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第二章~恋人扱編~
♂029 盗み聞き
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フェルディナンの部屋の前までくると、ドアの隙間から薄っすらと部屋の明かりが廊下に漏れているのが見えた。まだフェルディナンも起きていたことが嬉しくて部屋の扉に手を掛けようとした時、フェルディナンとは別の人の声が部屋の中から聞こえてきた。
……誰かいる? こんな真夜中に?
いけないことだとは分かっていても私は好奇心を抑えることが出来なかった。何を話しているのか気になって、私はこそっと部屋の扉に耳を付けると中の会話を盗み聞きしてしまった。
「……まあいい、監視を続けろ。この件は決して外部に知られてはならない」
「はい、フェルディナン様」
「それと……」
「……はい……心得ております……」
部屋の中から聞こえて来る固い口調からして多分相手はフェルディナンの部下だろう。何か重要な報告を受けているような感じだったけれど、扉越しでは内容まではよく聞こえない。
そうして扉に耳を当てていたらフェルディナンの声が聞こえなくなった。あれっ? どうしたんだろう? と扉に付けている耳に意識を集中させていると突然扉が大きく開かれた。
「きゃあっ!」
勢いよく開いた扉から悲鳴を上げて、フェルディナンの部屋に転がる様にして入って来た私を、フェルディナンと話をしていた人物が抱き留めてくれた。
「大丈夫ですか?」
私を気遣う心配そうな声色に私は咄嗟に閉じていた目を開けて自分を支えてくれている人の顔を見た。
その人は驚いた様子で私の腕と腰を掴んで支えてくれていた。栗色の髪にエメラルドのような緑の瞳。全体的に色素の薄い女性のような顔立ちをした美男子。身長は私と同じ160㎝位で少し低め。それも外見年齢的にも私と同じ位に見える。
灰色の外套を羽織っていて着ている服は見えないものの、掴まれた腕からも相当に鍛えられていることが分かる。フェルディナンと同じ戦う者の手をしている。そして私はその人物が誰なのかを知っていた。
乙女ゲーム世界に出てくる攻略対象キャラの内の一人、ライル・エーベルハルト。年は37歳で16歳の私とは21歳差。37歳のライルは信じられないくらい外見年齢が若い。16歳の私と同年代か少し上くらいに見える程の童顔で、小柄で華奢な体付きと少し低めの身長といったいろいろな要素が重なって、外見年齢の若さに更に拍車を掛けている。それも文句の付けようがない位の美少年キャラだった。年齢的には美男子と呼ぶべきなのだろうけれど、何処からどう見てもライルは少年にしか見えない。
「すみません。扉の方から気配を感じたもので……まさか貴方だったとは」
不意を突かれたような顔をして、ライルはその色素の薄い綺麗な顔に驚きを浮かべていた。
彼は王城の図書館で司書として普段は静かに暮らしている。けれどその実態は反逆行為を持つ者の監視役。あらゆる組織に忍び込みその内情を暴き出す彼は密偵の中でも指折りの存在だ。その華奢な外見に似合わず使用する武器は鎖鎌だったりして、確かハードな役回りに外見とのギャップイメージがかなりあるキャラ設定だった。
「……こちらこそ、その……ごめんなさい。ありがとうございます」
私は急いでライルにお礼を言った。いきなり開いた扉に驚いて転倒したけれど、盗み聞きしているのだから当然文句を言うことも出来ない。それも転倒したところを助けてもらったのだから余計にだ。
そうして気まずそうにライルに顔を向けたところで、私は自分の意志ではない別の力によって、抱き留めてくれているライルの腕の中から引きあげられていた。
「……えっ?」
それがフェルディナンによるものだと気付いた時にはもう、フェルディナンの腕の中にスッポリと収められていて、完全に逃げ出しようがない状態に陥っていた。
「ライルここはもういい」
「ええ、分かりました。どうやら私はお邪魔なようですね……それでは失礼します」
ライルは何故か申し訳なさそうな顔をして私を一瞥すると部屋を出て行った。パタンと扉が閉まってフェルディナンと二人きりになる。
「――君はこんな遅い時間帯に私の部屋の前で何をしているんだ?」
