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甘すぎる新婚生活

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* * *

「美味しいなあ」

 そう言って、碧斗さんは幸せそうな笑みを浮かべた。

「よかった」

 碧斗さんと一緒に暮らすようになって、一週間が経った。
 突然夫婦になった私たちだけど、新婚生活は順調で和やかな日々が続いている。

 忙しい碧斗さんの帰りは遅くなりがちだが、予定がいない限り食事は自宅で食べてくれる。

 今晩の彼は二十時を過ぎた頃に帰宅できたため、私も一緒に食卓を囲んでいる。メニューは和食で、アジフライをメインに筑前煮やおひたしなどを用意した。

 ひとり暮らしをはじめて必要に迫られて料理をするようになったが、あくまで自己流だ。
 自分が食べるには不満はないものの、果たして彼の口に合うかどうか。不安で、食事のたびに碧斗さんを伺うように見てしまう。

「音羽の味つけは、俺好みだ」

 そうやって彼がいつも褒めてくれるから、料理が好きになってきた。
 なにをつくったら碧斗さんはもっと喜んでくれるだろうか。そんな想像すら楽しくて仕方がない。

 時間に余裕のある夜は、寝支度を整えた後にお互いの話をするのが日課だ。

 ベッドに座る彼の脚の間に私も座らされ、もたれるように促される。恐る恐る従うと、背後から抱き込まれるように彼の腕に包まれた。

 近すぎる距離間にとにかく緊張するが、碧斗さんの温もりを感じているうちに自然と力が抜けていく。

「――そうなのか。てっきり、クラリネットは音羽の希望した楽器だと思っていたよ」

 どちらかという碧斗さんが聞き役にまわり、私があれこれ思い出しながら話をする。

 中学校で吹奏楽部に入ったのがクラリネットとの出会いだが、そもそも演奏に興味はあったものの、挑戦したい楽器を明確には決めていなかった。

「うちの部は、顧問の先生が本人の希望と保護者の意見も聞いて考えていたかな」

 クラリネットは、口に含む部分につけるリードがなければ音を鳴らせない。主に木製のものを使用し、消耗が激しいため頻繁に取り換える必要がある。
 おまけに、天然素材であるがゆえにその品質もまちまちだ。複数枚単位での購入になるが、中には練習用としても使えないものが混ざっている。
 それらの費用は個人持ちになり、積み重なれば大きな負担になる。
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