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番外編
100.どういうつもりだ
しおりを挟む僕とオーイレールは、ヴァルアテアが運転する車に乗って、フュイアルさんを追った。
無理矢理連行されてきたヴァルアテアは、さっきまでずっと頭を抱えていたけど、彼はいつも、なんだかんだ言って、僕らに付き合ってくれる。今だって嫌々でも、こうして車を出してくれるんだ。
先に出かけたフュイアルさんの車は、もう駐車場になかった。急がないと、フュイアルさんと僕じゃない奴の二人きりの時間が増える!!
助手席には、フュイアルさんを捕まえるんだと息巻く僕。後部座席には「帰ろうよー」しか言わないオーイレール。
そして運転席のヴァルアテアは、ハンドルを握りながら言った。
「……トラシュ、フュイアルの居場所は分かるか?」
「分からない。だけど、街の外れの魔物退治に行くって言ってたし、街道沿いに走れば見つかるはず!! ヴァルアテア!! フュイアルさんを追って!!」
「…………検証に行くんじゃなかったのか?」
ため息をつきながらも車を走らせるヴァルアテアの後ろで、往生際の悪いオーイレールが、帰ろうよー、としつこい。
「なあ、帰った方がいいよー。フュイアルはトラシュと旅行に行くために、この辺りの魔物吹っ飛ばしておきたいだけだろー」
「……僕、旅行なんか行きたくない」
「なんでだ? 旅行、嫌いか?」
「旅行が嫌いなんじゃなくて、フュイアルさんとは行きたくない」
すると、ヴァルアテアが運転しながら呆れたように言った。
「……フュイアルの提案する旅行が嫌なんだろう? だったら、別の旅行にすればいい。どこか、トラシュは行きたいところはないのか?」
「……」
それなら、僕だって考えた。だけど、思いつかなかったんだ。だって、旅行らしいもの行ったことない。恋人と旅行に行きたくて、旅費を貯めたことはあるけど、ギャンブル代か酒代を寄越せと言われて、すぐに盗られていたから、ぜんぜんお金なんて貯まらなかった。隠したら殴られるし、いつの間にか、あんまり旅行とか考えなくなっていたんだ。
それに、旅行には行ってみたいけど、フュイアルさんがどこかに行くのはちょっと嫌……
旅行に行ったら多分、人が多いだろうし、フュイアルさんは、結構目立つんだ。黙って変態なこと言わずに猫かぶってれば、背高いし、魔力あるし、綺麗な顔してるし、ほんの少しだけ微かにごく稀にだけど優しい。
そんな彼が、僕以外の人に見られるのが嫌。
それなのに、今もフュイアルさんは、僕じゃない奴と一緒にいる。付き合う前まで、鬱陶しいくらい僕に付き纏っていたくせに、僕じゃない奴を誘って僕じゃない奴と肩を組んで出て行った。
「フュイアルさん……どう言うつもりなんだろう」
「……フュイアルは、お前と旅行に行きたいだけだ。そのために、魔物を殲滅しておきたいだけだ。帰らないか?」
ヴァルアテアが言うと、オーイレールまで、車の中でお菓子の袋を開けて言った。
「下見も兼ねてるんだろー。フュイアルはトラシュをエスコートしたいだけだよ。な? そんなに怒るなよ」
「下見なら僕と行けばいいじゃん!!」
「……デートの下見をデートする相手とは行かないだろ……」
「だからって、なんで僕じゃない奴と行くの!?」
「落ち着けよー。フュイアルはトラシュとの旅行を楽しみたいだけだってー」
すると、ヴァルアテアまでもが、ため息をついて言う。
「フュイアルがお前を連れて行かないのは、お前を魔物と戦わせたくないからでもあるが、今はどちらかと言うと、お前を見る奴が増えるのが嫌なんだろう。お前も少しくらい、気づいているだろう? 陛下ですら腰が引けていた巨大な魔物を、一瞬で焼き尽くしたお前に、魔族たちが目をつけている。陛下はお前を城に迎える気だ。お前がその気なら、それなりのポストも用意すると言っている。魔族だけじゃない。竜王様や妖精族も、お前を欲しがっている。お前が注目を集めれば集めるほど、お前を狙う奴が増えるんだ。フュイアルは、それを避けたいんだろう」
「僕はどこへも行かない。フュイアルさんのそばにいる」
「それは分かっているが、フュイアルも独占欲が強いからな……他の男がお前に視線を注ぐだけで我慢できないのだろう……」
「そんなの理解できない!! もう別れる!! 別れてやる!!」
「トラシュ? ほんの少し前に、どこにもいかない、そばにいると言ってなかったか?」
「待って! その角!! 右!!」
僕が指差すと、ヴァルアテアはため息をつきながらも、僕の言ったとおりに、車を走らせてくれた。
しばらく行くと、大通りでも人通りの少ないあたりに出た。このあたり、魔物が出るからって言って、誰も通らなくなってるんだ。
前を行くフュイアルさんの車は、すでに使われなくなってだいぶ経っているような駐車場に停車している。何してるんだろう……
ヴァルアテアも、フュイアルさんの車から少し離れたところに、車を止めてくれた。
そこから前の車を盗み見ると、運転席に座ったフュイアルさんに、助手席のズモアルケが、地図みたいなものを見せながら、何か話している。
なんであんなに親密そうにしてるの!? 僕の目の前で……ひどい……
「……ねえ、ヴァルアテア。あの二人、なんであんなに距離が近いの? 恋人は僕なのに」
「運転席と助手席に座っているだけだ。全く近くない」
「近いよ! あんなに近くで、何話してるんだろう……」
「魔物退治に行ったんだから、魔物のことだ」
「じゃあ僕と話せよ!」
「俺に怒鳴るな」
「もう我慢できない……っ!!」
僕は前の車に魔法をかけて、フュイアルさんが持っている地図を爆発させてやろうてした。
少しは離れろ!! 二人とも!!
