不自由で自由な僕たちの世界。

広崎之斗

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終章:自由/不自由

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「それで、国を出るっていう話が、どうしたの?」
「ああ、そう。目的がないまま国を出るのは得策じゃないって思ってね。どこに行きたいかも決まってないなら、とりあえずは街を出るだけでもいいんじゃないって思って。そこで新しい仕事して、色々して、何がやりたいとか、どうしたいとか出来たらそこにまた移動するとかさ」
 ロスの言い分は確かでユーマは小さく頷いた。同時に器をトレーに乗せ戻ってきたハチを見上げる。
「はーい、お待たせ。つってもレトルトだからね」
「ありがとう。なぁ、お前はどこか行きたい国とかはあるの?」
「ん? あるような、ないような? 別にめちゃくちゃどこに行きたいってわけじゃなくて、他の国見てみたいってくらいかなぁ、俺は。だからあの時咄嗟にああ言ったようなもんよ」
 なるほど、と納得すると同時に、ハチは理由の大小はあれど行きたいという理由があることに気がついた。それはユーマには無い感覚だと言っていい。とにかく街を出たいという願望はあっても、それ以外にこれといった理由はない。それも結局は組織を離れたい、という思いがあったから出てきた願望である。別に組織から離れ、無関係を決め込めるならば街を出る必要はない。だがそれは不可能だと分かっているからこそ、この願望に行き着いているわけである。
 トレーの上には器とプラスチックのカトラリーが乗っていた。手にして一口含むと、味のある食べ物に口の中がきゅっとした。
「うまぁ」
「レトルトだし味薄いけど、大丈夫?」
「今はこれでも十分に味感じられるよ」
 ユーマはそういうとまた一口頬張った。

 食事をしはじめたユーマをみてロスはやはりホッとしたように身体の力を抜いた。そしてコーヒーを飲みながら、ハチの方を向いた。
「もし行きたいところあるなら、それはそれで目的地にしてもいいけど」
「んー、別にこれっていう理由はないからさぁ。とりあえず街出て暮らして、ユーマが行きたいところできたらで良いんじゃない?」
 ふとその言葉にユーマは手をとめた。そして口の中を空にするとロスを見る。
「お前も、本当についてくるの?」
「行くよ。これに関しては、ハチからも承諾得てるので」
「ハチも良いのかよ」
「俺は別にいいよ? 話してたら面白いし」
 二人は顔を見合わせると、わざとらしく「ねー」と声を合わせて笑った。どうやら自分が寝ていた数日の間に二人は仲が良くなったらしい。確かにどちらもタイプとしては似ているかもしれない。いや、似てないかもしれない。そんなことを考えてユーマはまたスプーン一杯を頬張る。
「でもまぁユーマがなんでロスを連れて行きたくはないって言ったのかは、俺も理解できたよ」
「え?」
「それは俺も、二人を見ててなんとなく分かったよ」
 ロス自身からの言葉にユーマは少し驚いた。どんな心境の変化があったのか。だがそれでも一緒にいくつもりだと付け加えて、ロスは続けた。
「俺は結局、現場には基本いないからね。何をしているか分かってても、状況を見たことは殆ど無い。だから分かっちゃいても、実際に怪我をする姿をみると、やっぱり心配になるし。少し気が動転もしたし。それが二人にとっては普通なのも分かるし。だからこそ、俺は二人とは違うのは確かだろうね。でも、だからこそ普通の感覚が一人いるってのも必要と思わない?」
「普通っていうのも、一般人ってわけじゃないけどね」
 ハチが突っ込みながら再びキッチンに向かう。もう一杯コーヒーを淹れるというのでロスもおかわりを頼んだ。その気さくな感じから、自分が寝ていた間に二人は二人で話をして、何かしら共通点でも見いだしたのかも知れないと思う。
「とりあえず、ゆっくり食べなよ」
 そうロスに言われて、 一口、また一口とスプーンを口に運びながらユーマは一人思索に耽っていく。

 組織を出たい、という確かな理由はあった。だがその先に何かしたいという理由はなかった。自由になりたいという想いの行動の起点に、組織からの解放があったといえる。だがそのあとは、どうする。何がしたい。何もない。
 人を殺す事しか知らない。身体を使って他人を懐柔し、懐に入り、情報を得たり殺したり。そういうことしかしてきてない。
 それらがイヤか、と問われると正直イヤではない。自分に出来る唯一のことだから、それで金が稼げるならば文句はない。組織を出て、それを生業とすることにイヤだという感情はないのだ。
 ただ自由になりたかった。ただミナトの所有物であることから解放されたかった。
 それだけだ。
 そしてそんなユーマに、こんなことを考えさせるきっかけになったのはハチとの会話だ。街を出た先、何もないならいっそ国も出るのは、という提案は、何もないユーマにとっては「それもいいかも」と思わせるに十分だった。
 だがその先は、ない。出たところで何かしたいわけでも、何か見たいものがあるわけでもない。
 ふとユーマは殆ど腹に収めた器の中を見つめて手を止めた。その時にはハチがコーヒーを淹れて戻ってきて、一つのカップをロスに渡していた。椅子が引かれる音がして、ユーマは顔を上げて言った。
「とりあえず街をでたら……三人で何かしていく……ってのは、ありなの?」
 その質問にユーマを見ていた二人は顔を見合わせた。
「いや、ほらだって……ロスはついて、くるんでしょ?」
「行くよ。別料金はそれでチャラにしてあげるし、ハチのほうの依頼もそれでチャラって約束だから」
「そうなの?」
「そうだよ」
 ハチはさも当然のように言って、それからコーヒーカップを口元に近づけながら言った。
「いいんじゃない? それ。三人で何かするっての、俺はサンセー。前に言ったみたいに、殺しは必要であればするけどソレがメインじゃない。基本的にはなんでも屋って感じでしょ? いいじゃん、面白そう」
「よし、じゃあ決まり。ユーマがもう少し体力回復したら、違う街に行こう。この近くだと……どこ? ハチ知ってる?」
「えー。この先工場とかあるコミュニティあるから、その先? たしかあそこは別の街の供給もしてるって聞いたことあるけど。俺も詳しくはないしなぁ」
「まぁ俺も。自分が住んでた街以外の街って、ほっとんど知らないからなぁ。だってここも昔は街だった場所でしょ? そんなの知らないじゃん俺達の世代じゃ」
 その言葉にユーマは頷いた。考えれば、街をでて街を移動するだけでも国を移動すると似た体験は得られる気がした。それだけ自分達は育った街しかしらない。それで済んでしまうし、生きることに必死になりすぎて周りを見る暇がなかったといえる。外を見る暇が無かった。
 否、外を見るという意識が芽生えなかったという方が正しい。
「とりあえず、ユーマの体力が戻ってからっしょ。その間に俺達が行く先は調べながら、住む場所とか仕事とかは考えて行けばいいし」
「俺も暇だから探すのは手伝うよ」
 ロスは首を横に振って制した。
「まずは体力回復だよ。歩くのも今はやっとでしょ? 走ったり動いたり。それこそ仕事をするってなったら前みたいに動けないといけない。まずはリハビリだよ」
 それはその通りだとユーマも納得して頷くと、器の中身を全て食べ尽くしてハチに礼を言った。
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