ううっ、やってしまった……
話し掛けてくるフェルディナンは真夜中ということもあって夜着ではないものの、ゆったりとした白いシャツに黒い光沢のあるズボンというとてもラフな格好をしていた。
「あ、あのっ! これはですね」
「盗み聞きとは感心しないな」
「……ごめんなさい」
「それもこんな恰好でか……」
盗み聞きしていたことの言い訳を考える暇もなく、恐ろしい程の低音でそう言ったフェルディナンの顔が一瞬、雄の顔を覗かせたように見えて総毛立つ程の迫力に息を飲む。フェルディナンは何時も優しく穏やかな印象の紫混じった青い瞳に、今は肉食獣のような鋭い眼光を宿して私を見下ろしていた。
「一体何を考えている?」
私は薄い夜着一枚だけの恰好でフェルディナンの部屋を訪れていた。シルクのような手触りの良い繊細な作りのレースが編み込まれているワンピースタイプのそれは、両肩が剥き出しになっていてそのまま外を出歩くのは危ない恰好だった。
「その……って、きゃあっ! あっ、あのフェルディナン降ろしてっ」
フェルディナンは何も言わずに私を抱き上げ直した。お姫様抱っこにされて顔と顔の距離を詰められてしまう。フェルディナンは怖い顔をして黙って見ているだけでガッチリと抱き上げたまま降ろしてくれそうにない。
見た目よりも柔らかくてサラサラした金の髪も、整った綺麗な顔立ちもそして美しい紫が混じった青い瞳も、45歳にはとても見えないその整い過ぎた美貌が今は怖い。私は彼の圧倒的な迫力に気圧されて完全に言葉を失ってしまった。
どうしよう……内容なんてほとんど聞こえてなかったんだけど、かなり重要な話をしていたのかも。それを盗み聞きしていたからフェルディナンは怒ってるのかな……?
何でそこまでフェルディナンが怒っているのかはっきりと分からなくて、困って思わず不思議そうな表情を浮かべてフェルディナンを見上げてしまった。その瞬間――私の反応を見たフェルディナンの顔が更に険しい雄のものへと変わった。
「フェルディナン……?」
その変化にビクッと身体を硬直させた私を、フェルディナンはベッドまで抱き上げたまま連れて行くと、ベッドの上に放り投げるようにドサッと降ろした。
「きゃっ!」
フェルディナンは思わず悲鳴を上げた私の腕を掴んで、仰向けで半ば放心状態で横になっている私をひっくり返して俯せにしてしまう。
「えっ!? なっ、何?」
戸惑いに声を上げる私の質問にもフェルディナンは答えてくれない。彼は俯せになっている私の両手を掴むと、今度は私の背中の上で一つにまとめてそのまま片手でベッドに押さえ込んでしまった。そうして完全に私の体の自由を奪ってからフェルディナンは私の耳元へその綺麗な顔を近づけてきた。
「こんな恰好で俺以外の奴に体を触らせるなんて、俺がそれを簡単に許すとでも思っているのか?」
涼しい顔でフェルディナンは足を組んでベッドに腰を掛けながら、片手で軽く私を押さえ付けている。私の耳元で話しているフェルディナンの言葉に、私は何でそんなにフェルディナンが怒っているのかが分かった。後ろから押さえられたままの状態で顔だけをフェルディナンの方に向けておっかなびっくりに尋ねた。
「……ひょっとして、あの人に触られたことを怒ってるの?」
「怒らないと思うのか?」
そう言うフェルディナンの表情は怖かったけど、同時に私はそんな不可抗力なことで怒られている理不尽さにちょっと腹が立ってきた。
「でもあれは助けてもらっただけで、そんなつもりはなかったんだからそんなに怒らなくてもいいと思います」
「そうか」
「だから手を放して」
「……いつになく強気だな」
相変わらずその瞳には嫉妬の炎を燃やしながら。物珍しいものでも見る様に、フェルディナンは私を見下ろしている。
「だって私そこまで悪い事してないもの」
「ほう」
「確かに盗み聞きしたのは悪かったですけど、フェルディナンはそれより触られたことの方を怒っているんでしょ?」
「……――よく分かっているじゃないか」
フェルディナンはそう言って私の顎に手を掛けた。余裕の表情で見下ろしているフェルディナンを見ていると変に対抗心のようなものが生まれてくる。
私はちゃんとフェルディナンのこと好きなのに、どうしてこんなに怒られなきゃならないのっ!