それなのに、全く何も起こらない。一体どうなってるんだ!!
なんで……
不思議に思って睨んでいたら、運転席のフュイアルさんが僕に振り向いた。そして、嫌な笑顔でニヤニヤ笑ってる。
あいつ……気づいてる……僕がついてきたことに気づいてる!!
気づいてて、僕にやきもち妬かせてるのか!?? 僕が嫉妬してるの知ってて、わざとしてるのか!?
もう耐えられない。行ってすぐに燃やしてやる!!
すぐに車のドアを開けて外に出たら、背後から声がした。
「トーラシュ」
「うわあああああ!!」
さすがにびっくりして飛び退く。振り向いたら、いつの間にかフュイアルさんがいた。ニコニコ笑いながらそこに立ってる。
何でいるんだよ!! さっきまで前の車にいたはずなのに!!
「な、何してるんですか!? フュイアルさん!!」
「何って……トラシュが黙って俺以外の男と仲良くドライブしながら、ものすごく近くで話してるから、居ても立っても居られなくて」
「……さっきまで前の車にいたのに……」
「それで? 何してたの?」
「そ、そっちこそ!! 僕じゃない奴と二人で車なんか乗って!! 僕じゃない奴誘ったくせに!!」
「俺は、早く魔物を退治しておきたかっただけ。それなのに、俺以外の奴と仲良くして、ひどくない?」
「ひ、ひどくなんかない!! そっちこそ!! 全部気づいてたくせにっ……! 気づいてて……僕にやきもち妬かせてたくせに!!」
「俺の方が妬いたよ。トラシュが他の奴と仲良くしてるんだから」
「……う、うるさいっっ……!! そんなの知らない!!」
話していたら、運転席のヴァルアテアも、車から降りてきた。
「フュイアル……馬鹿なことをしていないで、仕事をしろ」
「分かってるよ。このままだと、俺の旅行が魔物のせいで台無しになる」
「トラシュは行く気がないようだぞ……いいのか?」
「照れてるだけで、本当は行きたいんだよ」
ふざけたことを言うフュイアルさんに、僕は「行きたくありません」と言って、そっぽを向いた。
勝手なことばっかり言いやがって! 僕以外の奴と仲良くしているのを見せつけたくせに!
しかも、僕が追ってきているのに気づいていた。最低上司め。絶対に許さないっ……!!
だけど、ここでやきもち焼いているような顔をしたら、フュイアルさんの思う壺だ。
黙り込んで俯く僕だけど、ずっとそうしていたら、フュイアルさんに背後に回られていたことに気づけなかった。無防備だった僕は、急に後ろから抱きしめられてしまう。
「なっ……なにっ!??」
「俺はトラシュと旅行に行きたいし、トラシュが他の男と仲良くしてるのも嫌。それに、俺のこと追いかけてきてくれたトラシュが可愛いから、今日は一緒に魔物退治行こう」
「え!!?? い、いいんですか?」
「うん」
……本当に……フュイアルさんと魔物退治に行けるのか……?? 連れて行ってくれるんだ! って喜んだのも束の間、僕の首には、いつのまにか首輪が付けられていた。もちろん、それには鎖がついていて、それをフュイアルさんが握っている。
「は!? ふ、フュイアルさん!? 何の真似ですか!?」
「トラシュが俺から離れないように。今日は俺がずーっとトラシュのそばにいて守るから。トラシュはずっと俺に可愛がられててね」
「ふざけんな!! やっぱりフュイアルさんとはどこも行かない!! 魔物退治に行ってきます!! 一人で!! 首輪外せ!!」
喚いて朝みたいに首輪を焼こうとするけど、全然燃えない。フュイアルさん、今度は本気で離さない気だ!!
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