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40.作戦会議です
しおりを挟むヴィユザは心配そうだけど、心配することなんて、何もない。だって僕は今、すごく嬉しいんだから。
そして、せっかくだから、この喜びを誰かと分かち合いたい。
隣のヴィユザに振り向いたら、彼はなぜか、ビクって身震いしていた。
「……どうした? 今日のお前、なんか怖いぞ」
「僕はいつもと変わらないよ。あ、でも、一つ変わったことがあって……なんだと思う?」
「……ますますイカれてきた」
「違う!! えっと……大したことじゃないんだけど……」
「寒いのか?」
「違う……なんで気温の話になるの……」
「さっきから手をさすってるじゃないか。あ! もしかして怪我か? 喧嘩だな!? また絡まれたのか!?」
「ちっがう!! そんなんじゃない!! そうじゃなくて、ゆ、指輪……」
「指輪? ああ、それか? 朝からつけてるの」
「そう!! き、気づいてたの!!?? これ、その……」
「気づくに決まってるだろ。馬鹿にしてんのか?」
「ヴィユザ……僕の気持ちをわかってくれるの!?」
「魔石使った物だろ? 俺でも魔力を感じる……魔力を上げるためのものか!?」
「……違う。なんでそんなに鈍いんだよ!! これは、会長が僕にくれた指輪!」
「あー……そうなのか?」
「……何その薄すぎる反応」
「それ、なんに使うんだ? 魔物と戦う時に火が出るのか!?」
「そんな物騒なものじゃない! なんで分からないんだよ!?」
「なんだよ。何にも使えないのか? じゃあいらねーだろ」
「いるよ!!!! ヴィユザの馬鹿っ!! 指輪にしちゃうよ!」
「は!?」
「使える使えないじゃない!! そもそも戦うための魔法がかかったものじゃないし、会長が贈ってくれたことに意味あるんだよ!!」
「そ、そうなのか?」
「そうだよ! ヴィユザ、今言ったこと、恋人に言ったらダメだよ」
「だめなのか? よくわかんねーけど……分かったよ。婚約者の前では言わねー」
「婚約者がいるの!?」
「いるぞ? 田舎に。お笹馴染みだよ。ガキん時から約束してるんだ」
「子供の頃から!? なんだか……ヴィユザに先を越された気分……」
ヴィユザは「何がだー?」って言って、キョトンとしてる。
僕らは付き合ったばかりなのに……もちろん、僕らは僕らだからいいんだけど……婚約かあ……あ、想像したらまたニヤニヤしてきた。
会長……婚約の話もしてたな。
「僕も会長に指輪を送りたい…………永遠に外れない魔法をかけておこう……」
心の決意が勝手に口をついて出る。するとヴィユザは、だいぶ引いた顔で「やめとけ」って言ってる。
「やっぱりお前、いつもよりずっと変だぞ。会長いるのに何言ってるんだよ……もう少し危機感持て。公爵家に目をつけられてるんだから」
「コーシャク?? ああ……そうだったね……セルラテオなんか怖くない……それより、指輪にかける魔法を練習しなきゃ。あ! か、会長にかける捕縛の魔法も……」
「……お前、俺の話聞いてるか? ……ちゃんと警戒しておけよ?」
「分かってるよ……」
本当なら、僕があいつのところへ行って「今度会長に手を出したら許さない」って言いたい。だけど、僕は勝手なことをできる身じゃないし、また会長にひどく心配をかけてしまう。
ヴィユザの言葉に、マモネークも何度もうなずいている。
「ヴィユザの言うとおりです。公爵様は怖いので、気をつけてください」
「公爵をご存じなんですか?」
「はい。とはいえ、公爵様は、身内だから、なんて理由で、セルラテオを庇ったりしないと思います……それより、あなたの魔法に興味があるようなので、気をつけてください」
「は、はい……」
「陛下も、あなたの魔法に一目置いているみたいですよ」
「や、やめてください……なんだか恥ずかしいです。でも、僕、貴族じゃないのに……」
「陛下はそんなこと気にしません。だから、今の会長が会長なんです。兄様も陛下のそういうところが気に入ったから、無理して魔法使いになって、今じゃ陛下の側近って言われるところまで上り詰めたんです」
「……マモネーク先輩も、いつかは陛下に仕えるんですよね?」
「いつかは……だけど、召し抱えてもらえたらいいなー、くらいで、ダメなら一族のつてで、魔物の多い辺境の田舎町で、街道の警備隊に入れてもらうことになってるんです」
「ま、魔物が多いところに行くんですか?」
