【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

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23.神出鬼没です

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 フィレスレア様は早速私を嘲るように笑う。

「久しぶり? 空から降ってくるような野蛮な方にそんなこと言われたくありませんわ」
「あら。私はバルコニーから外を眺めていたら、たまたま落ちてしまっただけです」
「明らかに飛び降りてきたではありませんか。こんなところに降りてきて、どういうつもりなのかしら……まさか……貴方もここからなら、トレイトライル様が参加する会議が開かれるお部屋が見えると知っていらしたのかしら?」
「違います。あなたこそ、こんなところで何をしていましたの?」
「私は、トレイトライル様を眺めていただけですわ」

 彼女は胸を張って答える。
 そうだった。これは彼女の日課。バルコニーに出て、暇さえあれば魔法でトレイトライル様を探している。

 そして、彼女が下げている二本の剣は、どちらもトレイトライル様のもの。身につけているマントも、トレイトライル様が魔物退治に出かける時に持っていく防御用のもの。まだ彼の魔力が残っているようで、微かに光っていた。許可を得て持ってきたものでもなければ、トレイトライル様にもらったものでもない。また勝手に持ってきたな……

「……なぜそんなことまで……」
「あら……リリヴァリルフィラン様。私はトレイトライル様の婚約者です。トレイトライル様を探して、何が悪いのかしら?」
「でしたら、本人のところに行けばいいのに……」
「リリヴァリルフィラン様には分かりません! 魔物退治の会議ですから、私は出なくていいと、デシリー様に追い出されてしまったのです。あなたこそ、なんでこんなところに……近寄らないでください! 私にも。トレイトライル様にも!」
「ご安心ください。頼まれても近寄りません」

 彼女はいつもこう。トレイトライル様のことが、恐ろしいくらいに好きらしい。

 だからといって、私に嫉妬するなんてお門違い。だってトレイトライル様は私のことなんて、心底鬱陶しいとしか思っていない。もちろん私もそう思ってる。そんなこと、見ていればわかりそうなものだけど……

 けれど、そんなことは彼女にはどうでもいい様子。二度と近づかないでくださいと繰り返す。私だって、近づきたくない!

「フィレスレア様。私はトレイトライル様に何もしないので、分かっていただけませんか?」
「……私は信じません」
「……」

 面倒くさい。

 この女は相変わらず、人の話をまっったく聞かない。よほど私が邪魔なのか、私の顔を見ては、出て行け、とそんなことばかり繰り返す。
 トレイトライル様の元婚約者の私のことが、よほど気に入らないようだけど……私はトレイトライル様のことなんて、なんとも思っていないし、婚約も破棄していただいて、むしろすっきりしているのに。

「だいたい、トレイトライル様を探しに来たのではないのなら、なぜ上のバルコニーから降りてきたのです? やはりトレイトライル様を探しておられたのでしょう!」

 探すか! 気持ち悪い!!!!

 ……と、つい、カッとなって、危うく怒鳴りつけてしまうところだった。

 フィレスレア様は私とトレイトライル様の仲を今も疑っている。トレイトライル様がはっきりすればいいのに、この城にはデシリー様がいるものだから、いつも彼は曖昧な態度ばかり。デシリー様の前で否定できないのは分なるけど、このままでは迷惑!

「私がバルコニーから降りてきたのは、扉に鍵がかかっていたからで…………」

 そこまで話した時、強い風が吹いた。吹き飛ばされてしまいそうな風で、それに押されてたたらを踏む私を、背後から誰かが抱き止める。

「リリヴァリルフィラン……こんなところで、何をしている?」
「……い、イールヴィルイ様!??」

 一体どこから降りてきたの? 本当に、神出鬼没な方だ。
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