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本編・現在(アーダム・イクリプス)

アーダム・イクリプス。

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 俺は、アーダム・イクリプス。何千年、何万年以上生きている正真正銘の人間であり、神々に世界に破滅と絶望をもたらすと命名された世界の敵である。俺はこの体質になるまででも、世界を簡単に壊す力を持っていた。だが、ある魔法よりも高位な神法を使うことで神に近しい人間へと至った。

 月明り照らされている夜に、俺は着替えて寝泊りを許された未来学園の部屋の窓から飛び出る。ここは四階で落ちても問題ないが、今日は飛びたい気分だから風魔法で空中歩行を行う。もちろん隠蔽魔法も忘れずに自身にかけて歩行を続ける。

 行き先は、未来学園の理事長であるスタニックから昼間に聞いた、夜間でも空いている冒険者ギルドで、そこに向かう。そこで冒険者登録してクエストをこなすつもりだ。村にいた頃は、異常事態が常日頃来ていたから発散できていたが、ここでは来なさそうだから発散することができない。なら、話は簡単だ。自分から突っ込んでいけばいい話だ。俺は、面倒ごとが大好きだからな。

 城下町へとたどり着き認識阻害魔法をかけながら降り立ち、不自然のないように阻害魔法を解いて街を歩き始めるが、夜間とは思えないほどの人々がそこら中にいた。夜間でも街には暗さはなく、昼間並みに明るくはないものの昼間と変わらずに生活できるほどの賑わいと明るさだ。この町は昼も夜も関係ないのかと思いながら冒険者ギルドの前にたどり着いた。

 冒険者ギルドへと入ると、冒険者がお酒を飲んだいたり、クエストを選んだり、パーティーを組んでいたりと、ここでも昼間と変わらない、のかは分からないが賑わいを見せていた。これが昼間よりも抑えられていると言われたら、この町は年中お祭りなのかとツッコミたくなる。

 俺は冒険者になるために、受付を見つけ出しそこへと歩いて行った。受付には肩までの金髪に万人受けしそうな雰囲気の女性がいた。受付に真っすぐに行くと、受付の女性がこちらを見て五分咲きの笑顔でこちらを迎えてくれた。

「ようこそ、冒険者ギルドへ。ここは初めてですか?」
「あぁ、初めてだ。冒険者登録をしたくてここに来た」
「では、こちらの紙に必要事項をご記入ください。分かっているとは思いますが、嘘偽りを書かないでくださいね。嘘偽りが発覚した際は、最悪冒険者ギルドとの一切のかかわりを禁じることがありますので、ご理解ください」
「理解した」

 紙とペンを渡されて俺は氏名や年齢、故郷などを書き始める。書き始めたのは良いものの、年齢を正直に書いても逆に怪しまれる。嘘偽りがないことが分かったとしても、蟠りは生まれる。全く、正直に生きられないとは窮屈なことだ。さて、ここは幻惑魔法をこの紙にかけておく。俺の幻惑魔法を破れるものは、たとえ神であろうといない。

 迷うことなく紙に書くのと同時に、幻惑魔法を精巧にかけておく。すべての必要事項を書き終え、受付の女性に渡した。

「はい、ありがとうございます。記入事項に不備がないか確認して参りますので、少々お待ちくださいませ」
「あぁ、よろしく頼む」

 女性が受付の奥へと行くのを見届け、俺は冒険者ギルドを見渡す。金ぴかで高そうに見えて防御力が低い鎧を着ている男や、安物の杖を持っているがそれなりに実力があると見える女、それにこちらを凝視してきている聖衣・セラピアを着ている少女がいる。聖衣と宝杖の二つが同じところにあるとはな。

 こうして周りを見て回るのは、どの程度の奴らがここに集まっているのか知るためだ。王都であるからそれなりに高いだろうが・・・、ベツィーとレナには及ばない奴らばかりだ。王都でもこれくらいなら拍子抜けだ。夜間だからなのかもしれないけれどな。