「分かってますよ。だからもういい加減に手を放して」
「――断るといったら?」
「……どうして、……」
「んっ?」
「どうしてそんな意地悪するんですかっ!」
「意地悪、か……そうだな。だが君は俺が普段無理強いしないその意味を分かっているのか?」
そう言うフェルディナンの顔は怒って眉尻を上げてはいるものの、少しだけ何時もの優しくて穏やかな雰囲気に戻っていた。
「……こんな真夜中に、それもそんな恰好で男の部屋に訪ねてきて――それで何も起こらないとでも思っているのか?」
「フェルディナンは、そのっ、……我慢してるの?」
「……していないと思うのか?」
「だって! ずっとキス以外は手を出してこないからその、てっきり平気なのかなって思って……」
「そうか、……どうやら俺は少し君に甘くし過ぎていたようだな」
切なく紫混じった青い瞳を揺らしたと思ったら、フェルディナンは私の手を放して私の身体をベッドの上に起こした。そして私はそのまま彼の膝の上に後ろ向きで座らせられてしまった。
「フェルディナン? ……まだ怒ってるの?」
聞いてもフェルディナンは返事をしてくれない。後ろから私を抱き締めて静かな表情で私を見つめている。そして互いに探るような視線を交わしていたら、少ししてフェルディナンは私の唇に自身の唇を重ねてきた。
初めは優しくゆっくりとした口づけが次第に強さを増していく。強引に唇を割入ってきたフェルディナンの熱い舌が無理やり彼の舌の動きに答えることを強要してくる。それから逃げようとする私の舌を逃すまいとフェルディナンの舌が執拗に私の中で暴れ回って熱くなった唾液が顎を伝う。流れ落ちてシーツを汚してしまった。
「んっ……あっ、まっ……て、やぁ……っ……」
あまりの口づけの深さと激しさに、次第にグチュグチュと卑猥な液体音が部屋の中に反響しはじめた。舌を私の中に激しく出し入れするフェルディナンの動きに、とてもついて行けなくてなすすべもなく彼に身を委ねていると、フェルディナンはその武骨な大人の男の手で私が着ている薄い夜着をビリッと音を立てて一気に引き裂いてしまった。
「――っ!?」
唇を重ねられたまま声を出せない状態で驚きに目を見張っていると、フェルディナンは引き裂いた元は夜着だった布切れを私の身体から剥ぎ取り、全て回収して床の上に放り投げた。
私はフェルディナンが布切れを放り投げた瞬間、一瞬視線が私からそれた隙をついて彼の唇から逃れた。そしてベッドから降りて逃げようとしたところで、また私は彼に簡単に捕まってベッドの上に引き戻されてしまった。
「はなしてっ! いやぁっ!」
フェルディナンによって上半身を剥き出しにされて下半身の下着のみ残された状態で、私は露出した胸元を隠す為に咄嗟にベッドの上に俯ぶせた。けれどそんな私をくすっと笑うフェルディナンの気配を感じて少しだけフェルディナンを振り返った。
「フェル、ディナン……?」
フェルディナンに散々掻きまわされた私の唇はその疲労に上手く動かすことが出来ない。私はこの時、自分の唇が彼の口づけによって艶めかしく誘うような赤い色に染まっていたことにも、そして欲情しているように熱っぽい視線をフェルディナンへ無意識に飛ばしていることに私は気付いていなかった。
「……今どんな顔をしているのか、君は自分でも分かっていないんだろうな」
「か、お……? 何のことを言って……」
フェルディナンは意味が分からないと言いたげ私の視線を受け止めてふぅっと大きく溜息を付いた。そして何かに耐えるように顔を顰めると、フェルディナンは私の背中にその形の良い唇を押し当てて、その大柄な強靭な筋肉に覆われた身体を私の身体に重ねてきた。
*******
激しい口づけの後に待っていたのは、私の背中をその太く長い舌で舐め尽くすように味わう、フェルディナンのあまりにも濃厚な愛撫だった。
「あっ、……いやっ、フェル、ディナ……やめ……て……」
フェルディナンは私が上げる制止の声を聞いても行為をやめようとしない。寧ろ逃げようと暴れて俯せの恰好で彼を拒絶していた体勢をものともせず、そのままフェルディナンは私の剥き出しの背中に舌を這わせながら私の胸元へもその手を伸ばしていく。
「やぁっ……っあ……っ……ひゃんっ!」
胸元に伸ばされたフェルディナンの手が露出した胸を掴んで揉みしだき始めた。シーツに手を伸ばして這いずる様に逃げようとしたら、両手をフェルディナンに片手で押さえ込まれてしまった。フェルディナンは少しも躊躇することなく空いている方の手でまた胸を掴んで揉みしだいていく。
