皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ

文字の大きさ
52 / 306
第二章 死がふたりを分かつとも

第28話 ダビデの動揺

しおりを挟む
「……貴様」

 ダビデが不意に足を止めた。
 声音は、あきらかに動揺している。

 二の腕をダビデに掴まれたサリオンは、その場に崩れ落ちて膝を着き、人形のようにぶら下げられて項垂れた。周りでは、護衛兵も立ち止まり、息を呑むような気配がした。

 けれども誰も腰の剣を抜こうとしない。
 朦朧とする意識の端で、サリオンはそれを いぶかしむ。


 たった一人で一団の行く手を阻止した無謀な輩やからは誰なのか。

 提督に対して剣を抜き、待ち構えてでもいたかのような暴漢を、なぜ誰も威嚇しようとしないのか。


「サリオンを、どうするつもりだ?」

 気詰まりな沈黙を破った男の声音に、挑むような響きがある。

「……アルベルト」


 よろめくように退いた、ダビデが発した一言に、サリオンは覚醒したように目を剥いた。
 
 饗宴の間が連なる南館への入館を、渡り廊下の中央で、阻止していたのは皇帝だ。

 軍人のダビデに引けを取らない、恵まれた体躯に優れた長身。
 雄々しい神々を模した絵のように秀麗な美貌の持ち主が、火を噴きそうな顔つきで、そこにいた。


 見間違いでも、聞き間違いでもなかったアルベルトが、そこにいる。
 けれども、サリオンは目に飛び込んだ映像を、咄嗟に頭で否定した。ついさっき、アルベルトはレナの寝所に入ったばかりだ。
 ベッドでレナにあらゆる手管で奉仕され、世継ぎ作りに専念しているはずだった。

 
 真っ只中のはずなのに、 貫頭衣かんとういの上に、幾層にも丁寧に折り畳まれた絹のトガを重ね合わせ、左の肘で悠然と抱えている。

 柔らかい亜麻色の髪も乾いたままだ。
 レナとの情事を済ませたような痕跡は、何ひとつ見られない。

 あっけにとられるサリオンに、慈しむような一瞥を向けた後、アルベルトは再びダビデを睨み据えた。
 それだけでダビデは一歩更に後退した。


「ど……う、して、ここに。貴様はレナと……」
「その前にサリオンの腕を離せ。離して剣も床に置き、護衛兵を全員、本館に戻らせろ。俺は、お前と話がある」

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

処理中です...