「お待たせいたしました。アーダム・イクリプスさんの上方は不備なく受理されました。これが冒険者の証である冒険者カードです。ランクの登録がないようでしたので、最初はGランクから始まります。ランクはS・A・B・C・D・E・F・Gの八段階あります。ランク相応のクエストしか受けれませんので、そこはご了承ください。クエストを達成し続ければ、ランクは上がっていきますので、頑張ってクエストをこなしてください。それでは、あちらのクエスト掲示板でクエスト一覧が張り出されていますので、受けたいクエストの紙をこちらに持ってきてください」
「分かった。見てみよう」
「はい。それでは安全な冒険をできるよう、心よりお祈りしています」
「ありがとう」

 俺は受付から離れ、言われた通りにクエストが張り出されている掲示板へと向かう。最初だから軽く最上級ドラゴンの『シャイニング・ブラストドラゴン』を倒そうかと思っていたが、ランクGでできるわけもなく、ランクSでもそうはいない獲物だろう。倒せるものもいないくらいのモンスターのはずだ。聖剣などの聖なる真具の使い手が五人全員集まれば勝てる可能性が三割くらいか。

 ランクGで受けられるクエストは・・・、『薬草取り』、『光草取り』、『荷物運搬手伝い』、『スライムの死骸』などなど。・・・本当にGランク! と言わんばかりのクエストばかりだな。あまり気のりはしないがするほかない。これも暇つぶしだと思えばやれることか。

「あ、あの・・・」
「あ?」

 声をかけられたので振り返ると、何日もお風呂に入っていないのか分からないが、水色の長い髪がぼさぼさになっており少しにおう弱弱しくこちらを伺っているベツィーたちより幼い女の子がそこにいた。その汚れとは似つかわしくない髪色と同じ透明であるが水色の薄い衣こと、聖衣・セラピアを着ている。

「・・・あの、その・・・その・・・」

 緊張しているのか上手く言いたいことを言えないようであった。この子なりに声をかけたのを頑張ったらしいが、その後はダメなようだ。頑張ろうとしているが、涙を浮かべている。悪意がないのは分かっているから、さすがにこれ以上彼女を置いておくのは忍びない。俺だって人間だからな。

「一度深呼吸をして落ち着け。俺ならいくらでも待つ。だから落ち着くことから始めろ」

 そう言うと少女は深呼吸を何度か始め、しばらくすると少しは落ち着いたようであった。深呼吸している間に俺は少女に少しは緊張しなくなる魔法をかけておいた。これで少しは話せるようになるだろう。これで話せないなら・・・、また違う方法を考えるしかない。

「は、初めまして! 私はマリーズ・セゼールです!」
「俺はアーダム・イクリプス。それで? 俺に何か用なのか?」

 少し上ずった声で自己紹介をしてきたが無事に俺と会話ができてよかった。俺も自己紹介をして本題へと移る。

「あの、その・・・」

 おっと、またこの件をやるつもりなのか? それはもう見たから大丈夫だぞ?

「私と、私と、パーティーをくみましぇんか!?」

 渾身のセリフだったのだろうが、噛んでしまった少女は顔を真っ赤にして停止した。俺はそんな少女に笑うわけもなく、どういうことか確認する。

「組むのは良い」
「ほ、本当で――」
「だが、それなりに言うことがあるだろう。その成りや、その聖衣、それに何故冒険者になりたての俺を選んだのとか、な。マリーズは冒険者登録をする俺のことをずっと見ていただろう。そこを釈明しないことには組むことは考えられない。話すのが嫌なら俺と組むのはナシだ」
「・・・・・・はい、分かりました。お話します」

 俺と少女は冒険者ギルドに設置されている机のところに面と向いて座り、少女の話を聞くことにした。少女はしばらく沈黙を貫いていたが、ようやく決心がついたのか口を開き話し始めた。

