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番外編6.執事になる!
111.作戦会議をする
しおりを挟むオーフィザン様とダンドと僕は、笹桜さんに連れられて、屋敷の奥の一室に案内された。
笹桜さんが、その部屋の襖を開けると、その部屋には天井がなくて、見上げると、丸い月が見えた。畳が敷かれた部屋の中では、ガラスの大きな玉が浮いていて、その中で、僕よりちょっと小柄な人が寝ている。笹桜さんみたいな耳と尻尾、背中には羽衣みたいな半透明の羽があった。
笹桜さんが、そのガラスに優しく触れて言った。
「こいつは、雨紫陽花。以前、ここが魔物に襲われた時に怪我をしたんだ。放っておいたら眠ったまま起きなくなる。それで、こうして月の光から与えられる力で包んだのだが、これを狙って魔物がここに押し寄せてくる可能性がある。お前たちにはこいつを守ってやってほしい」
ふわあ……こんなの、初めて見た。浮かぶガラスの玉は中にふわふわした煙でも入っているように、白いもので霞んでいる。そっと、僕も近づこうとしたけど、背後からダンドに強く腕を掴まれ、止められた。
オーフィザン様が、ガラスの球に手を添える。
「これは……?」
「俺が丹精込めて作り上げたガラスのゆりかごだ。月に力を借りて作った。ああ、月の光を隠さないでくれ。光を欲しがって飛んで行ってしまう」
「……」
オーフィザン様がちらって僕の方を見る。
え? え? なに? なんで目をそらしちゃうの??
今度は、ダンドが玉を見つめながら言う。
「これは割れるんですか?」
「はは。そんなに簡単には割れない。そんな心配はしなくていい」
笑いながら笹桜さんが答えても、ダンドは疑うような目をして言った。
「隕石が落ちても割れませんか?」
「……隕石が落ちたら割れる。ガラスだからな。だいたい、隕石が落ちたら、このあたり一帯が壊れる」
「そうですか……隕石で壊れるんじゃダメですね」
ダンドはオーフィザン様に振り返る。オーフィザン様も頷いた。
「そうだな」
え? え? なんで二人とも僕を見るの!? 僕、隕石じゃないよ?
笹桜さんも困惑顔だ。
「二人とも何を言っているんだ? 隕石が落ちる心配は今はしなくていいんじゃないか?」
「……それが今は必要なんだ……」
オーフィザン様、難しい顔している。なんで隕石の心配してるの?
オーフィザン様はしばらく考え込んで、僕に振り返っていった。
「クラジュ、お前は俺のそばを離れるな。それだけに集中すればいい」
「正気ですか? オーフィザン様! 隕石三個分のものを一緒に連れててどうするんですか!!」
だ、ダンド、ひどい……僕って隕石三個分? え、え? 僕、そんなに壊すと思われてるの? このガラスの玉も? 二人ともひどい!! そんなことしないもん!!
「だ、ダンド!! 僕、そんなに壊さないもんっ!」
「……だって、クラジュだから……」
……僕だから壊すと思われている……
しゅんってなっちゃう僕を、オーフィザン様が撫でてくれた。
「俺がそばにいる。離れずにいろ。できるな? クラジュ」
「は、はい!! 僕、頑張ります!!!」
オーフィザン様のそばを離れない……それくらいならできそう!! ここでドジをせずに頑張れたら、きっとみんなも僕を認めてくれるはずだ!!
オーフィザン様はダンドに振り向く。
「お前はセリューについていろ」
「……俺はクラジュは屋敷の奥に隠しておくべきだと思います。相手は得体の知れない魔物です。クラジュを連れていれば、ガラスだって危険だし、それを守りながら戦えば、クラジュを危ない目に合わせることになります。俺がセリューとクラジュを見ています」
「いいや。こいつはここに置いておく」
「……なぜですか?」
ちょっとイライラした様子でダンドがきいて、二人の間に危ない空気が漂う。
え? え? なんで喧嘩になっちゃうの? 僕がドジだから?
二人を止めたいけど、どっちにどう話しかけていいか分からない。
しばらく黙って、オーフィザン様が口を開いた。
「セリューはまだ起き上がることができない。お前には、あいつを頼みたい」
「……オーフィザン様、俺は」
「クラジュがお前のそばにいると、セリューがお前を心配してゆっくり眠れない。あいつを頼んだぞ」
「……」
ダンドは、少しの間黙ってオーフィザン様を睨んでいたけど、しばらくしてわかりましたと呟いた。
「クラジュをいじめないでくださいね」
「これは俺のものだ。お前にとやかく言われる筋合いはない」
「……」
う……ダンド、普段見せない怖い顔してる。け、喧嘩にならないよね……? 僕がドジな上に無力なのが悪いんだ。オーフィザン様のお役に立ちたいのに、二人に迷惑かけちゃってる。せめて二人の邪魔になりたくない。
「だ、ダンド……ぼ、僕、お、オーフィザン様がいてくだされば、大丈夫だよ? し、心配してくれてありがとう。でも、僕、僕……大丈夫だから!!」
彼に安心して欲しくて、一生懸命に言ったら、彼は優しく僕の頭を撫でてくれた。
「気をつけるんだよ」
「う、うん!!」
「オーフィザン様のことが嫌になったら、俺に言うんだよ」
「え? え……え? な、ならないよ? ちゃんと僕、オーフィザン様をお助けするもん……ぼ、僕だって今は執事なんだから!!」
「……クラジュは可愛いね。だけど、気をつけるんだよ?」
ダンドは僕ににっこり笑って、部屋を出て行った。
彼が行った方を見つめていると、急に後ろからオーフィザン様に腕を引かれて引き寄せられる。
「俺のそばにいろ……離れるなよ」
「はいっ!!」
よし!! 頑張るぞ!!
気合いを入れ直す。僕がちゃんとできたら、ダンドに心配かけちゃうこともなくなるんだ!!
オーフィザン様に振り向いた笹桜さんが、少し微笑んだ。
「野心家な執事だな。可愛いじゃないか」
「……」
「俺も共にこいつを守る。頼んだぞ。オーフィザン」
「ああ……」
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