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61.俺はヴァデスといる
しおりを挟むじっと、セアガレンの様子を探っていると、ゲキファが俺を見下ろして言った。
「胸糞悪い……ヴァデス…………そろそろ俺、我慢できなくなりそうなんだけど……あの講師、殴っていい?」
「…………そうだな……では、あいつの得意らしい魔法を、ここで打ち消してみようか。何か出てくるかもしれない……」
「え……?」
「貴様はコレリールだけ守れ。ここにいて手を出すな!」
叫ぶが早いか、俺は、砂浜に手をついた。途端に、砂浜の砂が、一斉に揺れ始める。粒のひとつひとつに魔力を込めて、吹き上がらせると、まるで砂浜から空に向かって、砂のシャワーが噴き出したかのようだ。砂たちは、使い魔となって、そこにいた生徒たちと講師に襲い掛かる。
「な、なんだっ……!??」
「うわあああああーーーーっっ!!」
逃げ惑う一同。あの講師二人、何にもできないな……剣を振り回しているようだが、砂相手にそれをやってどうする。
悲鳴が飛び交う中、噴き上がる砂に隠れ、俺は背中に羽の生えた猫の使い魔を作り出し、それに乗って、セアガレンまで走った。
「お、お前はっ……!」
驚くセアガレンの服を、猫の使い魔が咥えて空に飛び上がる。
こうしてそばに来ると、確かに感じる! 森の中で見つけた、ロフズテルの魔力だ。魔法で隠しているようだが、俺に襲われたことで動揺したらしい。隠す魔法の力が弱まっている、
もっとそばに行って確かめたいところだが、俺の猫の使い魔に咥えられたセアガレンは、悲鳴をあげて震え出した。
「き、貴様っ……ヴァデス!??」
「ああ、俺だ。今更気づいたか? 馬鹿なやつだ。生徒どもに隠匿の魔法をかけたりしているからだ」
「つ、つ、使い魔の授業の際は、そうしないと危険なんだっ……」
「それにしてはもう解けているぞ。全員俺の使い魔に襲われて阿鼻叫喚の騒ぎだ。ざまあみろ!」
「黙れ! 魔法が解けたのは、お前が私を咥えたからだ! 下ろせっ……!! おい!!」
セアガレンの話など、俺はもとより聞く気はない。そいつから感じる魔力を探りながら飛んでいたら、ゲキファとコレリールも、空を飛んで並走してきた。来るなと言ったのに。
「貴様らは下にいろ。ここへ来ると、俺と肩を並べたと言われて、下の連中から学長に報告がいくぞ」
けれど、ゲキファは微笑んだ。
「俺はヴァデスといる。ヴァデスと一緒にいたことが噂になるなら、嬉しいよ」
「……馬鹿が。貴様それでも伯爵家の後継者か」
すると今度は、コレリールまでもが声を上げる。
「師匠と一緒にいたのは僕です! その男は、師匠に付き纏っているだけです!!」
今度はゲキファが「そっちだってヴァデスのこと、しつこく追い回してるくせに」と言い出して、またいつもの睨み合いが始まる。
そんな会話をしている間も、セアガレンは、猫に咥えられたままずっと暴れていた。
「離せ!! ヴァデス!! 今すぐ、下の人たちを襲う使い魔を止めろ!!」
「何を言っているんだ? 向こうが望んだんじゃないか。水以外の使い魔が見たいんだろう? 授業料は俺に寄越せ!」
「な、何が授業料…………」
「まあ、金の話は後でするとして……お前の中に、森の中で見つけた使い魔と同じ魔力が見える。貴様、まさか…………ロフズテルの使い魔、持ってるのか?」
「はああ!? し、ししし知らないっっ!! 知らないっっ!! 私は何もっ……! 私は何も持ってない!!」
激しく動揺して暴れるセアガレン。そうですって言っているようなものだ。そしてめちゃくちゃに暴れるものだから、使い魔の口からすっぽ抜けて、下に向かって落ちていく。
その時、見えた。確かに、あいつの服の中にある!
砂浜では、まだ俺の使い魔が暴れている。悲鳴が上がる方に、セアガレンは墜落しながらも魔法をかける。すると、俺の砂の使い魔は、標的を見失い右往左往し始める。
あれが、隠匿の魔法か……使い魔からも見えないようにしてしまうとは、すごい技術だ。
しかし、そんなことをしているものだから、自分が懐に隠しているものの方が疎かになる。
「もらった!!」
俺は、猫から飛び降り、セアガレンに飛びかかった。空中でそいつを捕まえ、死なれては困るので落ちるスピードを弱めて、砂浜に押し倒す。激しく背中を砂浜に打ち付けたセアガレンが、苦しそうに呻く。
「ぐっ……!」
「じっとしていないと怪我をするぞ!」
「や、やめろっ……! 嫌だっ……!」
涙目になって喚くセアガレン。無視してその服を爪で切り裂くと、小さな猫のような使い魔が、俺に飛びついてきた。白い毛並みの可愛らしい子猫で、確かに、ロフズテルの魔力を感じる。
ロフズテルの使い魔だ!! まさか、こいつが持っていたなんて!!
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