「……ひぁっ、あっ……いやぁっ……フェルディナン……やぁっ」
私はビクビクと快感に体を震わせてしまった。こんなことは本意ではないのに、彼の熱い手が触れる場所全てが喜びを感じて熱くなっていくのが分かる。頬を上気させて、私はフェルディナンの触れてきた手から与えられる快感に必死に耐えながら、小さな震える声で懇願した。
「っ……ごめん、なさ……い……あっ……も……ゆる、し……」
懇願している最中にも、フェルディナンは手と舌を動かし続けている。そうして私に冷たくしているフェルディナンと、愛おしそうに優しくゆっくりと私の背中に舌を這わせるフェルディナンがあまりにも違い過ぎて、どちらが本物の彼なのか分からなくなってしまう。
「お、ねがい、……もう、許し……て……」
私は彼の手に身体をなすがままにされながら、これまでの行為に赤く潤んだ瞳をフェルディナンに向けて再度、懇願した。
再三のお願いにフェルディナンが動きを止めてようやく私の方を見た。フェルディナンの綺麗な紫が混じった青い瞳は、興奮に熱を帯びて怪しく光っている。
下半身の下着だけが残され、上半身を剥き出しにされた無防備な私の腰を、フェルディナンは掴んで自身の方に引き寄せると、無言のまま後ろから私の首筋に顔を埋めた。
「――っ!」
ピリッと痛みが首筋に走って、フェルディナンが前に付けた場所と同じ所にフェルディナンのものだという印の赤い痕をつけたのだと分かった。
その印はもうだいぶ薄れかけていてもうすぐ消えそうな状態だったけれど、フェルディナンは以前私に言った通り、あれからもずっと繰り返し私の首筋に顔を埋めて印を絶やすことなく付け続けている。
「俺がこれ以上月瑠に手を出さないとでも? これでもそう思えるのか君は……」
印を私に付けてからもフェルディナンは私の首筋から顔を上げずに私の耳元で囁くように話をしている。大柄な身体で私を後方からスッポリと抱きしめているフェルディナンの両腕に僅かに力が籠った。
そうして顔を見せてくれないフェルディナンの様子が気になって彼の金の髪を優しく撫でてみる。見た目よりも柔らかいその感触がとても愛おしくて撫で続けていたら、ようやくフェルディナンは私の首筋から顔を上げた。
「少しのことにも嫉妬せずにはいられないくらい、君を愛しているのにどうして君にはそれが分からないんだ」
私を後ろから抱きしめながら真摯な瞳を私に向けているフェルディナンがとても傷ついているように見えてハッとする。
……――何時の間にか私はフェルディナンのことすごく傷つけてしまった。
「ごめんなさいフェルディナン。ごめんなさい。でも私……」
「?」
「いろいろと考え事をしていたら不安になって、だから、その……」
「……月瑠?」
どうしたのかと少し心配そうな顔をして私を覗き込んでくるフェルディナンにどうしてもこれだけは言いたかった。これ以上フェルディナンのことを傷つけたくなかった。
「フェルディナンにどうしても会いたかったの」
フェルディナンは驚いた様に紫混じった青い瞳を瞬かせた。
「……無意識に男を煽ってばかりの君を心配するなという方が無理がある。それも普段からあれだけ唇を重ねて、愛していると囁いても君はまだ俺を安全だと思い切っているなんて――全くままならないな」
静かな口調で思いを吐露しながら、少しだけフェルディナンは安心したような目で私を見たけれど、彼は許してくれる気も逃がしてくれる気もなかった。
フェルディナンは私を仰向けにしてそのままベッドにゆっくりと押し倒した。そしてスッポリと私の上に覆いかぶさってしまう。分厚い筋肉に覆われた体がズッシリと私の上に重なり、フェルディナンの熱さと鼓動が直に体に伝わってくる。
私の秘所に彼のモノを当てられて表面を擦りあげられる。布越しに感じる彼のモノの大きさと擦れ合う気持ちの良さに身体がビクッと快感を覚えて、痙攣するように小刻みに体を震わせて反応してしまう。
「あっ……」
ベッドがギシギシと揺れ続ける中、雄の顔と匂いを漂わせたフェルディナンの私を求める強さと、少しずつフェルディナンのものにされていく、ものになっていくその生々しさに私はフェルディナンの下で震える指先を彼に伸ばした。彼の頬に触れてそれから彼の首筋に両手を絡めた。口づけをねだるようにフェルディナンを自身の方へ引き寄せて私は彼の唇に唇を重ねた。
……誰かいる? こんな真夜中に?