「私、聖衣を守り受け継ぐ任を王都から受けているセゼール家の三姉妹の次女、なんです」
「守り受け継ぐか。真具はそうやって受け継がれているのか。・・・それで、その次女がどうしてそんな恰好をしているんだ? 王都からの依頼を受けるくらいだから、大きな家なのだろう?」
「・・・はい、そうです。そうですが、その話をする前に、私の話をしなければなりません」
「なら、マリーズの話を聞こうか」
「・・・私は、生まれた時からこの聖衣に選ばれました。姉と、妹は、選ばれませんでした。私、だけでした。マリーズの血筋である、母も、選ばれていません。何十代と、マリーズ家の者は、選ばれませんでした。私を除いて」
「おかしな話だ。守り受け継ぐと言っておきながら、受け継げないとは。それで?」
「・・・これだけなら、私はセゼール家の次期当主として、生きていけました。・・・ですが、私には、ある重大な二つの欠点があります」
「欠点?」
「私は、魔力がないに等しく、魔法の才能が、ないことです」
「・・・ほぉ、それは大変なことだ」

 聖衣に限らず、真具を扱うためにはそれなりに魔力が必要だ。ただ、魔力が少量でも真具が底上げしてくれるから、魔力についてはほとんど問題ないはずなんだが、こう言っているのだからほとんど使えなかったんだろう。見たところ、本当に魔力の量が赤ん坊より少ないぞ。例外はどの世界になっても存在するものだ。

 聖衣は所有者に降りかかる災いから守り、仲間に聖なる加護を与え、所有者や仲間を癒す力を持つ。杖と同じくらい魔力が必要な真具となっている。

「私は、その才能のなさから、母から聖衣を使いこなすようになるまで、帰ってくるな、死ぬときは聖衣だけでも返しに来いと、言われました。追い出されたときに渡された少量のお金はすぐに無くなり、お金もなく、途方に暮れました。何をしてもダメな私が、こんな大層なものを使いこなせるはずがないんです。でも、生きるためには、冒険に行き、聖衣を使いこなさないといけません。・・・一人では、冒険に出ることができません。だから、私は・・・、冒険者になったばかりのあなたと、パーティーを組みたいと言いました。・・・これが、私の語れるすべてです。・・・どうか、どうか、私とパーティーをっ」

 またしても涙を浮かべながらも、必死に涙を流さないようにしているマリーズ。嘘偽りはなく、本心で話しているのが分かる。・・・パーティーを組むこと自体に何も迷うところはない。だが、組んだ後に、彼女がどのように聖衣を使いこなしていくことが重要だ。

「マリーズ、お前はどうやって聖衣を使いこなす気でいるんだ?」
「そ、それは、モンスターを、倒していって・・・」
「モンスターを倒したところで、何も解決しない。お前がするべきことはただ一つだ」
「・・・一つ?」
「そう。死ぬほどその少ない魔力を使い、回復したらまた魔力を使い、を繰り返していくだけだ。ただ闇雲にモンスターを狩っていくだけではダメだ。何の解決にもなっていない」
「死ぬ、ほど? それで、魔力が増えるのですか?」
「あぁ、増える。魔力は使えば使うほどに強くなっていくものだ。初期のステータスが成長に影響を与えるが、それでも才能がないからと言って魔力が成長しない、なんてことはない」
「じゃ、じゃあ、私でも、聖衣を使いこなせますか?」
「さぁ? それはお前次第だ。真具は持ち主の感情にも直結している。だから、お前が強くなりたい、強くありたいと思えば思うほど、聖衣はその思いに応えてくれる。その気持ちを第一に持て」
「・・・強く、なりたい、ですか」
「そうだ。・・・さてと、そろそろ行くか」
「えっ?」

 俺は席を立ち、クエスト掲示板へと歩いていく。後ろからマリーズが付いてきていないので、振り返ってみると、彼女はまた目に涙をためて唖然としている感じだった。

「何をしている。行かないのか?」
「えっ・・・行くって」
「あいにくと、俺は一文無しなんでな。お前に金を恵んでやれないし、住居も提供できない。だからこそ、クエストに行ってお金をためないとな。聖衣を使いこなすことは後回しにして、まずはそこから始めるぞ、マリーズ」
「は、はいっ!」

 俺の言葉を聞いてマリーズは嬉しそうな顔をして、俺の横へと走ってきた。ここまで話を聞いて、お前と組むのは嫌だとか言われると思っていたのか、こいつは。ここまで話を聞いて、放っておけるかよ。それに、こいつをないがしろにした奴らにも一泡吹かせたいという気持ちはある。さて、俺の冒険者への道の第一歩だ。



