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第5話 王太子現る
しおりを挟む(……あーあ、せっかくきれいにしてもらったんだけどな)
舞踏会場の片隅でひとりうつむき、大きな息をつくエミリア。
宮廷楽団による軽快な音楽に乗り、出席者がそれぞれパートナーを見つけてダンスホールでダンスに興じるなか、エミリアはミーナの思惑通りに見事に壁の花と化していた。
さきほどのエドワードによる脅迫じみた宣言のあとでも、話しかけてくれるものはいたのだ。
懇意にしている伯爵令嬢やディゴリー公爵家と対立する辺境伯家の紳士、さらには冗談なのか励ますためなのか、エミリアをぜひ妻にと熱心に口説いてくる侯爵令息もいた。
だがエミリアはそれらの人々との会話を早々に打ちきり、少なくとも今日は自分に近づかぬように頼んだ。自分のせいで彼らの立場が悪くなるのは本意ではなかったからだ。
結果、エミリアはそれからずっとひとりで壁際に立ちつくしていた。
(思ったよりもさみしいものね)
これまでの夜会ではエドワードと挨拶回りをしたり彼をフォローしたりで常に忙しい時間を過ごしていた。だからたまにはひとりでゆっくりとできたらと思うこともあった。
だがいざこうしてひとりで過ごしてみると、自身の現在の立場による居づらさもあって、疎外感は桁外れだった。
(まあ……少しの辛抱だし)
そんなふうに思い、舞踏会中は凛とした態度でいなければとエミリアが折れそうな心を立てなおしたそのとき――
「あ、エミリアさま! いたいた~!」
背後から間のぬけた声。
友人か誰かかと少し期待しながら振りかえると、だがそこにいたのは男爵令嬢ミーナ・ラビスリーその人だった。
気持ちの悪いほどに満面の笑みを浮かべ、そそくさと歩み寄ってくる。
エミリアからすれば正直その顔を見るのも嫌だったのだが、エドワードが一緒にいないのは不幸中の幸いである。
エミリアは内心ではやれやれと思いながらも顔には笑みを浮かべ、
「……ミーナさま、ごきげんよう」
「え……まさか、いまっておひとりなんですか~? せっかくこんなにおめかししてきたのに、さすがに可哀想~!」
いま気づいたかのように、わざとらしくそんなことをのたまう。
誰のせいだ、とは思ったものの、嫌な顔をすれば相手がよろこぶだけなので、エミリアは笑みをくずさない。
「いえいえ、人に囲まれていると気疲れしてしまうので、これぐらいがちょうどいいですわ。ありがたいことです」
そんな余裕ありげな返事が気にいらなかったのか、ミーナは顔をゆがめて連続で舌打ちする。
だがすぐに勝ちほこった笑みで、
「……あ、もうすぐ次の曲が始まりますよ。舞踏会、楽しみましょうね~♪」
そんな皮肉をのたまった。
楽しめるわけがないけどね――とでも言うかのように、ミーナはニタリと笑みを深め、くるりと身をひるがえす。
エミリアはなにも言えず、ただその背を見送ることしかできなかった。
だがその刹那だった。
『キャッ……え、え、殿下!?』
『うそっ!? おひさしぶりにお見かけしたわ! なんと麗しいお姿……!』
『かっこいい~~~♡』
ちょうど舞踏会場に、令嬢たちによる黄色いざわめきが起こる。
騒ぎたてる令嬢たちの視線のさきを見ると、舞踏会場へと優雅に足を踏みいれるひとりの青年の姿が目に入る。
美しい、青年だった。
肌は透けるように白く、すらりと上背があり、顔の輪郭はシャープで、そのシルエットはまるで彫像のように理想的。
目、鼻、口――全パーツが完璧な大きさで、完璧な形で、完璧な位置に配置され、美の神が彼だけ贔屓して全力をそそいでつくったのではと疑ってしまうほどに、その面差しは麗しい。
つい見とれるその完璧な容姿は間違いない、国中の女性の憧れ――王太子クラウス・トラフォードその人であった。
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