たましいの救済を求めて

手塚エマ

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第十二章 告白 

第九話 柚希の許可

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 どうしてそんな悲観的になるのかを聞こうとした時、一瞬伏し目になった紘が目を上げた。
 紘は、そこにはもういない。
 この目のひらめき、明るさは日菜子のものだ。

「あのね。羽藤がずっと怒っているから出してやれって、が言ったの。紘が勝手に引っ込んだんじゃないってことも、教えてやれだって。先生に」
「柚季君が?」
「そう。。だったら自分で言えばいいのに、ねえ? 先生」

 柚季は今日の十一時からの面談予定も入っている。
 だから今は羽藤柚季に潜伏し、人格の交代の指揮をとる。カウンセリングに都合が良いよう、柚季は流れを読んでいる。

「じゃあ、私。引っ込むね。ホントは先生と、もっとしゃべりたいけど、お前の話は中身がないから無駄だって、が言うの。ひどいでしょう?」
「そんなこと」

 日菜子に対する侮辱に抗議しかけた直後には、羽藤柚季に代わっていた。
 憤然とした面持ちで、麻子を横目で睨んでいる。そしてテーブルに置かれた画用紙と、書かれた文字にも目線を移す。

「今も二十分ぐらい、何をここでしたのかを覚えていません。こういうことがなくならないよう、早く治療して下さい」
「治療はね。しないんですよ」
「言葉の擦り替え、やめて下さい」
「羽藤柚季という人が、どんな道筋をたどりながら、あなた自身を作りあげていくのかを、見届けるのが私の役目なんですよ」
「何もしないでいるだけだったら、カウンセラーなんて、いる意味ないじゃないですか」

 ここで議論を交わしても、羽藤の怒りは収まらないはず。
 自分の記憶や時間を他者に盗まれることを怒っている。
 
「自分が何をしていたのかが、わからないのは焦るし、不安だと思います。だから、私が一緒にいるんです。羽藤さんは、誰かに操られるようにして、自分が望んでもいないことを、長い間させられてきた人ですから」

 闇雲だった羽藤の言葉の攻撃が、ふいに止む。虚を突かれたような顔でもあり、憎々しげな顔つきでもある。
 この頃、羽藤はこういう態度を見せるようになっている。
 不貞腐れてでもいるような。
 むくれて黙っているような、不遜ふそんな態度だ。
 
 初回の頃の良家の子息、優等生の見本のような羽藤柚季はりをひそめ、生きた子供になっている。

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