 俺とマリーズは戦闘を行える『スライムの死骸』のクエストを受けた。王都を出て、すぐ近くにある森の近くに生息しているスライムを倒し、その死体を持って帰るという簡単なクエストだ。マリーズとクエストを受ける時に、俺が冒険者登録をした時と同じ受付の女性がマリーズと組んだことに対してお礼を言ってきた。どういう関係かは分からないため、適当に返事をして去って行った。

「マリーズ、スライムを倒したことはあるか?」
「あ、マリーズじゃなくてマリで大丈夫です。そうやって呼ばれるのに慣れているので」
「そうか。ならマリと呼ばせてもらう。俺のことはどう呼んでも構わない」
「私はアーダムさんって呼ばせてもらいますね。それで、さっきの質問ですけど・・・、私は一体もモンスターを、一人で倒したことはありません」
「なら、使える魔法はあるか?」
「いえ・・・ないです」

 魔法が使えないとなると、誰にでもできる魔法を教えるところから始めないといけない。魔力の消費は魔法以外でもできるものの、魔法の方が役に立つ。・・・無難に、暗闇を照らす魔法で良いか。

「照明という明るく照らす光魔法は使えるか?」
「・・・いえ、使えないです」
「それなら、まずはこの照明を使ってみればいい。良いな?」
「は、はいっ! 頑張ります!」
「詠唱はこうだ。『光よ、闇を照らせ』、『照明』」

 俺が詠唱を行うと、月明りで足元が見えていたものの暗かった辺りは、俺を中心に昼間のように明るくなった。これは俺がやったからこんなに明るくなっただけで、普通は松明の明るさにしかならない。

「わぁ、すごい・・・」
「ほら、やってみろ」

 俺はマリが詠唱を口にする前に自身が発動させた魔法を消し、マリの魔法を待つ。

「はい。・・・ふぅ、『光よ、闇を照らせ』、『照明』」

 マリが魔法を発動させたが・・・、辺りは暗いまま。不発かと思ったが、マリの手元を見ると小さく弱弱しく光っている玉がそこにあった。

「まぁ、何だ。あまり気に――」
「魔法が、発動した。・・・やったぁ! 私にも魔法が発動した!」

 俺がその光の玉のことを慰めようとしたが、マリはそれくらいで喜ぶのかと思うくらい喜んでいた。どこにそんなに喜ぶ要素があるんだと戸惑ってしまったが、一切魔法が使えないと思っていたから使えて喜んでいるのか?

「魔法を使うことは神々が人類に平等に与えた権利だ。使えて当然だ」

 神々を消滅させた俺は、一部の神に魔法を使えないようにされているが、神を仲介しなくても自分自身で魔法を使えるから問題ない。その場合は詠唱の必要はない。

「私にも・・・あれ? 何か、視界が・・・」

 突然マリの身体が揺れだし、立っていることができなくなったマリは前に倒れようとしたが、俺がマリの身体を支えて倒れることを防ぐ。マリの身体を触れた際に魔力を与えて魔力枯渇を解決した。・・・これくらいで魔力が尽きるとは、相当な魔力の少なさだ。

「う・・・うん? ・・・っ! ご、ごめんなさい!」

 すぐに目を覚ましたマリが、俺から急いで離れる。しかし、まだ魔力枯渇の疲労が残っていたためまた倒れそうになったマリの肩をつかんで、木のそばに座らせる。

「少し休んでいろ。魔力を使い果たせば、そういう風に気を失う。その状態は魔力を限界まで使った証拠だ。これを何回も繰り返すことで魔力を底上げする必要がある」
「・・・これを、何回も」
「辛くて嫌か?」
「いえ、嫌じゃないです。・・・ただ、今まで何も解決しないと思っていたことが、急に解決すると思うと少し嬉しくて。それに、今まで魔法を使おうとしても使えなかったので、今使えたことが嬉しいです」
「どんな魔法を使おうとしていたんだ?」
「えっと、『フレイム・ボルテックス』とか『サンダー・スラッシュ』とかです」

