たましいの救済を求めて

手塚エマ

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第二章 痕跡

第一話 ただいま

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 圭吾の施術を三十分受け、正規の料金を支払うと、麻子は指先まで身体がぽかぽかするのを感じながら家路についた。
 圭吾はいつも「金はいいよ」と拒否するのだが、圭吾はプロだ。
 そのプロからのサービスを無料で利用するなんて、プロフェッショナルへの 不敬ふけいにあたる気がして、麻子も断り続けている。

  施術料の五千円は、前もって買っていた十枚綴りのチケットで精算し、店先で圭吾に見送られながら地下鉄の駅に向かう足を速めた。
 

 泥酔客もちらほら見られる地下鉄を、自宅の最寄り駅で下車すると、大通りに沿って少し歩き、表通りを逸れて住宅街に続く路地に入り、薄暗い坂道を上がりかけた所で携帯をチェックする。

 白い外灯が、等間隔で照らし出す坂の端を歩きつつ眺めていた時、圭吾からのラインがあった。

『今、着いた。そっちは?』
 
 整体院から徒歩で十分ほど離れたマンションに帰った圭吾の方が、早く家に着いたらしい。
 麻子は『今日も遅くまでありがとう。すごく楽になった』等々、片手で打ち込み、自宅マンションの共同玄関に到着した。
 
 駅から徒歩圏内とあって、タワーマンションが建ち並ぶ一角は、静まり返って人影もない。
 麻子は圭吾に『おやすみ』を最後に送り、ラインを止めた。

 エントランスからエレベーターに移動して、壁の昇降ボタンを押しながら上を見る。
 六階で止まったケージが下りてくる。
 扉が開かれると同時に乗り込んで、六階までノンストップで上昇した。
 
 程なく到着した六階の外廊下をまっすぐ進み、角部屋に当たる自宅の玄関ドアに麻子は鍵を差し込んだ。

「ただいま」
 
 と、声に出してドアを引き開けながら、麻子は「ん?」と、目を上げた。
 
 大学進学を機にして実家を離れ、何度か引っ越しした。
 一人暮らしも長くなり、「行ってきます」も「ただいま」も、口にしなくなっていた。

 それなのに、どうして今日は言ったのか。

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