも僕を認めてくれるはずだ!!

 オーフィザン様はダンドに振り向く。

「お前はセリューについていろ」
「……俺はクラジュは屋敷の奥に隠しておくべきだと思います。相手は得体の知れない魔物です。クラジュを連れていれば、ガラスだって危険だし、それを守りながら戦えば、クラジュを危ない目に合わせることになります。俺がセリューとクラジュを見ています」
「いいや。こいつはここに置いておく」
「……なぜですか?」

 ちょっとイライラした様子でダンドがきいて、二人の間に危ない空気が漂う。

 え? え? なんで喧嘩になっちゃうの? 僕がドジだから?

 二人を止めたいけど、どっちにどう話しかけていいか分からない。

 しばらく黙って、オーフィザン様が口を開いた。

「セリューはまだ起き上がることができない。お前には、あいつを頼みたい」
「……オーフィザン様、俺は」
「クラジュがお前のそばにいると、セリューがお前を心配してゆっくり眠れない。あいつを頼んだぞ」
「……」

 ダンドは、少しの間黙ってオーフィザン様を睨んでいたけど、しばらくしてわかりましたと呟いた。

「クラジュをいじめないでくださいね」
「これは俺のものだ。お前にとやかく言われる筋合いはない」
「……」

 う……ダンド、普段見せない怖い顔してる。け、喧嘩にならないよね……? 僕がドジな上に無力なのが悪いんだ。オーフィザン様のお役に立ちたいのに、二人に迷惑かけちゃってる。せめて二人の邪魔になりたくない。

「だ、ダンド……ぼ、僕、お、オーフィザン様がいてくだされば、大丈夫だよ? し、心配してくれてありがとう。でも、僕、僕……大丈夫だから!!」

 彼に安心して欲しくて、一生懸命に言ったら、彼は優しく僕の頭を撫でてくれた。

「気をつけるんだよ」
「う、うん!!」
「オーフィザン様のことが嫌になったら、俺に言うんだよ」
「え? え……え? な、ならないよ? ちゃんと僕、オーフィザン様をお助けするもん……ぼ、僕だって今は執事なんだから!!」
「……クラジュは可愛いね。だけど、気をつけるんだよ?」

 ダンドは僕ににっこり笑って、部屋を出て行った。

 彼が行った方を見つめていると、急に後ろからオーフィザン様に腕を引かれて引き寄せられる。

「俺のそばにいろ……離れるなよ」
「はいっ!!」

 よし!! 頑張るぞ!!

 気合いを入れ直す。僕がちゃんとできたら、ダンドに心配かけちゃうこともなくなるんだ!!

 オーフィザン様に振り向いた笹桜さんが、少し微笑んだ。

「野心家な執事だな。可愛いじゃないか」
「……」
「俺も共にこいつを守る。頼んだぞ。オーフィザン」
「ああ……」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

手足を鎖で縛られる

BL / 連載中 24h.ポイント:1,478pt お気に入り:912

【完結】ステージ上の《Attract》

BL / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:418

ネトゲ世界転生の隠遁生活 〜俺はのんびり暮らしたい〜

BL / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:3,720

極道の密にされる健気少年

BL / 連載中 24h.ポイント:3,437pt お気に入り:1,730

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

BL / 連載中 24h.ポイント:5,035pt お気に入り:1,446

処理中です...