 ・・・その二つは、中級魔法に当たるレベルの魔法だ。これは低級魔法を使おうと思っていなかったな。

「何故、魔力量が少ないのに初級魔法や百歩退いても低級魔法だろうに、中級魔法を使おうとしたんだ?」
「えっと・・・家の人が唱え続ければいつか魔法を放てるようになるって」
「そんなわけがないだろう。そもそも発動しないものを何回しても放てるようになれるわけがないだろう。当分はその魔法を使うことに集中しろ」
「はいっ! 分かりました!」

 元気に返事をすると、また魔法を唱えようとしたからさすがに止めた。

「おい、今しようとするんじゃない」
「えっ、でも・・・」
「今はクエスト中だ。無一文のまま倒れても良いのなら、俺は止めないぞ?」
「うっ・・・、分かりました」

 マリは魔力の底上げをあきらめ、しばらく座り込んで体力を回復した後に渋々スライムの討伐に向かうことにした。全く、子供なことで。



 スライムがそこら中にうようよとしている場所へとたどり着いた俺たちは、スライムを討伐してスライムの死骸を取ることにした。俺たちと言ったが、実質的に俺だけだ。

「えいっ! って、うわぁ!」

 マリは蹴ってスライムを倒そうとしたが、弾力で足を跳ね返されて転んだ。スライム相手に苦戦しているマリを放っておいて、俺は俺でスライムの息の根を止めるために考えを巡らせる。スライムをただ倒すのではなく、スライムの死骸の回収。スライムをただ爆散させる方が簡単だ。俺が魔法を加減なく打ち込めば神すら屠れる。だが、そうすればクエストは失敗。スライムになるべく外傷を加えずに殺した方が良いのだろう。なら、この魔法で良いか。

「マリ、少し離れていろ」
「いってて、はい」

 マリが少し離れたのを確認し、この場にいるスライム全部に焦点を合わせる。俺は身体の奥底に沈んでいる世界を破滅に導いた“死”を身体から黒いもやとして溢れ出させ、それをスライムに向かわせた。

「『デス・センス』」

 黒いもやはスライムにまとわりつくと、スライムは一瞬で息絶え、周りにいたスライムは外傷がなく全滅した。この魔法で死なない生き物はいない。神を消滅させるくらいの死は少し時間をおかないとできないが、何億年以上前の戦争で、神を何体も消滅させたことはある。

「・・・ふわぁ、どんな魔法を使ったんですか?」
「これはお前たち人間が認識する魔法ではない」
「えっ・・・、なら、それは一体・・・?」
「マリが気にすることではない。魔法と認識していれば良い。ただ、俺専用の魔法だという部分を覚えておけばな」
「へぇ、そんな魔法があるんですね」

 マリはそれ以上俺に何かを聞いてくることはなかった。俺とマリでもう死の感覚がなくなっているスライムたちを一か所に集めたが、スライムの数が膨大なものになった。百体はいっているか。スライムの死骸の必要な数は四だと書かれていたから、二十五倍も集めてしまった。冒険者ギルドで余った素材を買い取ってくれるのなら集めた甲斐がある。まぁ、行ってみれば分かるか。

「これ、どうやって持って帰りますか?」
「あ? そこは問題ない。異空間魔法を使ってスライムたちを収容する」
「・・・異空間、魔法!? そんなのも使えるのですか!?」
「あぁ、使えるぞ。と言うよりかは、俺に使えない魔法はない」
「ほ、本当ですか? なら、なら、重力魔法も、創造魔法も、精神干渉魔法もできるのですか!?」
「何故最後のが出てきたのかは分からないが、その三つもできる。何ならやってみようか?」
「はいっ! 見せてください!」
「なら、最初は重力魔法から見せよう」
「それなら、私を浮かせてくれませんか!? 浮くことに憧れていたんです!」
「あぁ、構わないぞ」

 俺は注文通りに重力魔法を使いマリを徐々に浮かしていく。それなりの高度に達したため、動きを止めて空中で停止させた。暗闇の中でもマリがすごく喜んでいるのが分かる。

「わあぁっ、王都が見えて、すごく気持ちいい! 自由に動けますか!?」
「少しくらいなら自由に動くように設定した。思い通りに動くから動いてみると良い」

 魔法の設定を改変してそう言うと、マリは自由に動き始めた。縦横無尽に動く楽しそうな姿は、今日出会った時に見せていた絶望した顔を感じさせない。これが、年相応の姿なのだろう。人の顔を伺って怯えている姿を、小さい子供がしていいはずがない。・・・俺は絶望と破壊をもたらす人間。いつかマリの親にその真髄を見せなければならないな。