いけないことだとは分かっていても私は好奇心を抑えることが出来なかった。何を話しているのか気になって、私はこそっと部屋の扉に耳を付けると中の会話を盗み聞きしてしまった。
「……まあいい、監視を続けろ。この件は決して外部に知られてはならない」
「はい、フェルディナン様」
「それと……」
「……はい……心得ております……」
部屋の中から聞こえて来る固い口調からして多分相手はフェルディナンの部下だろう。何か重要な報告を受けているような感じだったけれど、扉越しでは内容まではよく聞こえない。
そうして扉に耳を当てていたらフェルディナンの声が聞こえなくなった。あれっ? どうしたんだろう? と扉に付けている耳に意識を集中させていると突然扉が大きく開かれた。
「きゃあっ!」
勢いよく開いた扉から悲鳴を上げて、フェルディナンの部屋に転がる様にして入って来た私を、フェルディナンと話をしていた人物が抱き留めてくれた。
「大丈夫ですか?」
私を気遣う心配そうな声色に私は咄嗟に閉じていた目を開けて自分を支えてくれている人の顔を見た。
その人は驚いた様子で私の腕と腰を掴んで支えてくれていた。栗色の髪にエメラルドのような緑の瞳。全体的に色素の薄い女性のような顔立ちをした美男子。身長は私と同じ160㎝位で少し低め。それも外見年齢的にも私と同じ位に見える。
灰色の外套を羽織っていて着ている服は見えないものの、掴まれた腕からも相当に鍛えられていることが分かる。フェルディナンと同じ戦う者の手をしている。そして私はその人物が誰なのかを知っていた。
乙女ゲーム世界に出てくる攻略対象キャラの内の一人、ライル・エーベルハルト。年は37歳で16歳の私とは21歳差。37歳のライルは信じられないくらい外見年齢が若い。16歳の私と同年代か少し上くらいに見える程の童顔で、小柄で華奢な体付きと少し低めの身長といったいろいろな要素が重なって、外見年齢の若さに更に拍車を掛けている。それも文句の付けようがない位の美少年キャラだった。年齢的には美男子と呼ぶべきなのだろうけれど、何処からどう見てもライルは少年にしか見えない。
「すみません。扉の方から気配を感じたもので……まさか貴方だったとは」
不意を突かれたような顔をして、ライルはその色素の薄い綺麗な顔に驚きを浮かべていた。
彼は王城の図書館で司書として普段は静かに暮らしている。けれどその実態は反逆行為を持つ者の監視役。あらゆる組織に忍び込みその内情を暴き出す彼は密偵の中でも指折りの存在だ。その華奢な外見に似合わず使用する武器は鎖鎌だったりして、確かハードな役回りに外見とのギャップイメージがかなりあるキャラ設定だった。
「……こちらこそ、その……ごめんなさい。ありがとうございます」
私は急いでライルにお礼を言った。いきなり開いた扉に驚いて転倒したけれど、盗み聞きしているのだから当然文句を言うことも出来ない。それも転倒したところを助けてもらったのだから余計にだ。
そうして気まずそうにライルに顔を向けたところで、私は自分の意志ではない別の力によって、抱き留めてくれているライルの腕の中から引きあげられていた。
「……えっ?」
それがフェルディナンによるものだと気付いた時にはもう、フェルディナンの腕の中にスッポリと収められていて、完全に逃げ出しようがない状態に陥っていた。
「ライルここはもういい」
「ええ、分かりました。どうやら私はお邪魔なようですね……それでは失礼します」
ライルは何故か申し訳なさそうな顔をして私を一瞥すると部屋を出て行った。パタンと扉が閉まってフェルディナンと二人きりになる。
「――君はこんな遅い時間帯に私の部屋の前で何をしているんだ?」
ううっ、やってしまった……
話し掛けてくるフェルディナンは真夜中ということもあって夜着ではないものの、ゆったりとした白いシャツに黒い光沢のあるズボンというとてもラフな格好をしていた。
「あ、あのっ! これはですね」
「盗み聞きとは感心しないな」
