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第十一章 崩壊
第十話 普通じゃない
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第三面接室に通されたのは、主人格の羽藤柚季だ。
そして浮かない顔つきだ。
面談の定位置についたあと、三分ほど沈黙していた羽藤の瞬きが激しくなる。麻子は交代人格に入れ替わるのかと、身構えた。
けれども今日は羽藤のままで、おずおずと言い出した。
「先週ぐらいから変な声が頭の中で、するんです」
恥辱を忍ぶようにして、変な声を説明する。
「長澤先生に隠しても無駄だって。先生はもう知ってるからって、言うんです。耳元で囁かれるとか、そういった感じじゃなくて。あの……。なんか。頭の中でする声、みたいな」
「男性ですか? 女性ですか?」
「……男性っていうか。もうちょっと、あの。下の感じの……」
おそらく声は、交代人格のものだろう。男性と言えるほど成熟してはいないなら、彰《あきら》ではなく、柚季の揺さぶりかもしれない。
「これって、幻聴なんですか?」
「そうですね。それを聞いて、どんな気持ちになりました?」
幻聴かどうかを検証しても意味がない。
羽藤は何をカウンセラーに知られていると考えたのかが話の筋だ。
羽藤は麻子を上目使いに一瞥した。
打ち明けるべきか、沈黙を通すべきかで迷っている。
警察で、罪の自白をすべきかどうかで逡巡している被疑者のように俯いた。
「僕。最初にエレベーターで先生に会った時、気づいてないといいけどなって思っていました。先生に黙っていたのは、謝ります」
「謝らなくてもいいですよ。ここでは、羽藤さんが話したいことを話す場所です。そのための時間です。話したくないことまで話す必要は、ないですよ」
人差し指の吐きダコも、見られていたと囁かれ、自分が黙っているよりも、指摘をされすにいる方が、苦しくなっているのだろう。
けれども羞恥の方が勝っている。だから、気持ちを聞いたのだ。
「僕は普通じゃないんですね……」
そして浮かない顔つきだ。
面談の定位置についたあと、三分ほど沈黙していた羽藤の瞬きが激しくなる。麻子は交代人格に入れ替わるのかと、身構えた。
けれども今日は羽藤のままで、おずおずと言い出した。
「先週ぐらいから変な声が頭の中で、するんです」
恥辱を忍ぶようにして、変な声を説明する。
「長澤先生に隠しても無駄だって。先生はもう知ってるからって、言うんです。耳元で囁かれるとか、そういった感じじゃなくて。あの……。なんか。頭の中でする声、みたいな」
「男性ですか? 女性ですか?」
「……男性っていうか。もうちょっと、あの。下の感じの……」
おそらく声は、交代人格のものだろう。男性と言えるほど成熟してはいないなら、彰《あきら》ではなく、柚季の揺さぶりかもしれない。
「これって、幻聴なんですか?」
「そうですね。それを聞いて、どんな気持ちになりました?」
幻聴かどうかを検証しても意味がない。
羽藤は何をカウンセラーに知られていると考えたのかが話の筋だ。
羽藤は麻子を上目使いに一瞥した。
打ち明けるべきか、沈黙を通すべきかで迷っている。
警察で、罪の自白をすべきかどうかで逡巡している被疑者のように俯いた。
「僕。最初にエレベーターで先生に会った時、気づいてないといいけどなって思っていました。先生に黙っていたのは、謝ります」
「謝らなくてもいいですよ。ここでは、羽藤さんが話したいことを話す場所です。そのための時間です。話したくないことまで話す必要は、ないですよ」
人差し指の吐きダコも、見られていたと囁かれ、自分が黙っているよりも、指摘をされすにいる方が、苦しくなっているのだろう。
けれども羞恥の方が勝っている。だから、気持ちを聞いたのだ。
「僕は普通じゃないんですね……」
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