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31.脅迫だ!
僕は服を直して、フュイアルさんを睨みつけた。
早く出て行こう……残った魔力を全部使って窓から飛び出せば、逃げることくらいはできるはずだ。
逃亡計画を練りながらも、フュイアルさんからは目を離せない。背中なんか見せたら、何をするか分からないような男だ。
その男は、棚の中から革製の細いベルトを取り出している。なにしてるんだ、あいつ。
「ああ、そうだ。告白の返事も後でいいからね」
「……告白?」
「さっき言っただろ? 好きだって」
「…………あれ、告白だったんですか?」
確かに、そんなことを言われたような気がする。
まさかあれ、本気で告白のつもりだったのか? あんな脅迫とセットになった言葉の、どこが告白なんだ。
告白っていうのは、僕のこれまでの恋人がしてくれたような、甘い言葉のはずだ。
フュイアルさんに言われた「好き」なんか、その後に言われたことが恐ろしすぎて、全く頭に残ってない。
そして、この人が僕をどう思っていようが、僕の返事は変わらない。
「僕は嫌いです。死んでください」
「返事は後でいいからね」
「今します。嫌いです。付き合うなんてあり得ません。死んでください」
「後で聞くね」
「今聞け!! 嫌いって言ってるだろ!!」
怒鳴りつけても、フュイアルさんは全然聞いてない。こいつ……本当に死んでくれないかな。
もう早く、こんな部屋からは脱出しよう。そして、フュイアルさんには関わらないようにしよう。
立ち上がる僕に、フュイアルさんが革のベルトを持って近づいてきた。なんだかやけに細くて長くて、少なくとも、腰に巻くものじゃないことだけは明らかだ。
しかもそいつは、さっき僕を脅した時と同じ、人の体温を奪って凍りつかせるような視線で、僕を見ている。
「どこか行くの?」
「……帰るんです……」
「どこに? 今日からトラシュの家はここだろ?」
「違います!! 仮眠室に帰る!!」
「だめ。寮に移るまでここにいなさい。寮に入った後も、ここを使っていいよ」
「使うか! 馬鹿!! こんな危険なところにいられないっ!!!!」
「それに、お仕置きがまだだろ?」
「なんのお仕置きだよ!! なんの!!」
「今日、盗賊の館で俺に後ろから切り掛かったお仕置き」
「それの何が悪いんだ! お前なんか、いつか殺してやるからな!」
「いつかって言ったねー。今は無理なこと、自覚してるんだ」
「う、うるさい!! とにかく、お仕置きなんてされるいわれない! 死ね!!」
さっさと出て行こうとしたその時、僕の前にふわふわ、不気味な光の粒が漂ってきた。媚薬の魔法だ。それを見ただけで、恐ろしい記憶が蘇り、僕は動けなくなってしまう。
「ひっ……や、やだ……!!」
怖くて、足が勝手に後退りする。本能が、恐怖から逃れようとしているんだ。
怯える僕が振り向くと、フュイアルさんは不気味な笑みを浮かべて、僕に持っていたものを渡してきた。
「脱いでこれを身につけて」
「は!? え……こ、これ!? 」
「うん。お仕置きだから。言うとおりにしないと、また魔法でいじめるよ?」
「はっ!?」
なんだそれ。もう脅迫以外の何ものでもない。
媚薬の魔法をかけられたら、僕は何もできなくなってしまう。
他のどの方法で責められたって、返り討ちとまではいかなくても、抵抗するくらいは絶対にできるのに、媚薬の魔法だけはダメだ。
こんな奴の前で怯えるなんて、悔しくて仕方ないのに、怖くて震えてしまう。
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