「……ごめんなさい」
「それもこんな恰好でか……」
盗み聞きしていたことの言い訳を考える暇もなく、恐ろしい程の低音でそう言ったフェルディナンの顔が一瞬、雄の顔を覗かせたように見えて総毛立つ程の迫力に息を飲む。フェルディナンは何時も優しく穏やかな印象の紫混じった青い瞳に、今は肉食獣のような鋭い眼光を宿して私を見下ろしていた。
「一体何を考えている?」
私は薄い夜着一枚だけの恰好でフェルディナンの部屋を訪れていた。シルクのような手触りの良い繊細な作りのレースが編み込まれているワンピースタイプのそれは、両肩が剥き出しになっていてそのまま外を出歩くのは危ない恰好だった。
「その……って、きゃあっ! あっ、あのフェルディナン降ろしてっ」
フェルディナンは何も言わずに私を抱き上げ直した。お姫様抱っこにされて顔と顔の距離を詰められてしまう。フェルディナンは怖い顔をして黙って見ているだけでガッチリと抱き上げたまま降ろしてくれそうにない。
見た目よりも柔らかくてサラサラした金の髪も、整った綺麗な顔立ちもそして美しい紫が混じった青い瞳も、45歳にはとても見えないその整い過ぎた美貌が今は怖い。私は彼の圧倒的な迫力に気圧されて完全に言葉を失ってしまった。
どうしよう……内容なんてほとんど聞こえてなかったんだけど、かなり重要な話をしていたのかも。それを盗み聞きしていたからフェルディナンは怒ってるのかな……?
何でそこまでフェルディナンが怒っているのかはっきりと分からなくて、困って思わず不思議そうな表情を浮かべてフェルディナンを見上げてしまった。その瞬間――私の反応を見たフェルディナンの顔が更に険しい雄のものへと変わった。
「フェルディナン……?」
その変化にビクッと身体を硬直させた私を、フェルディナンはベッドまで抱き上げたまま連れて行くと、ベッドの上に放り投げるようにドサッと降ろした。
「きゃっ!」
フェルディナンは思わず悲鳴を上げた私の腕を掴んで、仰向けで半ば放心状態で横になっている私をひっくり返して俯せにしてしまう。
「えっ!? なっ、何?」
戸惑いに声を上げる私の質問にもフェルディナンは答えてくれない。彼は俯せになっている私の両手を掴むと、今度は私の背中の上で一つにまとめてそのまま片手でベッドに押さえ込んでしまった。そうして完全に私の体の自由を奪ってからフェルディナンは私の耳元へその綺麗な顔を近づけてきた。
「こんな恰好で俺以外の奴に体を触らせるなんて、俺がそれを簡単に許すとでも思っているのか?」
涼しい顔でフェルディナンは足を組んでベッドに腰を掛けながら、片手で軽く私を押さえ付けている。私の耳元で話しているフェルディナンの言葉に、私は何でそんなにフェルディナンが怒っているのかが分かった。後ろから押さえられたままの状態で顔だけをフェルディナンの方に向けておっかなびっくりに尋ねた。
「……ひょっとして、あの人に触られたことを怒ってるの?」
「怒らないと思うのか?」
そう言うフェルディナンの表情は怖かったけど、同時に私はそんな不可抗力なことで怒られている理不尽さにちょっと腹が立ってきた。
「でもあれは助けてもらっただけで、そんなつもりはなかったんだからそんなに怒らなくてもいいと思います」
「そうか」
「だから手を放して」
「……いつになく強気だな」
相変わらずその瞳には嫉妬の炎を燃やしながら。物珍しいものでも見る様に、フェルディナンは私を見下ろしている。
「だって私そこまで悪い事してないもの」
「ほう」
「確かに盗み聞きしたのは悪かったですけど、フェルディナンはそれより触られたことの方を怒っているんでしょ?」
「……――よく分かっているじゃないか」
フェルディナンはそう言って私の顎に手を掛けた。余裕の表情で見下ろしているフェルディナンを見ていると変に対抗心のようなものが生まれてくる。
私はちゃんとフェルディナンのこと好きなのに、どうしてこんなに怒られなきゃならないのっ!
