悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐

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10.奇妙な誘い

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 学生生活課を出て、俺は、コレリールと共に学園の外を歩いた。
 ここは、学園都市というだけあって、学園の校舎を中心に、街のように、生活に必要なものが揃っている。そのうち北の辺りは、幾つものカフェテリアや図書館が並ぶ、深夜でも明るい区画だ。俺は図書館くらいしか行かないが、昼はランチで賑わい、深夜ともなれば、飲み会帰りの者たちが列を作って歩く、一日中煌びやかなあたりだ。

 街灯もあるが、どちらかと言えば、カフェテリアが並べる照明が、街路樹の間に吊り下げられていて、日が落ちかけた街に洒落た光が並んでいた。
 あちこちから、うまそうな匂いがする。この街は一部の区画を除いて、ほとんどの道が歩行者専用。車は一台もない中、道路の真ん中を、町中を巡る路面鉄道が通って行った。

 しかし、歩けば歩くほど、やけにくっついて歩いている二人組が多くなってくるのは気のせいか。どいつもこいつも、人目も憚らずベタベタして。どういうつもりだ。

 王子の方は、そんな奴らなど気にする様子もなく、俺に通り沿いの店を紹介している。

「ここが、学園でも人気のコーヒースタンドです。早朝から開店し、ここのブレンドコーヒーを飲むと、気持ちよく目が覚めるんです。明日、一緒に行きませんか?」
「朝からか? 嫌だ。朝は寝たい」
「しかし、それだと、授業が始まってしまいます」
「構わない。俺には目的がある」
「…………破壊の魔法、ですか?」
「なぜ知っている?」
「え!? あ…………僕も、それに興味があったので……」
「……そうか」

 そんなはずがない。破壊と使役の魔法を王子が学んでいるとなれば、それを必死で遠ざけた王が黙っていない。

 やはり、学園長から注意を促されたか。それくらいなら、予測の範疇だ。王に恨みのある俺が戻ってきたんだ。その息子に気をつけろと声をかけるのも、学園長としては、当然のことだろう。

 しかし問題は、学園長から何かを言い付けられているかもしれないと言うことだ。先程、すぐに俺の復学を承諾した学園長の態度、不自然だ。何か企んでいるはず。

 まさか……邪魔な俺をこの機会に消す気か?

 歩いているだけで分かる。この王子の魔力は規格外と言っても過言ではない。学長が王子に頼むとは考えづらいから、王子一人の意思か。父親にとって、のちに脅威となるであろうものを排除しに来たのかもしれない。

 勇気ある行為だが、安易だ。魔力だけで、俺は殺せない。魔力ばかりつけすぎて思い上がったか。

 しかし、王子の方から手を出してくれるならありがたい。突然俺を襲ってくれるなら、俺も反撃と称しやすい。

 そいつは、俺と二人で人気だという店の前まで来た。

 白い塀に囲まれ、塀の向こうには庭園とそこに並ぶ背の高い庭木が見える。そのせいで、すぐには飲食店があることに気づかないような店だ。門扉には魔法の鍵がかけられていて、許可されたものしか入れない作りになっているらしい。会員制か。

 コレリールが門に触れると、それがゆっくりと開く。

 中は噴水を中心にバラが咲き誇る庭園だ。慣れた様子で中に入って行くコレリール。俺も、周囲を警戒しながら、中に入って行った。

 会員制で王子の行きつけとなれば、おそらく、ある程度王子はここに顔がきく。店員には既に手を回しているかもしれない。誰が何を仕掛けてくるかわからない。警戒しておかなければ。

 しばらく行くと、小さな城と見紛うばかりの豪奢なレストランが見えて来た。

 両開きの背の高い真っ白な扉の前に、一人の店員が立っていて、王子の姿を見つけるなり、深々と頭を下げる。

「コレリール様……ようこそいらっしゃいました」
「いつもの部屋を」
「……ご用意しております。こちらへ……」

 男が言って、扉に触れると、そこはゆっくりと音を立てて開く。そしてその奥には階段まで続く赤絨毯が敷かれ、ずらっと、ウエイターとウェイトレスが並んでいる。

 彼らが頭を下げる中、王子は悠々と赤絨毯の上を歩いて行く。

 手を回しているどころか、あからさまに自分の言いなりですアピールか? そんなことをすれば、俺が警戒することはわかっているだろうに。警戒されたところで、王子には逆らえない、そう思って油断しているのか? 悪いが、俺をはめた王の息子などに跪くつもりはない。
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