悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐

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9.二回目のチャンス

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「魔法で燃やした場合、カーテンはこちらで準備しますが、全額弁償していただきます」

 学生生活課と呼ばれるところにまでやって来て、カウンターの向こうで面倒臭そうに俺の対応をした男は、眠そうな顔でそう言った。

 俺は驚愕した。なんでもやってくれるんじゃなかったのか。

「おい!! ここは魔法を学ぶところだろう! なぜそれで燃えるようなカーテンを下げている!?」
「何を学んでいようが、備品を燃やすのは非常識です。自分で焼いたものの責任は取ってください」
「ぐっ……くそ……腹立たしい男め。頭が硬いやつだ!!」
「あなたが非常識なだけです。こっちにサインしてください」
「くそ……」

 もう殴り飛ばしてやりたい。しかし、そんなことをすれば、これから動きにくくなってしまう。目的のため……ここは我慢だ!!

「分かった……今はあまり金がない。足りない分は後で払う」
「分割ですね。こちらに記入お願いします。それと、寮の備品が壊れた時には、寮父さんに言ってもらえれば用意しますから」
「黙れ! さっさとカーテンを出せ!」

 くそ……なぜこんなことに……

 渋々書類にサインする。後で復讐ついでに王子たちから財布を抜いてやる。というか、王子と伯爵の息子が俺についたら、あいつらが勝手に払うはずだ。

 苛立ちながら書類を書いていたら、背後から声をかけられた。

「……見つけた」

 なんのことだと思って、振り向く。するとそこに、俺と同じくらいの背の、一人の男が立っていた。
 金色の髪に、深緑の目。見惚れるほど端正な顔立ち。黒い服を着た男だ。

 こいつ……王家のものだ。胸の辺りに、魔力で描かれた王家の印が見える。この男……コレリール王子か!??

 なんだか、一年前に研究所で見かけた時とは、だいぶ雰囲気が変わっている。もう少し、柔らかい雰囲気の男で、俺にも研究所で話しかけて来るようなやつだったのに。もちろんその時は、周りにぞろぞろいた護衛が俺をにらんできて、腹が立った俺は、適当に挨拶をしてその場を立ち去ったのだが。

 今は、冷気を感じるような目をしている。

 コレリールのことは覚えているし、民衆思いの思慮深い紳士と聞いたことがある。久しぶりだと親近感を持たせるような挨拶をしてもいいのだが……

 俺はあの時、こいつをぞんざいに扱っている。こいつも、俺に対して良い印象など持っていないだろう。そんな相手に、今も覚えられていては、何か他意があるのではと勘繰られるかもしれない。

 知らないふりをするか?

 コレリールは俺の姿を見つけて「見つけた」と言っている。俺を探していたんだろう。
 しかし、俺はさっきこの学園に来たばかり。それを探して学内をうろついていたのは、俺のことを学園長に聞いたからだろう。
 わざわざ学園長が、俺が来たことを話したとすれば、俺がここに来たから警戒しろと言ったはず。そんな奴が俺を探すということは、俺がここにいることを知り、先に潰しに来たか。

 ともあれ、ここは知らないふりをしておく方がいい。何も考えていないような顔をしておけば、警戒もされないはずだ。

「……誰だ?」

 すると男は、にっこり笑って、俺に近づいてきた。

「僕は、コレリールといいます。困っているようだったので……つい、声をかけてしまいました」

 それにしてはさっき、見つけた、とか言ってなかったか? 俺が気づかないとでも思っているのか? 馬鹿にされたもんだ。

 まあ、いい。そうしていてくれている方が、俺は動きやすい。絶対的優位に立っていると思い込んだ思い上がりは隙だらけだ。

 まさか王子の方から出てくるなんて。学園長には、後で礼を言っておこう。チャンスをありがとうと。
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