悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
22 / 85

22.夜の予定

しおりを挟む

 俺は、顔を上げた。

 せっかくの朝だ。食事にでも行くか。食堂なんかへ行けば、目立つことはわかっている。だが、こそこそ隠れたところで意味がない。授業に出ればすぐに知れることだ。隠れるより、公爵が焦って出てくるまでに用意をしておく方が利口だ。

「ゲキファ、コレリールの部屋はどこか、知っているか? 案内して……」

 言いかけて、口を閉じる。

 だって、ゲキファが俺を、すくみ上がるような目で見ていたから。

 なんだ? こいつ。何でこんな怖い目で見るんだ??

「なんで……そんなこと聞くの?」
「……な、なんで?? あいつと朝食を…………」

 言いかけて、再び口を閉じる。

 だってゲキファが刺すような目で、俺を見ていたから。何なんだ一体!!

「やめた方がいい……あいつ、ヴァデスを襲ったんだから……」
「あんなもの、怖くも何ともない。今度来たら首を締め上げる。あいつに話があるんだ。あいつは俺の破壊の魔法に興味があるらしいからな」
「……」

 ゲキファは、いきなり俺の手首を強く握る。なんだ、喧嘩か? 買うぞ。クズが!

「何をっ……」
「俺だってっ……ヴァデスの魔法に興味あるっっ!!」
「はっ……!?」

 何言ってるんだこいつ?? そんな話、今してないだろ!!

 それなのに、そいつは俺をじっと見下ろしている。なんなんだこいつ。やっぱり喧嘩か!!

 俺の手首を捕まえたゲキファの腕を握り、魔法をかける。すぐにゲキファは飛び退くかと思ったが、俺の魔法は、そいつの体に吸われるようにして消える。

 消去の魔法か……!?

 そんなものが使えるなんて聞いてない。あらゆる魔法を打ち消す消去の魔法は、かなり高度なもので、誰にでも使えるものじゃない。
 さっき、俺が拘束の魔法を使った時、咄嗟に反撃しかけた時に見せたのはこれか!!

 なるほど、俺の魔法を知りながら喧嘩を売るだけあるじゃないか。

 ゲキファは、じっと俺を見下ろして、急に手を離した。

「ごめん……」
「…………謝るなら最初から喧嘩を売るな」
「け、喧嘩?」
「したかったんだろう? 買うぞ。何なら表へ出ろ」

 俺は拳を握ってみせる。

 けれど、ゲキファは少し困ったように頬をかいた。

「え……と……喧嘩売ったつもりはない……少し……嫉妬しただけで……」
「嫉妬? 馬鹿にしているのか? 魔力ならお前の方が圧倒的に上だろう」
「……そうじゃなくて…………俺、ヴァデスのこと誘いにきたのに、コレリールと食事に行きたいなんて言うから……」
「誘いにきた? それでドアの外にいたのか……では、俺が食事に行きたいと言ったことが気に入らなかったのか?」
「……」

 なるほど……策略を立てているのは俺だけではなかったと言うことか……

 ゲキファは伯爵の息子。いずれ家の敵に回る男の謀略を知りたいと思うのは当然だろう。なかなか可愛いやつではないか。俺に挑戦するとは。

「いずれ二人で食事に行ってやる」
「え……?」
「俺と食事に行きたいのだろう? ディナーは貴様と二人でしてやろう」
「え…………い、いい……の……?」
「ああ。予定を空けておけ。代わりに、店は俺が決める。構わな…………」

 振り向いたら、ゲキファは真っ赤じゃないか。

 な、何だその顔はっ……! 俺はただ、食事に行こうと言っただけだぞ。なんなんだ……

 今度は俺の方が顔をそむけてしまう。だって、そんな顔されるなんて思わなかった。謀略聞き出したかったんじゃないのかっ!?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます

松本尚生
BL
「お早うございます!」 「何だ、その斬新な髪型は!」 翔太の席の向こうから鋭い声が飛んできた。係長の西川行人だ。 慌てん坊でうっかりミスの多い「俺」は、今日も時間ギリギリに職場に滑り込むと、寝グセが跳ねているのを鬼上司に厳しく叱責されてーー。新人営業をビシビシしごき倒す係長は、ひと足先に事務所を出ると、俺の部屋で飯を作って俺の帰りを待っている。鬼上司に甘々に溺愛される日々。「俺」は幸せになれるのか!? 俺―翔太と、鬼上司―ユキさんと、彼らを取り巻くクセの強い面々。斜陽企業の生き残りを賭けて駆け回る、「俺」たちの働きぶりにも注目してください。

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

処理中です...