「分かってますよ。だからもういい加減に手を放して」
「――断るといったら?」
「……どうして、……」
「んっ?」
「どうしてそんな意地悪するんですかっ!」
「意地悪、か……そうだな。だが君は俺が普段無理強いしないその意味を分かっているのか?」
そう言うフェルディナンの顔は怒って眉尻を上げてはいるものの、少しだけ何時もの優しくて穏やかな雰囲気に戻っていた。
「……こんな真夜中に、それもそんな恰好で男の部屋に訪ねてきて――それで何も起こらないとでも思っているのか?」
「フェルディナンは、そのっ、……我慢してるの?」
「……していないと思うのか?」
「だって! ずっとキス以外は手を出してこないからその、てっきり平気なのかなって思って……」
「そうか、……どうやら俺は少し君に甘くし過ぎていたようだな」
切なく紫混じった青い瞳を揺らしたと思ったら、フェルディナンは私の手を放して私の身体をベッドの上に起こした。そして私はそのまま彼の膝の上に後ろ向きで座らせられてしまった。
「フェルディナン? ……まだ怒ってるの?」
聞いてもフェルディナンは返事をしてくれない。後ろから私を抱き締めて静かな表情で私を見つめている。そして互いに探るような視線を交わしていたら、少ししてフェルディナンは私の唇に自身の唇を重ねてきた。
初めは優しくゆっくりとした口づけが次第に強さを増していく。強引に唇を割入ってきたフェルディナンの熱い舌が無理やり彼の舌の動きに答えることを強要してくる。それから逃げようとする私の舌を逃すまいとフェルディナンの舌が執拗に私の中で暴れ回って熱くなった唾液が顎を伝う。流れ落ちてシーツを汚してしまった。
「んっ……あっ、まっ……て、やぁ……っ……」
あまりの口づけの深さと激しさに、次第にグチュグチュと卑猥な液体音が部屋の中に反響しはじめた。舌を私の中に激しく出し入れするフェルディナンの動きに、とてもついて行けなくてなすすべもなく彼に身を委ねていると、フェルディナンはその武骨な大人の男の手で私が着ている薄い夜着をビリッと音を立てて一気に引き裂いてしまった。
「――っ!?」
唇を重ねられたまま声を出せない状態で驚きに目を見張っていると、フェルディナンは引き裂いた元は夜着だった布切れを私の身体から剥ぎ取り、全て回収して床の上に放り投げた。
私はフェルディナンが布切れを放り投げた瞬間、一瞬視線が私からそれた隙をついて彼の唇から逃れた。そしてベッドから降りて逃げようとしたところで、また私は彼に簡単に捕まってベッドの上に引き戻されてしまった。
「はなしてっ! いやぁっ!」
フェルディナンによって上半身を剥き出しにされて下半身の下着のみ残された状態で、私は露出した胸元を隠す為に咄嗟にベッドの上に俯ぶせた。けれどそんな私をくすっと笑うフェルディナンの気配を感じて少しだけフェルディナンを振り返った。
「フェル、ディナン……?」
フェルディナンに散々掻きまわされた私の唇はその疲労に上手く動かすことが出来ない。私はこの時、自分の唇が彼の口づけによって艶めかしく誘うような赤い色に染まっていたことにも、そして欲情しているように熱っぽい視線をフェルディナンへ無意識に飛ばしていることに私は気付いていなかった。
「……今どんな顔をしているのか、君は自分でも分かっていないんだろうな」
「か、お……? 何のことを言って……」
フェルディナンは意味が分からないと言いたげ私の視線を受け止めてふぅっと大きく溜息を付いた。そして何かに耐えるように顔を顰めると、フェルディナンは私の背中にその形の良い唇を押し当てて、その大柄な強靭な筋肉に覆われた身体を私の身体に重ねてきた。
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激しい口づけの後に待っていたのは、私の背中をその太く長い舌で舐め尽くすように味わう、フェルディナンのあまりにも濃厚な愛撫だった。
「あっ、……いやっ、フェル、ディナ……やめ……て……」
フェルディナンは私が上げる制止の声を聞いても行為をやめようとしない。寧ろ逃げようと暴れて俯せの恰好で彼を拒絶していた体勢をものともせず、そのままフェルディナンは私の剥き出しの背中に舌を這わせながら私の胸元へもその手を伸ばしていく。
「やぁっ……っあ……っ……ひゃんっ!」
胸元に伸ばされたフェルディナンの手が露出した胸を掴んで揉みしだき始めた。シーツに手を伸ばして這いずる様に逃げようとしたら、両手をフェルディナンに片手で押さえ込まれてしまった。フェルディナンは少しも躊躇することなく空いている方の手でまた胸を掴んで揉みしだいていく。
