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80.一緒に
怯えたオーイレールは、僕の背中に隠れたまま、泣きそうな顔で言った。
「と、トラシュ!! あいつ、なんであんなに怒ってるんだ!?」
「オーイレールがケーキを一人で食べちゃったからじゃないかな?」
「た、食べたらダメだったのか!? だって、冷蔵庫に同じ箱いっぱいあったぞ!! だ、だから一人一個くらい食ってもいいのかと……」
「は!? そんなにいっぱいあるの!?」
僕は慌てて、冷蔵庫を開いた。するとそこには、ずらーっと並んだ同じ箱。十個くらいある。
フュイアルさん、オーイレールたちが来なかったら、これ、二人で食べる気だったのか?
フュイアルさんは、冷蔵庫から箱を一つ取り出して、ダイニングテーブルの上で開いて見せてきた。
「中のプレートが違うんだよ」
そう言って、フュイアルさんが取り出したケーキは、さっきのケーキと同じケーキだったけど、プレートのメッセージだけ違う。「トラシュ今日エロいこといっぱいしようね」と書かれている。
なんだこれ。なんでそんなことケーキに書いてんだ。馬鹿なのかこの人!! いつもなら即座に焼き払うのに、魔力がないからそれもできない!
「フュイアルさん!! ケーキに変な細工しないでください!!」
「蝋燭、十本でいい?」
「僕の話を聞いてください!」
怒鳴りつけても、フュイアルさんは当然聞いてない。勝手に蝋燭の用意を始めている。
「ちなみにこれ、年齢じゃなくて、後でトラシュが俺に垂らされる蝋燭の本数」
「ふざけんな! 死ねよゲス!!」
「百本くらいにしておく?」
「やめろ!! そんなに立てられないだろ!!」
「そんなことないよ。まだあるから」
そう言ってフュイアルさんは、テーブルにもう一つ箱を置いて開く。
中から出て来たのは、さっきまでの果物のデコレーションケーキではなくて、チョコレートのケーキ。その後も、チーズケーキとかモンブランとかが出てきて、フュイアルさんは、それに自分で用意したらしいふざけたメッセージの書かれたプレートと蝋燭を勝手に立てている。死んでほしい。
「フュイアルさん! そんなものケーキに立てないでください! ていうか、そんなのしないから!!」
怒鳴りつけるけど、全然聞いてない。もう許せない。
僕は、プレートを全部回収して口に入れると、蝋燭は全部、オーイレールに渡した。
「ぜんぶ焼いといて」
「無茶言うなよ……フュイアルの用意した物が、俺に焼けるわけないだろ?」
「僕今、魔力使えないんだよ!! フュイアルさんに怒られたら、僕のところに来ればいいから!」
「そうじゃなくて……」
戸惑うオーイレールは、蝋燭を受け取ってくれない。
すると、ズモアルケが、僕から蝋燭を奪いとって、握りしめた。けれど、かすかな火が出ただけで、蝋燭は燃えない。そして彼は、僕を睨みつけてきた。
「…………フュイアルの用意したものは、そう簡単には焼けない。そんなことも分からないのか!! 人族!!」
「……」
相変わらず目の敵にされてるなあ。別にいいけど。
そしてまた説教を始める気なのか、そいつは、腕を組んで言った。
「だいたい貴様、そんな風にボーっとしていていいのか? 少しは危機感を持ったらどうだ!?」
ズモアルケは、僕に一枚の書類を見せてきた。フュイアルさん宛の書類で、首都からのようだ。人族の魔法使いをこっちに連れて来て欲しい、みたいなことが書かれていた。
「魔物が増えているんだ。お前も気をつけろ! 魔物に殺されても知らないぞ!!」
怒鳴るズモアルケだけど、僕が言い返すより早く、オーイレールがズモアルケの肩を抱いて言った。
「トラシュは大丈夫だよー。ズモアルケも、トラシュと魔物退治行けば分かるって!」
「そいつは事務だろう……おい! お前の手と顔! どうやったらそんなに汚れるんだ!?」
オーイレールのクリームとかチョコレートとか果物の汁とかでドロドロになった手と顔で近寄られて、ズモアルケは彼を振り払おうと暴れている。お陰でズモアルケから逃げられたけど、ズモアルケが少しかわいそう。
無理矢理渡された書類は、背後からフュイアルさんに取り上げられて、丸められてしまった。
「フュイアルさん……それ……」
「首都が魔法使いを集めてるんだよ」
「なんで……?」
「最近、首都の方でも魔物が暴れているらしい。討伐隊を編成して対抗してるけど、うまくいってないみたい」
「……ふーん……」
「だから、俺と一緒に魔界に行こう?」
「……なんでそんな話になるんですか? 今の流れだと、首都じゃないんですか?」
「首都から少し離れた、魔界との境界の街で、魔物を売り捌いていた奴らを拘束したらしい。そいつらの処分を頼まれてる。そこに寄ってから、二人で魔界まで行こう?」
「…………じゃあ、その境界の街だけでいいじゃないですか……なんで魔界に……」
「俺がトラシュを連れて行きたいから」
「結局それかよ!! ふざけんな!!」
僕は怒鳴っているのに、フュイアルさんは、ケーキに蝋燭立てながら「新婚旅行だね」なんて、訳のわからないことを言っている。
いつのまにかテーブルは、ケーキでいっぱいになっていた。
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