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23.勘違いだ
しおりを挟む腹の探り合い対決でもしたいのかと思ったのに、ゲキファは、真っ赤な顔のまま、微笑んだ。
「……予定、絶対にあけておく……ありがとう……夜、楽しみだ」
「……」
何がそんなに嬉しいんだ?
……待て。俺はこいつに好きだと言われているんだ。
…………おい、待て。
「おい待て!! お、俺は別に、貴様をデートに誘ったわけではないぞ!!」
「え?」
「か、勘違いするなっ!! 俺はお前が伯爵の息子だから誘っているだけだ!! お前のその立場と、伯爵とのつながりがなければ誘わないっ!! 覚えておけ! 貴様に気があるわけではまっっったくない!!!! そこだけは!! 覚えておくんだ!! おかしな真似をしたら、伯爵の息子といえども首を跳ね飛ばしてやる!!」
「…………」
少しの沈黙の後。
一気に捲し立てたせいで、肩で息をしなくてはならなかった。
そして、さらに静寂の後。
ゲキファは、長い尻尾と眉を垂れて口を開いた。
「……それって、キュラブ伯爵に……恨みがあるから、俺を誘ったってこと?」
「……ああ」
くそ。何を暴露しているんだ。最初にこんな暴露をしてどうする。
当初の計画では、俺がここを追い出された経緯など、まるで気にしていないふりをして、この男の懐に入り込むつもりだったのに。それなのに、全部話してどうするんだ。
こんなはずじゃなかった。計画は最初からやり直しだ。
俺は、ゲキファの横をすり抜け歩き出した。
もう追っては来ないだろうと思った。しかしゲキファは、後ろから俺に声をかけてきた。
「俺のことが嫌いなわけじゃないんだろ?」
「……ああ。はっきり言うが、お前には何の感情もない」
「……そっか…………じゃあ、俺にもまだ、チャンスあるんだ」
「はあ??」
何言ってるんだ、こいつ。キッパリと何の感情もないと伝えたのに、それが分かっていないのか? いや、理解する気がないのか?
狼狽える俺の手を、ゲキファは、ぎゅっと握る。
「お、おいっ……!」
しかも、俺の手を握ったまま走り出す。
「コレリールの部屋なら知ってるけど、多分行っても会えない」
「な、なんだと!?」
「コレリールはこの時間は学食にいるんだ。朝食食べてるはずだから」
「お、おいっ! 引っ張るな!!」
走るくらい、自分でできる。腕に力を込めると、今度は簡単に振り払うことができた。
手を離されたのに、ゲキファはやけに嬉しそうに笑う。
「……チャンスあるなら、俺、頑張る」
「はあ!? ない!! 貴様には何の感情もないと言っただろう!! 利用したいだけだバカ!! おい! 聞け!!」
何がそんなに嬉しいのか、そいつはまた俺の手を取って、ぐいぐい引いていく。
こいつ……本当に分かっているのか!? 利用してやると言われて何を頑張るんだ!! 大丈夫かこいつ!!
くそっ……いちいち腹立たしい男だ。部下にするなら、存分に痛めつけて身の程を分からせてからにしてやる!!
怒りを込めて、見上げる。そいつは俺に振り向きにっこり笑う。
拒絶の意味が、全く理解されていないらしい。
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