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第4話 公爵家の圧力
しおりを挟む会場に突如起こったざわめき。
そのせいでミーナが一身に受けていた注目は、すべてそのざわめきに奪われてしまう。
(はあ? なんなの、あたしよりきれいな子なんているわけないでしょ~?)
ミーナは苛立ちを隠せずに歯軋りしながら、ざわめきに目を向ける。
するとそこにいたのは――
「な……エミリア」
ミーナが声をあげる前に、となりのエドワードがうめき声を漏らす。
それはミーナが虚言で再起不能に追いこんだはずの侯爵令嬢、エドワードの元婚約者エミリア・ファーラットだった。
婚約破棄後は一度も社交界に顔を出さずに引きこもっているらしかったので、完全に社交界から消えたものと思いこんでいたのだが――
(なんでいまさら来てんのよ!? あんたの居場所ねえからっ!)
しかもそのサファイアにもたとえられる美貌は、どういうわけかさらに輝きを増しているようだった。
これまでは慎ましやかなドレスと化粧だったが、公爵令息の婚約者という立場から解きはなたれたからなのか、いまは上品さはありながらもきらびやかな出でたちである。
(あたしに男奪われたくせに……まじで図太い神経してるわ。ここでの一番は、もうこのあたしなんだからっ!)
ミーナはオーガのような形相で歯噛みし、ちらと横を見る。
惚けた顔でエミリアを見ていたエドワードの腕を乱暴にぐいと引き、すぐに全力のすすり泣きをはじめる。
「ふええええん……怖いよお。また虐められちゃう……あの人またあたしの陰口みんなに吹きこむかも~」
「ミーナ……」
エドワードはキリッと真顔になり、エミリアのほうへと進みでた。
エミリアはすでに談笑を始めていたが、そこにエドワードは乱暴に乗りこんでいく。彼の怒りの形相を見て、エミリアを囲む人々は慌てて脇に退いた。
「エドワードさま……」
エミリアはエドワードに気づき、口をきゅっと引きむすぶ。
「よくもまあ、ふてぶてしくも顔を出せたものだな。浮気したうえ、ミーナを虐げていたというのに恥ずかしくないのか。そのように派手な装いで、厚顔無恥にもほどがある」
エドワードは見くだすように言い、高圧的ににらみつける。
だがエミリアは凛とした態度で、
「以前も申しましたが……わたしは浮気も虐めもしていません。そしてこの装いは舞踏会への招待状をくださったかたが、招待状とともに送ってくださった大切なもの。化粧も侍女たちがドレスに合うようにと懸命に考えてくれたものです。わたしはともかく、このドレスや化粧を悪く言うのはやめてくださいませ」
気丈にもそう反論すると、エドワードは忌々しげに舌打ちする。
それから周囲へと視線を移すと、
「こんな最低な嘘つき女とともにいるような人間は……正直、品性を疑うぞ。いやそれどころか、我が公爵家にケンカを売っているとしか思えん。この女と懇意のものがいたら、そういう人間だと父には伝えておこう」
これみよがしに大声で言いはなち、くるりと身をひるがえす。
すると集っていた貴族たちは顔を見合わせ、そそくさとエミリアのそばから離れていった。ディゴリー公爵家は王宮で力を持っている。敵にまわすのは得策ではないと思ったのだろう。
やがてエミリアのそばには、人っ子ひとりいなくなった。
(ぷぷぷ……ざまぁないわ~! あたしに楯突いた罰ね~! これであんたはひとりぼっち……音楽が流れてもダンスパートナーひとり見つけられず、壁の花でいなさい!)
ミーナはエドワードにすがりついて泣き真似をするのを忘れず、これ以上なく意地悪い笑みを浮かべるのだった。
そうして――
ミーナの思惑通りに事は運んだまま、まもなく宮廷楽団が入場し、軽やかな演奏とともに舞踏会が始まる。
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