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甘すぎる新婚生活

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 翌日は碧斗さんの仕事が休みで、かねてから約束していた通り、ふたりで出かける準備をする。

「ようやく、音羽とゆっくりデートができる」

 寒空の下、白い息を吐きだしながら碧斗さんがにっこりとほほ笑んだ。

「デ、デート……」

 結婚前に一緒に出掛けたといえば、結婚式の打ち合わせだったり彼の実家へ顔をだしに行ったりと、デートとは言い難い外出だけだ。完全にふたりきりで過ごした時間も、思い返してみればほとんどない。
 そのついでに食事に誘ってくれたが、あれはデートというよりも労わりの気持ちの方が大きかったように思う。

「私、デートも初めてだわ」

 助手席に乗り込んで、ポツリとこぼす。
 年齢だけはとっくに大人だというのに、経験はまったくともなっていない。

「……本当に?」

 わずかに声を低くした碧斗さんに違和感を抱き、隣へ視線を向けた。

「学生の頃、翔たちと出かけていただろ?」

 前を見据えながら、淡々とした口調で尋ねられる。
 打ち解けられたと思っていたのに、突然彼との間に見えない壁ができたように感じて不安になった。

「そ、それは、テストを頑張ったご褒美に遊園地なんかに行ったけど。あくまで友人としての付き合いで、デートだとは思ってないです」

 なんだか心細くなり、早口で否定する。
 翔君とはあくまで友人関係でしかなく、勘違いしてほしくない。

「そうか。ごめん、変なことを聞いた。それよりそのワンピース、よく似合ってるよ」

 いつもの調子に戻った彼にほっとしながら、自身の服に視線を落とす。

 数日前にこの外出を決めたときから、なにを着ようかと悩んでいた。
 十二月も中旬に差し掛かり、ここ最近は特に冷え込む。だから今日は、オフホワイトの温かなニットワンピースを選んだ。それにダークブラウンのコートと、少しヒールのあるショートブーツを合わせている。

 対する碧斗さんは、ブラックのデニムに白いセーターといういで立ちだ。上にはカジュアルなジャケットを羽織っており、スーツ姿とは違う気負わない雰囲気も素敵で、密かに見惚れていた。

「かわいいよ。俺とのデートのためにその服装を選んでくれたのなら、うれしいな」

「あ、ありがとう」

 張り切り過ぎたかもしれないと後悔しかけていたところに、そんな褒め言葉をかけられる。
 未だに彼の甘い言動に慣れず、窓の外に視線を向けて恥ずかしさをごまかした。
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