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31.約束だ

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 狸耳の人は震え上がっていたけど、警備隊の人は、レヴェリルインと距離をとって、彼を睨みつけた。

「な、何もしてねえって言ってるだろっ! そ、そもそもっ……お前はもう、伯爵の弟じゃないだろ!」
「ああ、そうだ。だから気兼ねなくこんなこともできる」

 そう言ってレヴェリルインは、魔法で呼び出した鎖で警備隊の人をぐるぐる巻きにすると、無理矢理奥の扉に放り込む。そして、震えている狸耳の人の襟首を掴んで、扉の向こうに連れていく。

 僕は慌てて、その後を追った。

 なんでレヴェリルインはこんなことしてるんだ!? どうしよう……僕はどうしたらいいんだ!??

 焦りながら、止めることもできなくて、僕はずっと、レヴェリルインについて行った。

 彼は狸耳の人を連れて、鎖で縛った警備隊の人を無理矢理奥の部屋に連れていく。
 そして、さっきの部屋までくると、縛った男を突き飛ばしてしまった。

 床に倒された警備隊の人は、倒れたままレヴェリルインを睨みつける。

「いた……な、なにしやがるっ……!」

 それを見て慌てた狸耳の人が、倒れたままの警備隊の人を庇うように駆け寄った。

「あ、あのっ……城爆破と貴族虐殺の件なら記事にしてないから助けてくださいっ……!」
「そんなことより、俺の従者と何を話していた?」
「え!? き、記事のこと、怒ってるんじゃ……」
「そんなものは知らん。俺の従者と何を話していた? 何かしたのか?」
「な、な、何か? ちょ、ちょっと締め上げただけで何も……」
「……締め上げた?」
「…………ち、違うんです……僕ら何も……わ、悪気があった訳じゃなくて……」

 怖いのか、彼の声はだんだん小さくなっていく。
 怯えるその人を庇うように、今度は警備隊の人が声を上げた。

「やめろっ……! そいつに手を出したのは俺だ!! やりたきゃ俺をやれよ!!」
「……手を出した?」
「ひっ……!」

 二人とも、レヴェリルインを見上げて震えている。

 こんなことしていたら、レヴェリルインはますます誤解されちゃう!
 僕はなんとか勇気を振り絞って、レヴェリルインに駆け寄った。

「あ、あのっ……あ、ま、マスター!! や、やめっ……あ、あの……やめてくださいっ!」

 レヴェリルインはすぐに僕に振り向いてくれる。彼が険しい顔をしていて、僕の身体がビクッと震えた。

 けれど、彼は心配そうに、優しく僕の頭を撫でてくれる。

「……どうした?」
「……ぇ……?」
「震えている」
「ぁ……」

 本当だ。僕の手、ずっと震えたままだ。

「え、えっと…………あの、あ……ご、誤解……されちゃうから……」
「誤解?」
「あ……」

 これじゃダメだ。ちゃんと説明しなきゃ。だけど、どうやったら伝わるんだ?

 レヴェリルインが酷い人のように言われるのは嫌だ。僕が話しかけた二人にも、わかってほしい。レヴェリルインは、僕を助けてくれたんだって。

 だけどうまく伝わらなくて、ますます焦る。何か言わなきゃ、説明しなきゃならないのに。

 口籠もっていると、レヴェリルインは僕の頭を優しく撫でてくれた。

「……怯えなくていい」
「え……?」
「あの二人に何かされたんじゃないのか?」
「え!? あ、な、何も……されてないです……」
「締め上げられたんじゃないのか?」
「あっ……それは……されたけど、い、いいんです!! あなたが誤解される方がっ……ダメです!」
「誤解? 俺が?」
「貴族たちを虐殺したって……」
「……」

 レヴェリルインは少し考えて、狸耳の人に振り向いた。

「つまり、お前たちが、俺が城を爆破した件について話していて、それをコフィレグトグスが止めに入ったのか?」
「ま、まあ……そうです……」

 狸耳の人が頷くと、レヴェリルインは、そうかって言って、僕を見下ろした。

「……俺が、噂されるのが嫌だったのか?」
「え!!?? は、はい……」

 答えると、レヴェリルインはまた、僕の頭を撫でてくれる。な、なんだか嬉しそう?? 噂されていたのに。

 けれど彼はもう険しい顔をしていなくて、狸耳の人たちに振り向いた。

「本当なら、少し仕置きしてやりたいが、俺の従者は乱暴なやり方が嫌いなんだ。今回だけ許してやる」
「あ、ありがとうございます!」

 狸耳の人は顔を綻ばせるけど、警備隊の人は不満そう。

 レヴェリルインは、そんな二人のことは気にせず、僕の頭をずっと撫でている。

「俺の噂を止めたかったのは……可愛いが、あまり無茶をするな。何かあれば、すぐに俺を呼べばいい」
「は、はいっ!」
「……約束だぞ。お前を傷つけられたくない」
「え……」

 レヴェリルイン、ずっと心配そう……僕を傷つけられたくないって……そんな風に思ってくれてるんだ……

 そうか……僕を心配してくれているんだ。だから、こんなことを言うんだ。

 あ……っ!! そうか! さっきだって、助けてくれたんだ!
 僕があの警備隊の人に怒鳴られているのに気づいてきてくれたんだ。お礼、言わなきゃっ……!

 だけど顔を上げた時には遅くて、レヴェリルインは狸耳の人たちに向き直ってしまう。

 慌てた僕は、レヴェリルインの服を掴んでしまった。

「あ、のっ……さ、さっきありがとう……ございまし、た……」
「さっき?」

 レヴェリルインは不思議そうに首を傾げている。なんのことを言われているのか、分からないんだ。

「あ、あのっ……さ、さ、さっき、店で……あの、僕が怯えてた時……ふ、二人と話していた時です! ありがとうございました……」

 だいぶ間が抜けたお礼になったけど、レヴェリルインは微笑んでくれる。

「そんなことはいい。ただし、約束を覚えておくんだぞ」
「はい!」
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