9 / 85
9.二回目のチャンス
しおりを挟む「魔法で燃やした場合、カーテンはこちらで準備しますが、全額弁償していただきます」
学生生活課と呼ばれるところにまでやって来て、カウンターの向こうで面倒臭そうに俺の対応をした男は、眠そうな顔でそう言った。
俺は驚愕した。なんでもやってくれるんじゃなかったのか。
「おい!! ここは魔法を学ぶところだろう! なぜそれで燃えるようなカーテンを下げている!?」
「何を学んでいようが、備品を燃やすのは非常識です。自分で焼いたものの責任は取ってください」
「ぐっ……くそ……腹立たしい男め。頭が硬いやつだ!!」
「あなたが非常識なだけです。こっちにサインしてください」
「くそ……」
もう殴り飛ばしてやりたい。しかし、そんなことをすれば、これから動きにくくなってしまう。目的のため……ここは我慢だ!!
「分かった……今はあまり金がない。足りない分は後で払う」
「分割ですね。こちらに記入お願いします。それと、寮の備品が壊れた時には、寮父さんに言ってもらえれば用意しますから」
「黙れ! さっさとカーテンを出せ!」
くそ……なぜこんなことに……
渋々書類にサインする。後で復讐ついでに王子たちから財布を抜いてやる。というか、王子と伯爵の息子が俺についたら、あいつらが勝手に払うはずだ。
苛立ちながら書類を書いていたら、背後から声をかけられた。
「……見つけた」
なんのことだと思って、振り向く。するとそこに、俺と同じくらいの背の、一人の男が立っていた。
金色の髪に、深緑の目。見惚れるほど端正な顔立ち。黒い服を着た男だ。
こいつ……王家のものだ。胸の辺りに、魔力で描かれた王家の印が見える。この男……コレリール王子か!??
なんだか、一年前に研究所で見かけた時とは、だいぶ雰囲気が変わっている。もう少し、柔らかい雰囲気の男で、俺にも研究所で話しかけて来るようなやつだったのに。もちろんその時は、周りにぞろぞろいた護衛が俺をにらんできて、腹が立った俺は、適当に挨拶をしてその場を立ち去ったのだが。
今は、冷気を感じるような目をしている。
コレリールのことは覚えているし、民衆思いの思慮深い紳士と聞いたことがある。久しぶりだと親近感を持たせるような挨拶をしてもいいのだが……
俺はあの時、こいつをぞんざいに扱っている。こいつも、俺に対して良い印象など持っていないだろう。そんな相手に、今も覚えられていては、何か他意があるのではと勘繰られるかもしれない。
知らないふりをするか?
コレリールは俺の姿を見つけて「見つけた」と言っている。俺を探していたんだろう。
しかし、俺はさっきこの学園に来たばかり。それを探して学内をうろついていたのは、俺のことを学園長に聞いたからだろう。
わざわざ学園長が、俺が来たことを話したとすれば、俺がここに来たから警戒しろと言ったはず。そんな奴が俺を探すということは、俺がここにいることを知り、先に潰しに来たか。
ともあれ、ここは知らないふりをしておく方がいい。何も考えていないような顔をしておけば、警戒もされないはずだ。
「……誰だ?」
すると男は、にっこり笑って、俺に近づいてきた。
「僕は、コレリールといいます。困っているようだったので……つい、声をかけてしまいました」
それにしてはさっき、見つけた、とか言ってなかったか? 俺が気づかないとでも思っているのか? 馬鹿にされたもんだ。
まあ、いい。そうしていてくれている方が、俺は動きやすい。絶対的優位に立っていると思い込んだ思い上がりは隙だらけだ。
まさか王子の方から出てくるなんて。学園長には、後で礼を言っておこう。チャンスをありがとうと。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます
松本尚生
BL
「お早うございます!」
「何だ、その斬新な髪型は!」
翔太の席の向こうから鋭い声が飛んできた。係長の西川行人だ。
慌てん坊でうっかりミスの多い「俺」は、今日も時間ギリギリに職場に滑り込むと、寝グセが跳ねているのを鬼上司に厳しく叱責されてーー。新人営業をビシビシしごき倒す係長は、ひと足先に事務所を出ると、俺の部屋で飯を作って俺の帰りを待っている。鬼上司に甘々に溺愛される日々。「俺」は幸せになれるのか!?
俺―翔太と、鬼上司―ユキさんと、彼らを取り巻くクセの強い面々。斜陽企業の生き残りを賭けて駆け回る、「俺」たちの働きぶりにも注目してください。
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる