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第1章

37. 友達

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「フェル、待ってくれ!話をしよう!」

そうカラマス君が叫んでいる。

僕はそれに聞こえないフリをして黙々と歩き、用意されていた部屋へ戻ると荷物をまとめ始めた。その間にカラマス君が僕に追いつき、必死に止めようとしている。

「フェル、お爺様が失礼なことばかり言って済まなかった!俺がきちんと説明してお爺様には謝罪させるから、もうしばらく待ってくれ!」

そう僕に話しかけてきたが、僕はその言葉を無視し準備が整うと「エリー、帰ろう。」と扉に控えていたエリーに声を掛け、部屋を出て行った。

僕が廊下を歩く横をカラマス君は必死についてくる。

「フェル、待ってくれ!話を聞いてくれ!お爺様に婚約の話をお願いしたのは俺なんだ。」

その言葉に僕はピタリと立ち止まり、カラマス君の方を見た。

「あの日、フェルのことが好きになった俺はお爺様に相談したんだ。そしたら任せてくれ、と言ってくれたからてっきり賛成してると思ってた。だからフェルがお爺様に会いたいって言ってくれて嬉しかったんだ。なのに…こんなことになるなんて…。本当にゴメン!謝って済む問題じゃないけど、謝らせてくれ、本当にすまなかった!」

とカラマス君は僕に頭を下げた。

僕はそれを見て、いくらか冷静になる。

「(いい歳した大人が10歳の子に頭を下げさせるなんて…。)
はぁー…もういいよ。カラマス君が悪いわけじゃないし。でも、僕はプレス様に嫌われていることには変わりないから今後、この家に来ることはないよ。それにカラマス君とは友達でいたいけど、プレス様が反対するなら、婚約どころか友達でもいられないし…。」

と僕が言うと「嫌だ!せめて今は友達でいたい!」と抱き着いてきた。

僕もそれを抱き締め返し「わかってるよ、僕だって友達やめたくない。」と答える。

暫く抱き合っていた僕達だったが、僕から手を離し「じゃあ、そろそろ本当に帰るね。リーフ様には謝ってもらってもいいかな?ご迷惑おかけしました、って。プレス様は…誤解が解けていたらそれでいいよ。」

「迷惑だなんて思ってないからな!わかった…伝えとく。」

「うん、宜しくね。」

カラマス君は僕達を姿が見えなくなるまで手を振って最後まで見送ってくれた。





帰宅した僕は案の定、そのままベッドへ直行する。

「色々とあり過ぎだよ…それにしてもお尻痛い…。」

その言葉と共に僕は仮眠を取る為、ベッドに突っ伏した。







その日の夕食時からロザリーナ姉様のいない食卓となった。

「(はぁ~姉様にこれから会い辛くなるな…。いくらアミリス様と姉様の屋敷が別にあるとしてもセイボリー家に近いところに構えてるしね。姉様がこちらに帰って来るまで我慢だ。)」

と僕は溜息を吐く。

「フェル、大丈夫かい?疲れてるんだから今日は早く休むんだよ?」

「そうね。長旅だったもの…無理しないようにね。」

そう父様と母様に心配される。

「うん…ありがとう。
(それだけじゃないんだけどね…。でも結果的には婚約が白紙になったのはいいことなのかな…?まぁ終わり方は最悪だったけど…。)」

「フェル、今日はゆっくり休んで明日にでもあの話を聞かせておくれ。」

そう父親に言われたので「わかった。それじゃあ今日はもう休むね、おやすみなさい。」と皆に声をかけ、部屋に戻った。




僕は部屋に戻るとソファーに座り、体育座りをする。僕の1番落ち着く体勢だ。その体勢のまま、昨日から今日の出来事を振り返る。なんとも濃い一日だった。

「(一応、婚約が白紙になったからタジェット兄様の監禁ルートはなくなったかな…?けど、まだディル兄様が残ってるし…。最近、なんとなくタジェット兄様の扱い方…というかあしらい方はわかってきたけどディル兄様はまだよく分かんないや。飄々としてる感じだけど、怒ったら手が付けられないのはタジェット兄様も同じだし、気をつけとかないと。
…あっ!今日からタジェット兄様とキスしないといけなかった…!ちゃんと決めてなかったけど、僕が兄様の部屋に行かないといけないのかな…?まぁタジェット兄様のことだから自分で来そうだけど…。)」

と思った瞬間、部屋の扉をノックする音がした。

僕が返事をするとやはり、タジェット兄様が顔を出す。

兄様を部屋に招き入れると「疲れている時にゴメンね。結果だけでも聞きたくて…。」と謝ってきた。

「大丈夫だよ。僕も兄様の部屋に行こうと思ってたし…。結果的には婚約話は白紙になったよ。だからカラマス君とは友達になったんだ。…納得してくれた?
(将来お互いが大きくなったらまた婚約話が出てくるかも、とは言わないとこう…。)」

「そっか…良かった!ありがとう、フェル。頑張って説得してくれたんだね?」

と兄様はソファーに座っている僕を抱き締める。

「うん…そうだね…。」

本当の中身は違うが結果的に白紙になったのは変わらないので、敢えて言わないことにする。

「流石フェルだね。私の為、と自惚れてもいい…?」

と兄様は笑みを浮かべ、僕の唇を指でなぞった。

僕が「あ…」と口を開いた時には、兄様の唇で塞がれる。
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