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58.絶対に聞いてない!
玄関から、物音がする。
フュイアルさんが入ってきたんだ。
僕は、慌ててそこにあったものを片付けた。出しっぱなしだった書類を引き出しに突っ込んで、地図を本棚に押し込む。
背後のドアの向こうから、足音がする。フュイアルさんだ。
息を殺し、気配を消しながら作業して、なんとか出したものを元の場所に戻すことができた。
それから、本棚の陰に、そっと身を隠す。
僕に気づいてフュイアルさんが部屋に入ってくるかと思ったけど、足音は、僕がいる部屋を通り過ぎていった。
そして、リビングの方で、ドアが開く音がした。
……フュイアルさん、僕に気づかずにリビングに入ったのかな……?
僕は、こっそりドアから顔を出した。
やっぱりフュイアルさんは、僕がここにいるのに気づかずにリビングの方に入ったらしい。リビングのドアが少しだけ開いていて、そっちの方から物音がする。
僕は、もう一回部屋の中が元に戻っていることを確認して、リビングに向かった。
フュイアルさんに、どこにいたんだって聞かれたら、寝室で寝てたって言おう。
リビングのドアを開けて中に入るけど、フュイアルさん、いないぞ?
キッチンのダイニングテーブルに、美味しそいな匂いがする紙袋がいくつも置いてあるけど、フュイアルさんの姿はない。
「フュイアルさん?」
紙袋があったキッチンにもフュイアルさんはいなくて、キョロキョロしていたら、背後から、僕を呼ぶ声がした。
「トーラシュ……」
「…………っっ!!」
びっくりした……もう、息の根が止まりそうなほど、びっくりした。
振り向けば、さっき僕が覗き見していたのと同じ格好のままのフュイアルさんが立っている。違うのは、片手に大きな紙袋を持っていることくらい。
エイリョーゾのこと、バレたんじゃないかと思ったけど、フュイアルさんは、出て行った時と同じように、ニコニコしていた。
「ただいま。トラシュ。ちゃんと休んでた?」
「…………そ、そんなの、フュイアルさんに関係ありません」
フュイアルさん、いつもと変わらない。それを見て、気づいていないのかと思ったけど、フュイアルさんは、僕の頭を撫でて言った。
「関係あるよ。俺の部屋に勝手に侵入するほど、寂しがってたみたいだし」
「はあ!?」
なんだよ! バレてるんじゃないか!!
勝手に部屋に入ったこと、気づいていたくせに、フュイアルさんはいつもと変わらない。ムカつくほどしつこく、僕の頭を撫でていた。
「…………怒らないんですか?」
「俺は、トラシュが俺がいないことを寂しがってくれて嬉しいよ」
「そんなわけないだろ…………僕はただ、フュイアルさんの弱点を探そうとしただけです! 寂しいはずないだろ!!」
「ふーーん……」
何ニヤニヤ笑ってるんだ。フュイアルさん……
やっぱり、フュイアルさんがいない間、僕がしていたことも、エイリョーゾのことも、バレてるんじゃ……
……だとしたら、僕の身が危ない。
緊張する僕に、フュイアルさんは微笑んだ。
「それで、俺の弱点見つかった?」
「…………見つかってません」
「だろうな。トラシュには、絶対に見つからないと思うよ」
「僕には? ってことはあるんですか? 弱点!!」
「あるよ。トラシュにはもう話してる」
「僕には……? う、嘘っ……! そんなの聞いてたら、覚えているはずだっ! 絶対話してないっっ!!」
「ちゃんと言った」
そう言いながら、フュイアルさんは、キッチンの方に歩いて行っちゃう。
逃すもんか。誤魔化されるもんか! だって、フュイアルさんの弱点を聞くチャンスなんだから。
「フュイアルさん! 待ってください!」
慌ててフュイアルさんの後を追うと、フュイアルさんは、ダイニングテーブルに紙袋を置いて、僕に振り向いた。
「今日は遅くなっちゃったから、夕飯、買ってきたよ」
「……いりません」
「そんなこと言わないで。トラシュが好きなハンバーガーだよ」
「そんなことより、弱点は!?」
「ちゃんと話した。トラシュが覚えてないだけ」
「じゃあ、もう一回教えてください!」
「嫌」
「なんでですか!?」
「俺がせっかく話してるのに、聞いてなかったトラシュが悪いんだろ? もう話さない」
「そんな……」
愕然とする僕を置いて、フュイアルさんは、テーブルに買ってきたものを並べている。五枚のパティが積まれたハンバーガーとホットドッグ、大量のフライドポテトにフライドチキンにジュースに、パイまでいくつもあるみたい。それに、なぜか焼きそばまで出てきた。誰がこんなに食べるんだ……
だいたい、今は夕飯どころじゃない。このムカつく男の弱点がわかるかもしれないんだ。
「ふ、フュイアルさん!!」
「なに……?」
「お、教えて……ください……もう一回…………」
こんな男に何か頼むなんて、吐き気がする。
だけど、弱点は知りたい……
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