「……ひぁっ、あっ……いやぁっ……フェルディナン……やぁっ」
私はビクビクと快感に体を震わせてしまった。こんなことは本意ではないのに、彼の熱い手が触れる場所全てが喜びを感じて熱くなっていくのが分かる。頬を上気させて、私はフェルディナンの触れてきた手から与えられる快感に必死に耐えながら、小さな震える声で懇願した。
「っ……ごめん、なさ……い……あっ……も……ゆる、し……」
懇願している最中にも、フェルディナンは手と舌を動かし続けている。そうして私に冷たくしているフェルディナンと、愛おしそうに優しくゆっくりと私の背中に舌を這わせるフェルディナンがあまりにも違い過ぎて、どちらが本物の彼なのか分からなくなってしまう。
「お、ねがい、……もう、許し……て……」
私は彼の手に身体をなすがままにされながら、これまでの行為に赤く潤んだ瞳をフェルディナンに向けて再度、懇願した。
再三のお願いにフェルディナンが動きを止めてようやく私の方を見た。フェルディナンの綺麗な紫が混じった青い瞳は、興奮に熱を帯びて怪しく光っている。
下半身の下着だけが残され、上半身を剥き出しにされた無防備な私の腰を、フェルディナンは掴んで自身の方に引き寄せると、無言のまま後ろから私の首筋に顔を埋めた。
「――っ!」
ピリッと痛みが首筋に走って、フェルディナンが前に付けた場所と同じ所にフェルディナンのものだという印の赤い痕をつけたのだと分かった。
その印はもうだいぶ薄れかけていてもうすぐ消えそうな状態だったけれど、フェルディナンは以前私に言った通り、あれからもずっと繰り返し私の首筋に顔を埋めて印を絶やすことなく付け続けている。
「俺がこれ以上月瑠に手を出さないとでも? これでもそう思えるのか君は……」
印を私に付けてからもフェルディナンは私の首筋から顔を上げずに私の耳元で囁くように話をしている。大柄な身体で私を後方からスッポリと抱きしめているフェルディナンの両腕に僅かに力が籠った。
そうして顔を見せてくれないフェルディナンの様子が気になって彼の金の髪を優しく撫でてみる。見た目よりも柔らかいその感触がとても愛おしくて撫で続けていたら、ようやくフェルディナンは私の首筋から顔を上げた。
「少しのことにも嫉妬せずにはいられないくらい、君を愛しているのにどうして君にはそれが分からないんだ」
私を後ろから抱きしめながら真摯な瞳を私に向けているフェルディナンがとても傷ついているように見えてハッとする。
……――何時の間にか私はフェルディナンのことすごく傷つけてしまった。
「ごめんなさいフェルディナン。ごめんなさい。でも私……」
「?」
「いろいろと考え事をしていたら不安になって、だから、その……」
「……月瑠?」
どうしたのかと少し心配そうな顔をして私を覗き込んでくるフェルディナンにどうしてもこれだけは言いたかった。これ以上フェルディナンのことを傷つけたくなかった。
「フェルディナンにどうしても会いたかったの」
フェルディナンは驚いた様に紫混じった青い瞳を瞬かせた。
「……無意識に男を煽ってばかりの君を心配するなという方が無理がある。それも普段からあれだけ唇を重ねて、愛していると囁いても君はまだ俺を安全だと思い切っているなんて――全くままならないな」
静かな口調で思いを吐露しながら、少しだけフェルディナンは安心したような目で私を見たけれど、彼は許してくれる気も逃がしてくれる気もなかった。
フェルディナンは私を仰向けにしてそのままベッドにゆっくりと押し倒した。そしてスッポリと私の上に覆いかぶさってしまう。分厚い筋肉に覆われた体がズッシリと私の上に重なり、フェルディナンの熱さと鼓動が直に体に伝わってくる。
私の秘所に彼のモノを当てられて表面を擦りあげられる。布越しに感じる彼のモノの大きさと擦れ合う気持ちの良さに身体がビクッと快感を覚えて、痙攣するように小刻みに体を震わせて反応してしまう。
「あっ……」
ベッドがギシギシと揺れ続ける中、雄の顔と匂いを漂わせたフェルディナンの私を求める強さと、少しずつフェルディナンのものにされていく、ものになっていくその生々しさに私はフェルディナンの下で震える指先を彼に伸ばした。彼の頬に触れてそれから彼の首筋に両手を絡めた。口づけをねだるようにフェルディナンを自身の方へ引き寄せて私は彼の唇に唇を重ねた。
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