「はい」
「危なくないですか? なんでそんなところに……」
「僕が志願したんです。僕には、そっちの方が向いてるかなーって思ってて。あの街道の木漏れ日とか、途中にいっぱい生えてるキノコとか、川のせせらぎとかが好きなんです! あまりそういうところに貴族が行くことはないし、力がないと虚しいな、なんて、馬鹿にされたりするんだけど」
「ほ、放っておけばいいんです! そんなやつ!! それが好きなら……いいと思います! 魔物には、気をつけてほしいけど……」
すると、マモネークは嬉しいそうに微笑んだ。そんな風に微笑まれたら、僕だって嬉しい。
今度はヴィユザが言った。
「俺はやっぱり、どんな魔法でも操れるようになりてえ!! 学園、いや、世界で一番になって、セルラテオみてえな舐めた野郎を殴り飛ばすんだ!」
「……殴っちゃダメだよ……学生同士で殴り合ったりしたら、風紀委員に連れて行かれるよ?」
なんだかこうしていると楽しい。ここは居心地が良い、そんな風に考えてしまう。
だからこそ、ここを脅かす奴は許せない。
僕の会長に手を出すやつも、ここを傷つけるやつも、僕の敵だ。
「会長……昨日の演習の時の魔法具の犯人、見つかりそうなんですか?」
僕がたずねると、会長は難しい顔をして振り向く。
「風紀委員が調べたよ。フォーラウセらしい」
「フォーラウセが?」
「今日は朝から、彼は風紀委員会に呼ばれているはずだ。多分、そこで白状するんじゃないかな?」
「そんなのっ……! セルラテオを庇うに決まってます!!」
「……かもね。だから、セルラテオのことは、ここに呼んでる」
「え……?」
「フォーラウセだけ切り捨てて、逃げられたらたまらないから……ディトルスティに変なちょっかい出されても困るし」
「じゃあ……ここにこれからセルラテオが来るんですか……?」
「ディトルスティは、授業だろ? ここには近づいちゃダメだよ」
「待ってください! セルラテオは、あなたを恨んでいるんです!! それなのに、セルラテオをここに呼ぶなんて……危険すぎます!」
「あいつをこのまま野放しにする方が危ない。それに、ディトルスティ……危険なのは、君の方かも知れないんだよ?」
「分かってます……セルラテオに最初に手を出したのは僕だし……だけど、会長だって危ないのにっ……!!」
「俺は大丈夫。二人きりで会おうなんて、言ってない。マモネークも一緒だから」
「会長……」
会長の目は鋭くて、決意が固いことを告げてくる。
だけど、危ないのは会長の方だ。
しかも、それでセルラテオが認めず、フォーラウセが「自分だけでやった」って言い出したら、立場が悪くなるのは会長の方。公爵令息にあらぬ疑いをかけたなんて言われてしまうかも知れない。
「……だ、だったら……朝の聞き取りが始まる前に、フォーラウセと話すことを許可してくれませんか?」
「だめ。危険だ」
「相手の魔力は把握しています!」
「ディトルスティは昨日、魔力が尽きたばかりだろ。回復したとはいえ、いつもと同じようには動けないはずだ」
「それでも、僕はフォーラウセには負けません! 会長! お願いします! 会長はこれから、セルラテオと会うんですよね!? そこに僕の同席を許可してくれないなら、フォーラウセの方を僕に任せてください!! 最初に、セルラテオに付き纏ってるなんて悪評を広められそうになったのは僕なんです!! 話をつけさせてください!! 会長に……いえ、生徒会に、学園に迷惑をかけるようなことはしません! 会長!!」
「……」
しばらく、会長は黙って僕を見下ろしていた。けれど、かぶりをふる。
「会長っ……!」
「ひとりではだめだ。ヴィユザを連れて行って」
「い、いいんですか!?」
「説得は無理だろうから。それに、蚊帳の外に放り出されるのが納得いかないディトルスティの気持ちもわかる。代わりに、無茶しないように。校則違反もダメだ。君の方が責められることになる」
「は、はい!! ありがとうございます!」
「……跳ねっ返りなんだから。そういうところがいいんだけど」
そう言って、会長は僕の指輪を握る。するとそこが光りだした。
「異常を知らせる魔法だ。何かあれば俺のところに知らせが入る。君が軽く魔力を注いでも、俺に知らせが入るから。何かあったら、すぐにそれで知らせるんだ」
「は、はい! わかりました!」
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