普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

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77.誰だ?

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 僕は、屋敷の窓に駆け寄った。だけど鍵がかかってる。これじゃ中に入れない。すぐにレヴェリルインのそばに行けないことが、ますます僕の不安と焦りを大きくする。
 今すぐ、レヴェリルインのところに行かなきゃ行けないのに。もう、いっそ割るか。

 そう思ったけど、ふと、僕のフードについた杖のことを思い出した。窓についているのは、魔法の鍵だ。これで鍵の魔力を奪えば、開くかもしれない。
 僕は、杖を元の大きさに戻して、その先で、鍵のあるあたりをこんっと叩いた。だけど、窓は開かない。僕には魔力がない。だからだろう。

 こんな時に……っ! こんなに、魔力を使いたいと思ったのは初めてだった。

 杖を諦めて、隣の窓を調べる。そこにも鍵がかかっていた。順番に窓を調べて行くと、小さなドアがあるのを見つけた。ペットが通るためのドアに似ているけど、僕がかがんだら通れそうなくらい大きい。きっと人型以外の姿になった時に通るためのドアだ。

 そこは簡単に開いた。少しかがめば、僕だって入れそうだ。

 中に入ると、そこは、高価そうな絨毯が敷かれた廊下だった。レヴェリルインを探さなきゃ。

 絨毯が敷き詰められた廊下を、レヴェリルインを探して走る。
 全く知らない屋敷、知らない廊下。加えて、僕は招かれてもいない侵入者だ。
 息すら掠れていきそうな緊張感の中、僕は進んだ。

 レヴェリルインはどこにいるんだろう……

 キョロキョロしながら、廊下を進む。

 焦燥感ばかりが僕を追ってくるようだ。
 早く、彼を見つけなきゃ。

 確か、レヴェリルインを見かけたのは、こっちの方だったはず。

 キョロキョロとレヴェリルインの姿を探しながら歩く。
 屋敷の中は、静かだった。外から風の音がする。

 レヴェリルインはどこにもいない。

 おかしいな……確かにこの辺りに、彼がいた部屋があったはずなのに。

 廊下を進むと、少しだけドアが開いている部屋があった。中を覗き込むけど、そこには誰もいない。
 部屋の中央にあるテーブルの上に、いくつかの魔法具が置かれていた。もしかして、ここで魔法具の話をしていたのか?
 だけどここには、レヴェリルインがいない。彼がいないことが、ますます不安を大きくしていくようだ。

 レヴェリルインは無事なのか? 何もされてない? どうしていないんだ。一体、どこに行ったんだ。やっぱり、離れるべきじゃなかった。彼のそばにいればよかった。

 もう、今すぐに大声を上げて、彼を呼びたくなる。彼を探したい。

 開いているドアはもうなくて、全部閉まっていた。
 閉まったドアにそっと耳を当てて、中からレヴェリルイン以外の声が聞こえたドアはそのままにして、何も聞こえないドアは、こっそり開いて中を覗き見た。だけど、そこには誰もいない。

 一体どこへ行ってしまったんだ。彼がそばにいないことが不安で仕方ない。彼に会いたい。会って、早く無事を確認したい。何で離れたんだ。
 そんな思考が何度も巡り、ループを繰り返すたび膨張して僕を苛む。

 早く彼を見つけなきゃ。早く。

 僕は、必死に彼を探した。あまり人がいない屋敷なのか、誰にも会わなかったけれど、廊下をしばらく行くと、人の話し声がした。

 この声……僕が間違えるはずもない。レヴェリルインだ。

 僕はそっちの方に走った。確かにこっちの方だ。走れば走るほど、声は鮮明に聞こえてくる。彼がそばにいるんだ。

 声が聞こえるのは、廊下の突き当たりにある大きな両開きのドアからのようだった。あのドアの向こうに、レヴェリルインがいるんだ。あのドアの向こう側に行けば、レヴェリルインに会えるんだ。よかった……彼は無事なんだ!!

 無我夢中で走って、ドアの前で軽く息を整えた。

 こっそり、そのドアの中を盗み見る。広く日当たりのいい部屋に、大きなソファとテーブルがあって、そこにレヴェリルインが座っていた。僕がのぞいているドアに背を向けて座っているから、顔は見えないけど、無事みたいだ。怪我をしている様子もない。

 レヴェリルインは、テーブルを挟んで向かい側のソファに座った人と、何か話しているようだった。レヴェリルインと同じくらいの歳の人で、金色の短い髪の、優しそうな男の人だった。多分、彼も貴族なんだろう。

 その人は、レヴェリルインに、いくつかの書類を渡している。

「魔法具の回収は、これで終わりそうか?」
「ああ。感謝する」
「気にすることはない。お前へのこれまでの借りを返すと思えば、安いものだ。こっちにも、メリットはあるしな」
「……お前が抜け目のない男で助かった」

 そう言って、二人は笑い合っている。何だかよく分からないけど、魔法具の回収はうまくいったみたいだ。レヴェリルインも、楽しそうに笑っている。

 その声を聞くとホッとする。安心する。その声だけで、くすぐられているみたい。

 だけど、ずっと見てると、レヴェリルインと向かい合って話す人が羨ましく思えてくる。
 あれは誰なんだ? 僕の知らない人だ。レヴェリルインの知り合いなんだろう。背後に大きな杖が置いてあるところを見ると、多分、魔法使いだ。

 いいな……レヴェリルインとあんな風に話せて。どこの誰なんだろう。名前は? レヴェリルインとは、どんな関係なんだ。

 気になって仕方ない。だけど、今はここを出なきゃ……僕は、勝手についてきてしまったんだから。僕は、本当はここにいちゃいけないんだ。

 僕はここにいられないのに、ここでレヴェリルインと話せる人がいるなんて……

 だめだ。これ以上いると、またあの、訳のわからない感情が湧いてくる。また、レヴェリルインを呼び止めたくなる。

 早くここをでなきゃ。レヴェリルインに見つかってしまう。見つかったら、きっと嫌われる。逃げなきゃ。

 それなのに、なかなか動けないでいたら、レヴェリルインがいる部屋の窓をすり抜けて、光る小さな竜が飛び込んでくる。あれ、使い魔だ。もしかして、ドルニテットの使い魔か?? きっと、僕たちが抜け出したことに気付いたんだ。

 い、今すぐ、ここを離れなきゃ。

 そう思って、僕はドアから離れた。
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