たましいの救済を求めて

手塚エマ

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第十二章 告白 

第二十二話 私が私を尊重する

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 多重人格障害の交代人格に、平等に接することは難しい。
 いちばん深く傷ついた者に比重を置いてしまっている。

 このままカウンセリングを進めれば、過去の記憶の大部分は、羽藤柚季が認識できるようになるだろう。だが、そのために柚季を犠牲にするというのなら、全力で阻止するだろう。
 彼も羽藤柚季の一人であること。
 それを日菜子に、彰に、わかってもらえるのだろうか。

 単なる贔屓目ひいきめになってはいないのか。

 そうだとするなら、日菜子や彰が黙ってはいないだろう。カウンセラーのするべきことは、柚季を説得することなのだろうか。それとも日菜子や彰にわかってもらうことなのか。
 いや、違う。
 するべきだという道を選べば、マリアのようになるだろう。

 私は、今この瞬間に全身全霊を傾ける。それなら私は、どうしたいのか。それも意思決定のひとつとして、私が尊重しなければ、ここにいる意味がない。

「次の面談……、その次の面談でも、話し合わせて。誰の意思も踏みにじらない選択が必ずあります」

 柚季の肩に額を預けて麻子は、彼を抱く腕に力を込めて懇願した。
 柚季と日菜子と彰は、意思疎通が出来ている。
 麻子は柚季を通して、ふたりに向かって話をしている。しかし、分身の柚季の中から、日菜子と彰は出られない。
 あくまでも、主人格の中の一人としてでしか、話し合えない。
 それまで待っていてくれるのか?

 その時、一陣の風が吹くようにして麻子の腕の間から、柚季が消えた。時計を見ると、午前零時だ。麻子の腕は柚季を抱いたままの形で硬直している。

 柚季が消えた。目の前で。
 そんなことは一度もなかった。いつの間にか、そこにいたり、気づいた時にはいなかった。それがホーストコピーなのだと勝手に思いこんでいた。

 それなのに。

 最悪のシナリオが麻子の中で書きつづられる。
 問答無用で日菜子と彰が連れ去ったのでは。カウンセラーの私の声は二人に届かなかったということか?

 麻子は電気も点されなかった面接室で立ちつくす。
 これで終わってしまうのか?
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