誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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79.こっちの方が大事


 来客の正体は、ヴァルアテアとオーイレールで、なぜか、僕にいつも嫌味を言う先輩のズモアルケまでいた。
 ズモアルケは大量の書類を持っていて、ヴァルアテアも、なんだか疲れた顔をしている。
 オーイレールだけは、相変わらず元気。両手に持った大きな袋から焦げ臭い匂いがするんだが、また何か、とんでもない料理を作って来たのかな……

 ズモアルケはフュイアルさんに、持っていた大量の書類を渡して言った。

「フュイアル……戻っていたのか」
「うん。トラシュの誕生日パーティー、やろうと思って」
「……人族のパーティーをしている場合か。魔界との境界で、盗賊の仲間が拘束されたらしいぞ」
「その話は後。トラシュのパーティーが先。ああ、書類はありがとう。お前もケーキ、食べていけよ。せっかく来たんだし」
「……俺たちは人族のケーキを食いに来たんじゃない。仕事の話をしに来たんだ」
「それにしては、オーイレールが仕事と関係ないもの持ってるけど?」
「……そいつだけは、最初から遊びに行くとしか言っていなかった」

 苦い顔で言うズモアルケが、オーイレールを睨みつけても、オーイレールは一人だけ楽しそう。「焼きそば持って来たぞー」って言って、袋を掲げている。やっぱりあれの中身、焼きそばだった。

 そして今日は、フュイアルさんまでオーイレールみたいに楽しそうだ。
 いまだに誕生日とか言ってるフュイアルさんに、今度はヴァルアテアが、苦い顔で言った。

「なぜもうこっちに戻ってきている? 魔界からの招集を無視して帰ってきたのか?」
「盗賊とその仲間の捕縛は終わったよ」
「……そっちも大事だが、城からの招集はどうした?」
「顔は出したよ」
「顔だけ出して帰って来たのか!?」

 ヴァルアテアの顔色が変わる。
 だけど、フュイアルさんはまるで気にしていないみたい。

「そうだよ?」
「フュイアル!! 長く招集を無視した挙句、すぐに帰るなんてどういうつもりだ!! 陛下に挨拶はしたのか!?」
「したよ」
「……本当にしたのか? 途中で放り出して帰って来たんじゃないだろうな?」
「俺は元々、城に行くつもりで魔界へ行ったんじゃない。盗賊の捕縛のために行ったんだ。それに、俺のトラシュに危機が迫ってたんだよ? 城への挨拶なんか、いつでもいいだろ」
「その、いつでもいいをいつまで繰り返す気だ……城から、窓がなくなったままだと報告が来ていたぞ」
「窓くらいでいちいちうるさいなー。あいつらが止めるから、ここに帰ってくるのが遅れたんだよ? 向こうにいたって、大臣たちの相手をさせられるだけなのに」
「……フュイアル…………トラシュが心配なのはわかるが……」
「それに、すぐにもう一回行くからいいんだよ」
「また魔界へ行くのか?」
「うん。盗賊の件で近くまで行くし、二度とあいつらがのさばらないように釘を刺してくる。今度はトラシュを連れて」
「……お前……向こうにトラシュを連れて行って、どうする気だ?」
「そんなことより、ケーキ食べよー」

 フュイアルさんは、ヴァルアテアの忠告を無視して、冷蔵庫からケーキの箱を取り出している。聞く気ないな……あれは。
 それに、トラシュを連れて魔界に行くってなんだ。僕、断ったのに。フュイアルさんが僕の話を聞かないのは、いつものことなんだけど。

 僕は魔界なんか行かないぞ……なんだか、危険な気がする。
 フュイアルさんの縄張りに連れて行かれて、そこで一生閉じ込められそうな気がする。
 しかも、何をされるか分からない。

 フュイアルさんのかけてくれた回復の魔法が効いたのか、僕は、立ち上がることができるようになった。

 ベッドから起き上がると、オーイレールが呼んでくれる。

「トラシュー! 早く来いよ!! 焼きそば食うぞー!!」
「食べない……僕、まだ回復してないから……」
「だったら回復するように焼きそばを食え!!」
「いらない……いつもにも増して、真っ黒な匂いがするから」
「えー! なんでだよー!! あ、これ開けていいか!?」

 開けていいか、と聞きながら、僕の返事なんか全く待たずに、オーイレールは冷蔵庫の中から大きな箱を取り出して、即座に開けてしまう。

「うわっ!! うまそーー!!」

 歓声を上げるオーイレールが開いた箱から出て来たのは、「トラシュ誕生日おめでとう」と書かれたチョコレートのプレートが飾ってあるデコレーションケーキだった。そして、オーイレールはそれを迷うことなく持ち上げて一口かじってしまう。

「うまっ……! うまいぞこのケーキ!!」

 あっという間に全部食べたオーイレールは、よほどケーキが美味しかったらしく、嬉しそう。だけど、その背後に、はたから見ていてこっちの体温が凍りそうなくらい冷たい顔をしたフュイアルさんが立っているのに気づいていない。

「オーイレール……」
「どうしたんだ? フュイアル…………うわっ!」

 振り向いて、やっとフュイアルさんがキレてることに気づいたのか、オーイレールは震え上がる。
 そしてなぜか、早速僕の後ろに隠れる。僕を巻き込まないでほしいのに。

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