 と言うか、マリはスカートを履いているから、純白のパンツが丸見えになっている。そのことに気が付いているのだろうか。・・・いや気が付いていない。

 俺がパンツを凝視していると、上で自由自在に飛んでいるマリがこちらに気が付いた。最初は嬉しそうな顔をしていたが、俺がどこを見ているのか分かったようでスカートを手で押さえながらこちらへと降りてきた。マリは顔を真っ赤にして、こちらを睨んできた。

「・・・見ました?」
「あぁ、見たぞ」
「ッッ! バカっ!」
「バカとは失礼な。心配するな、お前みたいな小娘に欲情する俺ではない。もう十年くらいは年を重ねてその言葉を言うことだな」
「そういうことじゃなくて、そこは見てないって言うところでしょ!」
「俺はそんなくだらない嘘をつけるほど器用ではない。それよりも創造魔法と精神干渉魔法を見なくていいのか?」
「見ますよ、見たいですよ! さっさとしてください!」
「わがままなお嬢様だ。お望み通り御覧に入れますよ」

 この後、精神干渉魔法でマリが思い描いたものを俺に取り込み、俺の創造魔法で様々なものを作り出した。ぬいぐるみや可愛い衣装など様々であった。



「えっと・・・、クエスト報酬とこちらでの買取を合わせて、銀貨五十枚です。ただのスライムでしたが、スライムの質が良いこともあり、この買取金額となりました。どうぞお受け取りください」
「ありがとう」

 またしても俺の冒険者登録をしてくれた受付の女性がクエストの報酬を渡してくれた。・・・これだけあれば、一泊は余裕でできるか。俺は冒険者ギルドに設置されている机のところで座っているマリの元へと向かい体面に座る。

「ほら」

 そして、受付の女性からもらった袋ごとマリの前に差し出す。

「えっ・・・、これ全部ですよ? アーダムさんの取り分が・・・」
「子供がそんなことを考えるな。俺が良いんだから良いんだよ。それともお前はお金が欲しくないのか?」
「い、いります! ・・・でも、アーダムさんの生活は大丈夫なんですか?」
「俺のことは心配するな。俺がその気になればなんだってできる。お前も俺の魔法を見ただろう? だから必要なマリが持っていれば良いんだ」

 俺は無理やりマリに袋を押し付ける。無理やり押し付けられたマリは渋々受け取った。

「じゃあ、日が昇りそうだから、俺は帰ることにする」
「えっ・・・もうちょっと、もうちょっとだけ、・・・一緒に、いれませんか?」

 マリはもじもじとしながら上目遣いで俺の方を見てくる。しかし、日が昇れば俺にはやるべきことがある。長引くことはやりたくない。

「ダメだ。帰らないといけない」

 立ち上がり、学園へと戻ろうとするが、涙を浮かべているマリが俺の袖をつかんで引き留めてきた。

「どうしても、ですか?」
「あぁ、どうしてもだ。そもそも、明日の夜もまた会えるだろう」
「・・・明日も、会ってくれるんですか? こんな面倒な私に」
「パーティーを組んだんだから、当たり前だろう。また、明日な」

 マリは俺の袖を離し、涙を浮かべていた顔は満面の笑みへと変わり、出会った中で一番いい笑顔をしてきた。

「はい! また明日!」
「ちゃんと宿に泊まって体力を回復させておくんだぞ。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい、アーダムさん。また、明日」

 俺とマリは冒険者ギルドで別れ、俺は学園の中へと戻って行った。

 マリーズ・セゼールか。ふっ、面白そうな子に出会ってしまった。こんなにも育てることにワクワクするのはミシェル以来か。聖衣に見初められし聖なる少女。これが世界にどのような変革をもたらすのか、アーダム・エヴァではないが、見守りたくはなった。
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