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60.隠す魔法
しおりを挟む使い魔を壊されてしまったのに、セアガレンは、無言で海に向き直る。
「では……次のものを……」
そう言って作り上げた使い魔も、すぐにもう一人の講師に、魔法の矢で破壊されてしまう。同じことをもう一度繰り返して、それでも、じっと俯いたままのセアガレンに、講師のうち一人が近づいていく。
「もうやめろ!! お前などが何をやったところで、無駄だ!!」
「……」
「なんとか言ったらどうだ? 裏切り者」
「わ、私はっ……!」
「なんだ? 森でも、生徒を置いて逃げただろう? 警備隊を呼ぶこともできず、怯えていたそうじゃないか」
「それは……っ!」
「違うのか?」
「…………」
反論もできずにうつむく男を見て、俺の隣のコレリールが、不機嫌そうに、小声で言った。
「あいつ、なんで反論しないんでしょうか……あいつが警備隊を呼ばなかったの、精霊族に言われたからなんですよね?」
「馬鹿か。お前は。言えるわけがないだろう。言ってしまえば、今回の使い魔の事故は精霊が裏で糸を引いたと認めることになるんだぞ!」
「あ、そうか……」
すると今度は、ゲキファが言った。
「でも、それなら、なんであの二人はあんな風に、煽るようなことを言うんだ? 見たところ、二人とも精霊族だろ?」
「奴らにしてみれば、今回のことは、セアガレンが警備隊を呼ばなかったせいで被害が広がった、そういうことにしておいた方が、都合がいいのだろう。精霊側が、使い魔を狙って警備隊を呼ばせなかったなんて広まったら大変だ。単に、気に入らないものへの嫌がらせも入っているんだろうが。あの講師二人が喚くのも、そんな事情もあるからなんだろう。作戦はうまくいっているようだな……見てみろ。生徒たちのセアガレンに向けられる目を。まるで仇を見るかのようだ」
「……セアガレンが耐えきれずにぶちまけたらどうするんだ?」
「いや、あいつは吐かない。随分臆病なやつのようだし、吐けば今度こそ、精霊の国の全てが敵になる」
「卑怯な奴ら……」
講師の一人が、無言のままのセアガレンを役立たずと罵り、震えながら使い魔を作るセアガレンに、今度は生徒の方から、それじゃ分からないと声が上がる。
何度もそれを繰り返すうち、講師はセアガレンを罵って言った。
「下手くそめっ!! もういいっ! 俺がやる!!」
叫んだ講師が、海水をボールの形の使い魔に変え、セアガレンに向かって投げつける。避けることもせず、ただ怯えているだけの男の背に、それがぶつかって、セアガレンは水浸しになっていた。
「どうだ? お前のものより実用的だろう? お前は今日は的をやれ!」
喚き散らす講師に乗っかるように、笑い声が起こる。
その間、俺はセアガレンの体のどこかから感じる魔力を探っていた。
やはり……あの森で感じた魔力と同じものを感じる。あいつ、何か持っている。しかし、どういうことだ? 体の中を探っているのに、見えない。
くそ……あのセアガレンという男、弱々しいように見えて、隠す魔法は得意らしい。あの使い魔の事故で死者が出なかったのは、セアガレンがその魔法を使ったからだろう。隠匿の魔法を使い、使い魔たちから生徒を隠していたんだ。
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